菅谷勇利2

駅前はあまり人がいない。あえて人通りの少ないエリアを選んだからだ。僕もコロナにはかかりたくないので。

-ぼくちんも生き方が変わったもんだね-


駅舎には冷たい風が吹き抜ける。8月とは思えない。小雨が降っているせいだろうか。

「スガくん?」

-うわ、思ったよりブスだ。ヤれないなこれは、さすがに-


「おおー、ゆいさん!はじめましてー」

初対面の彼女は身長170㎝ほど、瘦せていて、服装はファストファッションで固めている。マッチングアプリのプロフィールによると、職業は不動産会社の事務、23歳で同い年。


ゆいさんは、今日行こうと約束していた美術館の方向を指さす。

「お。じゃあ、行きますか」僕は言った。


駅から北に、高級住宅街の中を二人で歩いていく。高そうな服を着た中年女性が犬を連れて散歩していたり、庭のある大きな一軒家に部活帰りであろう青年が入っていったり、僕たちとは別世界の人間と時折すれ違う。


-いやいや、ぼくちんだってわかんないぞ。一応良い会社に入れたんだし、今後金持ちになる可能性だってあるだろ-


「スガくんは美術館とかよく行きます?プロフィールには、絵や写真って書いてありましたけど」

「ああ、僕は、たまに行きますね。でも、美術館というよりギャラリーに行くのが多いかな」

「へー、そうなんですね!なんかそういう趣味の人、男性であまりいないのでうれしいですー」

「そうなんですか?意外といるかなあと思ってましたけど」

「んー、少なくとも私の職場にはそういう人いないですねー」

「へー」


-はー、浅い会話だわ。もっと人生について話そうぜ-

いや、無理だろ。まだ会って数分なんだから。

-でも楽しくないよな。このうわべの、趣味関係の会話が何時間も続くと。ぼくちん、深い話が好きなのに深い話に持ってくのすごい下手だよな-




~2時間後~


-あれ?どうしてこうなった?-


いや、僕にもわからん。




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