菅谷勇利1

「ごめんね、ゆうくん」

望海は泣きながら僕の家のソファで僕に抱きついた。


「いいよ。俺も悪かったよ。なんていうか、男っぽくなくてさ」

望海の頭をなでようとしたが、何か気持ち悪さを感じてやめた。


「ほんと、だれか好きな人ができたってわけじゃないんだけど、ただ、このままじゃ二人にとって成長できないなって、そう思ったの」


「そうだな」


僕は淡々と彼女の話を聞いて、受け入れているが、これは表面的に見ればかなり酷い別れ話だ。


望海は大学2年の時から付き合っている、恋人だ。通っている大学が同じで、年齢は彼女の方が浪人しているから年上。今は二人とも新卒1年目の社会人になって、日々仕事に追われている。


そんななか、何の前触れもなく、今日、別れようと告げられた。ハハッ、何か事前に予兆があれば、対策ができたのに。


-その発想がそもそも気持ち悪いんだよ。世の中に向いていないなぼくちんは-


「じゃあさ、もう友達に戻るっていうよりは、二度と会わないって感じ?」

僕は訊いた。

望海は僕の腹部に顔を押し付けたまま、黙っていた。


少し笑いそうになった。


こんなにボディタッチが増えたのはここ最近で、僕らは2年間もプラトニックな関係で、手をつないだりキスをすることで満足していた。


そんなピュアな状態から、急に最近密接な関係になった。彼女から誘ってきた。

それなのに、彼女に急に別れを告げられる。


その様子が、ゴキジェットをかけられた後のせわしないゴキブリのようで、どこか可笑しかった。


-どういうことだよ-

いや、彼らは快感を得て、得すぎてそれに耐えきれず死んでいくんだよ。ゴキジェットで。


-つまり、望海は死んでるの?-

僕の中ではそんな感じ。だってもう会わないだろうしね。


寂しいな。




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