3.再会と婚約

 シルバー家の皆様のご好意に預かり、久しぶりに安心して、暖かい布団で眠らせてもらいました。追いかけられないって、なんて素晴らしいんでしょう。

 それは置いといて、朝起きて、これからのことを考えます。このままここに住ませてもらいたいのですが、そういうわけには行きません。

 ですが、なんとか私でもできる仕事を紹介して貰いたいところです。


 皆様に挨拶をし、仕事のお話をさせていただこうと思ったのですが、朝ごはんにまで誘ってくださり、本当にありがたいことです。食べ終わってすぐに、お客さんがくるというので、私は出て行く準備をし、ご挨拶をします。


「お世話になりました。この御恩は一生忘れません。返せる日が来たら、いつか絶対に返そうと思っております」


そう言って、深々とお辞儀をし、出て行こうとするが、壁にぶつかる。そして抱き締められる。なんで!


「どこに行くつもりなんだい?」


 耳の近くで、ジーク様の声が聞こえる。えっ、なら、抱きついてくれているのはジーク様!?なら、この壁も!?


 パニックになり、とりあえず抱きつきから、脱出する。やっぱり、ジーク様だった。心臓の鼓動がうるさい。周りの皆様は微笑ましそうに笑っており、ジーク様は…ヒッ、すごい怖い顔をなされている。


「どこに行くつもりなの」

「どこって、以前と同じ場所に…」

「ここにいればいい」

「でも迷惑じゃ…」

「そんなことはない」

「私には何もすることができませんから…」

「何もする必要はない」


 何もする必要はないって、そんな訳には…、私はどう返事をすればいいのかが、段々わからなくなり、余計に混乱する。誰か助けてください。


「まあまあ、それに今日来る客人が会いに来るのは私たちにではなく、君なんだよアリシア嬢」

「私に…ですか?」

「ああ、「すまない、失礼する」どうやら来たようだ」


 聞き覚えのある声に振りかえる。あの時、叔父に捨てられてからはもう会えないと思っていた人物を見て、涙が溢れる。


「お…じい…様、お爺さま!、私、私…」


 思わずおじいさまに抱きつき、涙がこぼれ落ちる。昨日も泣いてしまったが、今も止めることはできない。


「すまない。私たちの教育ができていなかったせいで、お前にも迷惑をかけた」


 私はお爺さまにしがみ付きながらも、首をふる。お爺さまやお婆さまのせいなんかじゃ、絶対にない。だってお父様はとてもいい人だったから。絶対にそんなことはない。

 お爺さまはそんな私を優しく撫で、シルバー伯爵に声を掛ける。


「すまない、迷惑をかけた」

「いいえ、感動の再開ができて、良かったです」

「何か望むものはあるか。フォード家でできることがあれば、なんでもさせて貰いたい」


 大事な話なので、私もお爺さまから、少し離れたところでしっかりと聞く。私にできることがあれば、私が頑張らないと…

 シルバー伯爵は悩んだような顔をしていたが、ジーク様を見て微笑む。


「では、次期伯爵のお嫁さんにアリシア嬢を候補にさせてもらっても?」


 シルバー伯爵は微笑みかけるようにこちらに向かって言う。お爺さまもこちらを向いてくるが、私に何ができると言うのか。


「アリシア、どう思う?」

「…私には何もありません。昨日、皆様に助けていただき、今日はお爺さまにも会わせて貰いました。私に返せるものがあるのなら、全てを捧げたいとも思っています。だから、私の名前を使うのは別に構いません。ですが、ジーク様の婚約相手だけは、ジーク様が望む方にしてあげてください。お願いします」


 そう言って、頭を下げる。昨日、あんな風に助けてもらって、命を救ってもらって、惚れるなという方が無理な話だろう。だけど、候補とはいえ、婚約は将来の話だ。ジーク様の未来の話だ。ジーク様が好きな方がいらっしゃるのであれば、私の存在は邪魔になる。


「ジーク、アリシア嬢はこう言っているが、お前はどうなんだい?」

「俺は婚約するなら、アリシア嬢がいい。それ以外は考えられない」

「わかった。どうですかなフォード子爵」

「では、婚約と言うことで、これからもよろしく頼む」


 とんとん拍子に進んでしまった話に頭がついていかない。お爺さまとシルバー伯爵が握手しているが、私は自分のことで一杯一杯だ。

 

 ジーク様が私のことを?なぜ?私はジーク様に何もできていないし、返すこともできていない。候補だけでも本当は嬉しかった。なのにどうして、婚約まで話が飛んでるの!?

 それにジーク様も、私以上にいい女なんて腐るほどいると思いますよ。


「ジーク様はこれで…」

「ああ、もちろんだ。こんなに嬉しいことはない」


 そんな笑顔で言われたら、私にはもう何も言えない。私だって嬉しいんです。このような素敵な方と婚約できて、そのご家族もとてもいい方々なんて、夢見たいです。


「シアお姉様、これからもよろしくお願いしますね」


 シシリー様はこうなることがわかっていたのでしょうか。なんとなく、そんな気がしてしまいます。

 そんなわけないですよね。ハハハ…

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