倉田望海1

会社では、日常の匂いがする。私が一生付き合っていく匂いだ。


「倉田さん、昨日送ってくれた議事録なんだけど、2ページ目の行数ずれてたね」と上司が言う。


「あっ、すみません。もっと早く気付くべきでした。ありがとうございます」と私が言う。


「じゃあ、一応直しといて。まあ、あんまり必要ないかもだけど、研修的にね」と再び上司が言う。


自分の将来について、よく考える。

昔は、全然考えていなかった。


私はずっと、自分が平凡であることに気づいていた。

だからこそ、非凡な人についていけば、いつか自分も何かになれると思っていた。もしくは、結婚でもして、お金やら名声やらのおこぼれがもらえると思ってた。


コピー機の音がする。60代の社員がたいして必要もない書類を印刷し、印刷の終了を待つ間、暇そうにコーヒーを飲んでいる。


私が属するのは、結局こっちだ。


でも、デモ、DEMO!!!!


そう思ってから、すごく楽になった。

普通を歩んでいくんだと気づいてから、何事にも自主的になれた。


終わらせるべきものも終わらせて、健康的に、元ある道に戻ることができた。




ゆうくんには悪いことをしたな。


さんざん実験に使って、最後には乱暴に別れちゃった。


それでも、私の人生にはあまりに遠い人だったし、最後の方は一緒にいて辛いだけだったし、これでよかったとは思ってる。


まあ、たしかに、楽しいときもあったけど。


彼はあまりに非凡だったかな。全然ついていけなかった。

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