倉田望海2

「ただいまー」

私が言うと、父が「おー、おけーり」と言った。


15畳ほどあるリビングルームでは、母がせっせと夕食の片づけをしていて、父はそれを当然のように無視して新聞を見ている。両親は無言で、コロナ患者数の急増について語る夜のニュース番組の音と、食器を洗う音がただ響き渡る。


私がダイニングテーブルに乗せられたいくつかの皿のラップをはがす時、母は私が帰ってきたことにやっと気づいた。

彼女はイヤホンを外し、

「あ、コロッケ冷めちゃったからあっためようか?」

と私に言った。


「あー、いいよ。大丈夫」

私はそう言って、荷物を置きに二階へ行った。


弟の部屋からは、うるさい音楽が聞こえる。最近は洋楽にハマっているらしい。


自分の部屋に戻ると、急に疲れがどっと来て、ベッドに横になった。


柔軟剤の匂いがする。


母が家事を全部やってくれていて、少し罪悪感がある。

なぜ父はやらないんだろう。父はフルタイムで仕事しているからかな。いや、母だってパートで働いている。


いらいらするな。弟も何も感じないんだろうし。


「でもいいじゃん、実家暮らし。家事やらないで済むのはでかいよ。自分が楽ならいいじゃんそれで」

この言葉は、誰から言われたんだっけ。


ゆうくんだったか、檜佐木ひさぎさんだったか。

いや、檜佐木さんだな。雰囲気的に。


いつからだろう、この2人に対しての記憶が絡まってきたのは。


でもこれからは、大丈夫だ。檜佐木さんだけと話していればいい。


私は幸せだ。


私は幸せだ。

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