第11話 噂話を聞いた
「―――坊主。《リミオン》の鎧の件、問題が発生した。」
鍛冶屋のブライドは、凄く言いにくそうに顔を歪めながら、続ける。
「最初はな、幻獣種を鎧に出来る喜びを噛み締めながら作業に移った。それも、まだ討伐の確認がされていなかった《リミオン》だ。起動要塞の異名を持ち、歴戦の英雄も奴の前には無力と化したとされる怪物を加工出来る嬉しさがあった。
・・・だがなぁ・・・ああ、ハッキリ言おう。鎧は無理だった。どうやっても加工が無理だ、硬過ぎるし、生体金属特有の柔軟性も全くねぇ。熱にも強くて、いや強過ぎて変形も出来ねぇ。まるでこの世のモノとは思えない硬さだ。多分、俺が出来ないって事は、他の鍛冶屋もこれをどうにかしようってのは無理だな。今の技術じゃ、こいつを好きに解体して加工するのは不可能だろう。すまん、坊主。」
恐らく、そうだろうなと思った。
予想は出来ていた。幻獣種にも色んな種類が存在する。その中でも防御面を極めていた《リミオン》は、そもそも傷をつける事が不可能な怪物だった。
鎧にして、というのは、最初から無理のある話だった。
「・・・分かりました。」
「だが、悪い事ばかりじゃないぞ。こいつの腹の部分の切り崩しには成功した。そこだけが不自然に取り外しが出来たんだ。恐らく、何かを格納する為のスペースだったんだろう。こいつ、本当に生き物かどうかも怪しいぜ。」
「・・・じゃあ、そこを使えば」
「盾にはなるだろうな。人が持つには丁度いいサイズだし、何より軽い。」
「じゃあ、そこだけでもいいから下さい。」
「いいぜ、分かった。《リミオン》の死体も返すよ。全く、こいつ死んでから何日も経っているっていうのに、腐敗しやがらねぇんだ。気味が悪いったらありゃしねぇ。あ、貰っていた10万Gの内、9万Gは返す。仕事出来てねぇし。あ、1万Gは貰うぜ、大変だったから。」
「じゃあ、それ返さなくてもいいんで、追加でお願いしてもいいですか?」
「おっ、普通の素材なら任せろ。次はどいつだ?」
「ワイバーンです。」
「竜種か!それなら簡単だ、任せな。次は期待に応えて見せるよ。鎧に限らず、装備一式揃えてやる。要望があったら、色々機能も追加してやるからよ、おまけで。」
――――ひとしきり、自分の要望を言った後、鍛冶屋を後にした。
・・・さて、困った事になってしまった。
《リミオン》装備を見せびらかし。周りの冒険者にイキり散らかす目標が潰えてしまった。
その代わり、ワイバーン装備なら、周りをおおっ・・・!とさせられるだろうか?
・・・うーん、厳しいかなぁ・・・。
一応、帰り際に、背中に背負えて、片手に持てるサイズの《リミオン》盾は受け取った。
盾というか素材そのままだが、盾の真ん中に、円状の中から3本の腕が生え、それが真ん中にある何かを掴むような文様があるおかげで、盾っぽくは見える。ていうか、なんで幻獣種にこんなマークみたいなモノがついているのか、意味が分からなかった。鍛冶屋のブライドがおしゃれで付けた訳でも無いから、こいつが生きている時から、このマークはあったという事になる。
幻獣種って、一体何なんだ?
「おっ、レントじゃん。」
「よう、ネイン。」
帰り道、偶然、噂好きの魔法使いであるネインに遭遇した。
彼女は、この冒険者の街ピレスに於ける噂をどっからか仕入れてきては色んな人に教えて回る、歩く回覧板みたいな奴で、誰とでも仲が良い社交的な人間だ。噂の最初を辿ると、最後はこいつに辿り着くとまで言われており、何かがあるとネインに訊けば、大体の事が分かる。
「聞いたよ!勇者パーティ抜けてからすっごい調子いいみたいじゃん。」
「・・・マジで、まぐれが連発しているだけだって。」
普通なら負けるような敵に、何とか相性の良さと不意打ちで勝ち越しているようなモノである。本当の実力を評価されている気分になれないのは、そのせいかもしれない。
・・・だから、《リミオン》装備でイキりたかったんだけどなぁ・・・。
「で、聞いた?勇者パーティ、解散だって。」
「え」
「怪我とかは治ったけど、死にかけて、冒険者続けるのに自信が無くなった子が出てきて。しかも今回の勇者は失敗して求心力を失ったから、また選定しなおす可能性もあるみたい。」
「何処情報だ。それ。」
「まぁ、ちょっと高級なクラブで仕入れて来たのよ。王族から仕入れた情報だから間違いないわ。」
「そんな重要な事ペラペラ言う奴、王族やっちゃ駄目だろ・・・。」
「良かったじゃん、レント。あんまりいい思い出無かったでしょ、あいつらに。」
「・・・そうだけど、スッキリしないな・・・。」
・・・確かに、勇者サウザンドは嫌われていた。
勇者に選ばれた自分は特別な人間だと信じてやまなかった。それが、俺のような人間を虐げる原因だったのは間違いない。傲慢な態度で、謙遜する様子は微塵も無かった。
だが、彼はまだ20レベル程度だ。これからの伸び率を考えると、その判断は早計では無いかとも思うのだ。そもそも、勇者ってそんな簡単に決まるモノでも無いし、選定にだって時間は掛かる。
もし、彼が勇者で無くなった場合、果たして彼には何が残る?
世を救う英雄になる筈だった人間が、その全てを失った時、その喪失の果てに向かす憎しみの先は、世そのものになるのでは?
考え過ぎかもしれないが、簡単に想像は出来た。
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