2.スラムでの出会い
スラムの生活には耐えづらいものがありました。臭い、汚い、食い物ないの3Kで、普通の暮らしはできそうにありません。それに私の服装はそのまま捨てられたので、スラムの中では目立ってしまいます。なので、スラムの人たちからも狙われてしまいます。
食べるものもなく、かと言って、他の人から奪うことはできません。それに見つかれば追いかけ続けられます。3日ぐらいでしょうか。私は何も食べることができず、逃げ続けていました。飢え死にしそうな私を助けてくれたのが、シルバー商会の跡取り息子である、ジーク様でした。
「大丈夫?」
強い雨が降っているなか、彼が薄汚れている私に話しかけてくれます。私が返事をする前に私のお腹が大きな音を立てて返事をしてしまいます。恥ずかしい。
「ハハッ、お腹が減っているんだね。じゃあ、僕についておいで、ご馳走してあげるよ」
「…あなたは?」
「僕?僕はジーク、おいで」
そう言って、ジーク様は濡れている地面を気にせず、片膝を着き、薄汚れている私なんかを気にすることなく、手を差し出してくれました。その姿はとてもかっこよく、惚れるなと言う方が無理な話です。
ですが、私も日本人としての知識はあります。だから考えました。知らない人、うまい話、普通はついて行ってはいけません。絶対です。ダメなんですよ!
私?私は彼に連れて行ってもらいましたよ。あんな風に手を出されたら掴むに決まっているじゃないですか。馬鹿なんですか?
…さっきの話?私は例外です。忘れてください。
その後、私はジーク様のお家に連れて行ってもらいましたが、そこは天下のシルバー商会でした。シルバー商会は実力主義のこの国で、王位が変わってからは初めて爵位をいただいたためにとても有名です。確か、2年前だったでしょうか、今は伯爵家だということで私の家よりも格上なのです。
見ず知らずの私をシルバー家の皆様は、温かくもてなしてくださいました。食事の後に、伯爵夫人からお声をかけられます。
「あなた、確か、アイリ…、いえ、フォード家のアリシア様よね」
私のお母様の名前はアイリスです。どうして伯爵夫人が、それよりもどうしてわかったのだろうか。こんな綺麗な人、一度会ったら忘れないと思うのだけど…
「ああ、ごめんなさいね。混乱させてしまったかしら、その服は家の商会で販売しているものでしょう?お客様がどんな商品を買ったのかはできるだけ把握するようにしているの。だから覚えていたの」
知らなかったのですが、私やお母様のドレスは皆、シルバー家が爵位をもらう前からシルバー商会で購入しており、私が来ているドレスを見て、ジーク様は気づいたそうです。
私を着の身着のまま放り出した叔父に生まれて初めて感謝しました。
シルバー商会の会頭であり、現伯爵であるジーク様のお父様は、私の事情を聞いてくださいました。私は盗賊にあったこと、両親を目の前で殺されたこと、叔父に家を乗っ取られたこと、そのまま捨てられたこと、今まであったことが一気にありすぎて感情が追いついていませんでしたか、話している間に涙が出てきて、うまく言葉にできません。
それでも、ジーク様たちはゆっくりと、私の話を聞いてくださいました。
その後、泊まっていくように言われてしまいました。そこまでしてもらうわけにはいかないと申し出たのですが、気にしなくていいと、押し切られてしまいました。
どれだけいいお方々なのでしょうか。
客室を用意しようとされていたのですが、私はジーク様の妹様である、シシリー様のご要望により、お部屋に一緒に泊まらせてもらうことになりました。
「申し訳ありません。シシリー様、お部屋にまでお邪魔してしまい…」
「気にしないでください、私は全然問題ありませんわ。それより、アリシア様、お兄様とはどうやって出会ったんですか?」
私はシシリー様にジーク様に出会った経緯をお話しました。すると、シシリー様は考え込み始めてしまいました。私は何か変なことを言ってしまったのでしょうか。オロオロとしている私にシシリー様は気付き、話してくれます。
「あっ、ごめんなさい。けれど、お兄様がそんなことをしたと言うことを聞いて、驚いてしまいまして…」
?シシリー様が何を言っているのかがわからない。また、シシリー様が自分の考えにふける。
「そうだ。それなら、アリシア様のことをシアお姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「そんな恐れ多いです!私なんかをそんな風に呼ばれなくても、呼び捨てでシアとお呼びください」
「嫌です、私がシアお姉様と呼びたいのです。ダメですか?」
「ダメじゃないです」
「それなら、シアお姉様と。私のことはシシリーとお呼びください」
「それは…」
「ダメ、ですか?」
「…ダメじゃないです」
意思の弱い私を許してください。けれど、あんな可愛い顔をされてどうしたらダメと言える人がいるんでしょうか?いいえ、いません!いるなら出てきてください。私が可愛さを語ってあげます!
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