菅谷勇利4

「好きになってないよ」

僕がそう言うと、”ゆいさん”は「んー、つまんない」と言って僕の頬にキスした。

彼女は続けて僕の耳元で「でも、それなら安心」と言った。


彼女を僕の体から優しく離した。

「君はセックスが好きなの?」と僕は訊いた。

「まあね」

「そうか」と僕は言って、次の言葉を探した。


沈黙が苦手なのか、彼女は玄関に置かれた鏡で自分の髪を確認しつつ、「今日湿気すご」と意味のないことを言った。


「僕はさ、2年近く。そのくらいの間、誰ともしなかった」

-え、望海は?なんで嘘つくんだ、ぼくちん-


「え~、スガくん、枯れてんじゃん」

「そういうことする相手は、僕をイライラさせるから、したくなくなったんだよ」

「どういうこと?」彼女は興味深そうな顔をして僕の話を聞いた。

「みんな一回ヤッたくらいで、説教面してきたり、無駄に親密になろうとしたり、鬱陶しかったんだよね」

「あー」彼女は納得した様子だった。


「でも、ゆいさんは違うよね。まるでセックスがただの動物の交尾みたいだ。そのあとの人間関係を全く感じない」


「いや、てか動物の交尾じゃん。人間だって動物だし」彼女は笑った。


”ゆいさん”は自分の髪を触りつつ、話を続けた。

「私はね、もうなんか、普通にエッチが好きなんだよね。そうじゃないときもあったし、誰かに本気で恋してるときはもちろん、こんなことしないけど。…うん、なんかそんな感じだよ」

「そうなのかなあ」

「うん。私みたいな人いっぱいいると思うよ。…あ、」

彼女が僕をわざとらしく指さして、口を開けた。


「スガくん、遊んでそうな見た目してないから、女の子が勘違いしちゃうんだよ。この人本気かもなあ、少しは私のこと好きなんじゃないのかなあ、可愛いなあって。だから説教とかしてあげたくなるんだよ」


-ぼくちん、これは、イケメンじゃないって言われてるようなもんだぞ-


「そういうものなのかな」

「うん」彼女はそう言って、また沈黙した。


「じゃあ、そろそろ行くね」僕はそう言って、家を出た。

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