菅谷勇利5

砂浜は殺風景で、狭い。


泥と砂利でできた、湿り気のありそうな足場は、30m 程度しか横幅がない。


縦幅も短く、波は浜を何度も呑みこんでいる。


「スガッチさん、ここが言ってたカメラスポットですか?」

インスタの写真活動用アカウントから知り合った30代の男性が言う。


「そうです。なんもないように見えるんですけど、思い入れのある場所で、しかも、こういう曇りの日、なんか似合うでしょ」僕は言った。


「あー、たしかに。ちょっと悲しい感じのね。なんかこう、ヨーロッパの、わりと悲劇的な映画を彷彿ほうふつとさせる場所ですね」ミナガワさんは言った。


ミナガワさんはスマホを取り出し、一枚撮った。


「あれ、スマホですか?」と僕が聞くと

「ああ、インスタの別アカウントでね、iPhoneだけでどこまでいい写真撮れるか実験してるんですよ」

「あー、たしかに最近のスマホ、画質とかやばいですもんね」

「うん」


ここにいると、無性にパンが食べたくなる。

しかし、以前は営業していた砂浜近くの酒屋にはシャッターが下ろされていたため、僕はしかたなくパーキングエリアで買っていたチョコレートをバッグから取り出した。


「そういえば、どうですか、新卒の生活は」

ミナガワさんは海の写真や映像を撮りつつ、僕に話しかけた。彼の短い髪は風に揺れない。


「そうですね、思ったより順調です。こうやって週末には遊びに行けますし、残業もそれほどないので」

ミナガワさんは「おー」と嬉しそうな顔で言って、「やっぱ時代的に、最近はそうですよねー。僕の時なんて最初の一年は地獄みたいにきつかったけど」と彼は笑った。


-こんなおじさんじゃなくて、望海とまたここに来たいな-

お前、いたのか。

-いつだっているよ。ぼくちんの中に住んでるんだからさ-

まあそうなんだけど。

-でも、このおじさん、-

ミナガワさんな。

-ミナガワさん、意外と気が合うよな-

うん。

-カメラは好きだし、休日にも気軽に遊んでくれるしさ、話だってうざさがないよね。それに、こうほっこりするというか-

そうだな。インスタから実際に会うとか、しかも同性となんてさ、考えたこともなかったけど、楽しいもんだな。

-いや、この人だからだと思うけどな。こんな気の合う友達は、手放さないようにな、ぼくちん-

分かってるよ。

-これまで女を手放しまくってるぼくちんを、俺は信じられないよ-

でもこの人は男だろ。基本、性欲が俺をダメにしてたけどさ、それがなけりゃ人間関係得意なんだよ、俺。

-強がるね-


波は僕らの裸足を呑んでは帰っていき、曇りのくせにまだまだ暑い夏の中、十分な涼しさを与えてくれる。

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