着の身着の儘
やっぱりちゃんと試着しておくべきだった。
姿見に映った自分の姿を見て痛感している。
意を決して服を買ってきた日曜の夜。
シャワーを浴びて身を整えてから手に取るまでに数十分。
誰が見ているわけでもないのに、とても緊張している。
試着なんてできないとわかっていたから、事前に自分の身体の寸法を徹底的に測っておいて、お店では必死に数字と睨めっこ。
自分でサイズを調整する技術なんて持ってないから、最低でも袖を通すことができないなんて事態は避けておきたかったのだ。
背丈に比して肩幅が広いこの身体を恨めしく思ったことは数えきれないほどにある。
どの男子よりも頭一つ分飛び出していた小学生時代、運動が嫌いなのにやたらと運動部に勧誘される中学生時代、厄介な出来事を呼び寄せるばかりのこの身体を好きに思えたことはない。
それから時が経ち働くようになった今でこそ、自分の身体の在り方を受け止められるようになってきた。
けれど、もっと小さくなりたかった、華奢でいたかった、そんな気持ちがふつと浮かぶことはまだまだある。
これはきっと、私の身体が消えるまでずっと続くのだろう。
ふりふりとした赤と黒のハイウエストスカート。
大きく広がるタイプで、身体をくねらせる度に重なった裾が遅れて揺れ動く。
着心地はよかった。
見下ろすと、スカートにあしらわれた可愛らしい意匠が目に入り嬉しくなる。
けれど、姿見に目をやると自分の迂闊さに気付かされるのだ。
裾から伸びた足とスカートがアンバランスな見た目を作り出していた。
本来は膝までをすっぽりと覆うはずのデザインだったところ、太股の半分近くが露出してしまっている。
そりゃそうだ。足の長さも人並以上だということを忘れていた。
試着まではいかずとも、当てた姿を確認するぐらいはしておくべきだった。
タイツやブーツの工夫でカバーできるだろうか。いや、難しいだろうな。
はあ、と溜息を付き迂闊な買い物に臨んだことを後悔する。
そう、しかし単に買い物を失敗したに過ぎないのだ。
やっぱり着るべきじゃなかったなんて後悔は、あれだけ躊躇して二の足を踏んでいたのが不思議なくらいに微塵も起きなかった。それを疑問に思うこともなかった。
買ったお店に調整をお願いしに行ってみようか。
ついでに別の服も見てみよう。
そんな考えが頭の中を巡っている。
しばらくの間、一緒に買ってきたブラウスやブーツを合わせてみたりした。
納得のいく着こなしができたかと言えばそんなことはまるでない。
普段よりも重量感のある衣装に身にまとい、決して動きやすい格好ではないからか汗までかいている。
けれど、私は身軽な心地に包まれていた。
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