第一期竜王戦自由形

あびす

第一期竜王戦自由形

「さあ始まりました、第一期竜王戦自由形」

「解説は山田正夫名人、聞き手は私小町沙羅でお送り致します」

「よろしくお願いします」

「ところで今回の対局は新たに創設されたタイトル、竜王戦自由形ということですが」

「はい。既存の将棋に囚われない新しい指し方を生み出すということでこのタイトルが創設されました。本来は普通のタイトル戦と同じくタイトル保持者が挑戦者と対局するのですが、新しく創設されたのでタイトル保持者がいないため、第一期は佐藤武雄竜王との対局となります」

「では挑戦者の紹介です。鈴木慎二五段、佐藤竜王との対戦成績はありません。これが初めての対局となっております」

「彼はこれまでの常識を覆すような将棋を差しますからね、存分に実力を発揮して欲しいです」

「振り駒の結果、先手が佐藤竜王に決まりました。それではよろしくお願いします」

「さあ佐藤竜王、初手入る7六歩です」

「まずは定石どおりの一手。様子見と言ったところでしょうか」

「それに対する鈴木五段ですが……」

「えっと……これは……どういうことでしょうか?」

「鈴木五段、手を絡み合わせる謎のポーズをした後、真ん中の歩を裏返しました。いきなり将棋の常識を超えてきますねえ」

「いや、将棋の常識とかそういうレベルの話ではないと思うのですが」

「なるほど、3ターン使って敵陣まで行かずとも駒を成らせることができるようです。これは新しいですねえ。相手にターンを渡すかわりに、こちらの駒を強化する。さらに将棋の世界が広がった気がしますよ」

「これが将棋の世界に導入されることは今後永遠に無いかと思います」

「3ターンかかりますが金が手に入るのは大きいですからね。これを序盤に繰り出すのは上手い手だと思います」

「はあ……」

「佐藤竜王は得た3ターンで王を囲むことにしたようです。彼らしい堅実な戦法ですね」

「真面目に相手をしている佐藤竜王が気の毒になってきました」

「さあここからは未知の戦いですよ」




「さて山田名人、かなり盤面の状況が変わりましたね」

「そうですね、現在の状況は鈴木五段が佐藤竜王の角で王手飛車取りをかけられているというところ。これをどう対処するかですが……」

「あっ鈴木五段、王手飛車取りを無視して他の駒を進めています。まさか気づいていないのでしょうか」

「佐藤竜王、当然王を取りにかかります。ですが……何故か駒が動かないようです」

「….…これはどういうことでしょうか?」

「む、鈴木五段の手元をよく見てください。アロンアルファだ、アロンアルファを持ってます。彼は王手飛車取りをかけられることを予期して駒を貼りつけていたんですよ。なんて深い読みだ」

「将棋盤って数百万するものもあるんですけどね、バカなんですかね」

「これには佐藤竜王も唸っています。しかしあの駒は動かせないので他の駒を進めました」

「もはやどうなるのかわかりません」

「鈴木五段、上機嫌で攻めています。それを冷静に受ける佐藤竜王」

「ここで、鈴木五段が先程王手飛車取りをかけていた佐藤竜王の角を取ろうとしています。していますが……」

「もちろんアロンアルファでくっつけているので取れませんね。流石にここまでは読めなかったか」

「バカしかいないんですかここには」

「おっと、その間に佐藤竜王が王手です。もう逃げ場がないぞ、鈴木五段」

「早く終わらせてくれませんかね」

「おや、またしても無視しています鈴木五段。桂馬を四つ組み合わせて『ナイト』を作っています。まさかゲームの種類まで飛び越えてくるとは」

「確かになぜか桂馬に執着していましたね。そのせいで大駒が取られて自軍はボロボロですが」

「今、佐藤竜王が王を取りました……が、まだ終わっていないようです」

「鈴木五段の王がバラバラに砕けていますね」

「そして中から出てきたのは……王です!鈴木五段は王に鎧を着せることによって攻撃を一度耐えられるようにしたんですね、これは革命的だ」

「もう私リタイアしていいですか?」

「私達は今、将棋の歴史が変わる瞬間を見ているのかもしれません。だがもはや鈴木五段の陣形は壊滅的だ。ここから逆転の目はあるのか」

「鈴木五段、落ち着いてナイトを自軍に向かわせていますね。王を動かさなければどう考えても次のターンで負けるのに何しているんでしょうか。この人本当に五段なんでしょうか」

「そして今、佐藤竜王がが鈴木五段の王を打ち取りました。迄、85手を持ちまして佐藤竜王の勝ちです。いやー接戦でしたね。二人ともやり切ったような笑顔を浮かべています」

「私にはこれが将棋には見えませんでした」

「さあ、次のタイトル戦自由形は何になるんでしょうか。いずれはすべてのタイトルの自由形がでることでしょう。いやあ楽しみですねえ」

「おそらくそうなった時が将棋の終わりなのだと今回の対局を通じて感じました」

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