第12話 奇声
――――酒屋で飯を食っている途中に、ルヴィが同じ机に座って来た。
「・・・さて。これからの話をしましょう、レント。」
「はいはい。分かった分かった。うんうん、そーだね。」
「相槌早すぎるのよ。違うの、真面目な話よ。」ルヴィが真面目な表情になった。
「・・・え、何?」
「一緒に住みましょう。」
「やだ。」速攻で返す。
「何でよ!」ルヴィが机を叩き、立ち上がった。
「プライバシーが無くなる。」
「いいじゃない!女の子から提案しているだけ有難いと思って!」
「嫌だよ!大体俺の住んでいる家も教えて無いのに!まず段階があるだろ!ていうか、何でそんな話になんだよ!」
「・・・私、家事苦手なのよね。」
「テメーやっぱり自己都合じゃねーか!!!」
「しょうがないでしょ!!食器はすぐ割るし、料理も出来ないし、掃除もどうやればいいか分からないのよ!!」
「しょうがなくねーよ勝手に皿割ればいいし不味いメシ作ればいいし散らかった部屋で過ごせばいいだけの話じゃん。テメー何か隠しているからそんな適当な理由でいちゃもんつけてくるんだろ。大体、仲間の俺にもステータスカード見せてくれないし、秘密多過ぎるんだよ。幾ら仲間だからって、そんな感じだったらさ、俺がお前になんでも疑って掛かるのは仕方無いと思ってくれよ。」
「うっ・・・。」
こいつが今まで、何処のパーティにも所属せず、ずーっと1人行動だった理由。
それでSSランクにまで上り詰めて、更に孤独を極めてしまった背景を想像すると、人との距離の縮め方に問題があるようにも思える。
しかも、正直な所、腹の底でルヴィが何を考えているのか分からない、というのが正直な感想だ。魔剣使いだったり、戦闘狂だったり、容姿端麗で生家も恐らく悪くない筈なのに、俺みたいな人間に付き纏う所とか、勇者に対して何か思う所がある所とか。
細かい点を上げれば数えるとキリが無いこいつのへんてこさが、もう何と言うか、怖いのだ。
「まずさ、考えてよ。俺がルヴィと一緒に住んだとして、俺にメリットはあるのか?」
「あるでしょ。女の子と住めるのよ。興奮しないの?」
「それ言って照れが無い時点で興奮はしねーよ。それに、お前の世話をしなくちゃいけないって話だよな。それなら家政婦なり何なりを雇えばいいじゃん。この前のクエストで金なら貰っただろ?」
「・・・・そういう訳じゃなくて。」
「なら、別に理由があるって事だよな?俺と住まなきゃいけない理由。・・・それか、俺と住まなきゃ確認できない事があるとか?」
「ギクゥッ!」
「ギクって口から出る擬音なのか・・・?とにかく、俺はお前を信頼はしているけど、完全に信用は出来ていない。そうやって何度騙されて来たか。」
「・・・そんなんだからいつまで経っても童貞なんじゃない・・・?」
「ん?小さくて声が聞こえなかったけど、今凄く不快な事言わなかった?」
「いーや、ロジハラクソ野郎とは思ったけど、口には出してないわ。」
「それもう口に出してるのと一緒だからね?」
「とにかく、一緒に住んでくれないと今この場所で泣き喚くわ。」
「馬鹿やめろ都合のいい時だけ女の特権を振りかざしてくんじゃねぇ。」
「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
クソでっかくて単調な声が酒屋内に響く。
音階で言えば、ずっと同じ音が鳴り響いている感じだった。泣き喚くというより、とにかく大声を出している感じだ。
遠くの席から、こそこそ話が聞こえて来る。
「あー、またルヴィの奇行が始まった・・・」
「おい馬鹿!本人が聞いたら殺されるぞ!」
「あいつやっぱり頭おかしいよ・・・」
「周りの迷惑を何とも思ってないんだな・・・」
・・・・・・こいつ、いっつもこんな感じなのか?
「なあ、頼むから黙ってくれ。」
「・・・・・・。ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「おい一瞬黙ったのに戻んな馬鹿!!」
埒が明かない。
取り敢えず、俺もムカついたので、持っていたスプーンでルヴィの頭をこつんと何回も叩いた。
40!40!40!
「痛っっっっっったァァァァ・・・・・。」頭を抑えて、呻き声を出すルヴィ。
「・・・もう、分かったから何が望みなんだよ・・・。」
もう、俺は折れる事にした。
考えるのが面倒臭くなった。一緒に住む事は、恐らく何かしらの意図があっての事だ。
でも、こいつは変な奴でも、悪い理由で人を利用するようなタイプじゃない。非道な手段は思いついても、悪人にはなれないタイプなのだ。
・・・何でこんな奴が滅茶苦茶強いんだよ。世の中間違ってるだろ・・・。
「もういいよ、疲れたわもう・・・お前の言う通りにするよ・・・・。先に手を出した方が負けだ、俺は最低なDV男だ、もう後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・。」
「そこまでヤバい女じゃないんだけど・・・。」
「俺が悪かった。許してくれ、機嫌直してくれ。」
「・・・いや、怒っている訳じゃ・・・あれは発作というか・・・。」
こいつをキレさせて、《煌矢》の餌食にはなりたくない。
というかもう面倒臭い。こいつを想定して考えるだけ時間の無駄だ。
それと、大声を止める為とは言え、自分のスキルで結構なダメージを与えてしまった事で、罪悪感を感じてしまった。
「お前の言う通りにするから、もう落ち着いてくれ・・・。」
――――それを聞いてルヴィは、顔を輝かせていた。
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