第8話 一方、勇者視点

――――その頃、勇者一行――――


 「・・ハァ、ハァ・・・。」


 ――――こんな筈じゃなかった。

 勇者サウザンドは、追われていた。

 先代魔王の秘宝が眠ると言われているラビリンスへと向かう途中、大量のワイバーンが空を飛んでいたのだ。


 勇者サウザンドを見つけると、ワイバーン達はすぐに襲い掛かって来た。

 一体辺り、レベル30はあるだろう。そのどれもが、勇者パーティのレベルを上回っている。

 だが、ワイバーンには一度、レベルが10の時に勝った経験があった。

 だから、この勇者剣エクスソードがあれば、何体のワイバーンが襲い掛かってこようと平気だと、思っていた。


 「クソがァ!死ねェゴミが‼」


 高く飛び込んで、空中のワイバーンに斬りかかる。

 振り下ろした勇者剣が竜の身体を切り裂いた。今じゃ1体くらいは余裕で狩れる!


 「流石サウザンド‼勇者なだけ――――」


 魔法使いのリリがそう声を上げた瞬間、その声は背後の業炎にかき消された。


 ――――ボロボロに朽ちた魔法使いのローブが、宙を舞った。


 勇者一行は、背後を取られていた。前方のワイバーンにばっかり夢中になってしまい、身を炎に焼かれたのだ。

 それを回避出来ていたのは、勇者のみだった。

 ―――残りの3人は、消し炭となって、倒れていた。


 ――――「・・・ハァ、ハァッ・・・‼」


 勇者は、3人の身体を抱えながら、逃げていた。

 もう息をしていない者もいる。喉が焼かれ、呼吸が出来ないのだろう、抱えている背中から、ヒューヒューと、掠れた音が聞こえて来た。


 ――――俺のせいだ。

 俺が、逃げずに戦いを挑んだからだ。


 キュイイイイイイイイイ!!!!!

 目の前に、ワイバーンが行く手を阻む。

 ・・・・・・これで、終わりか。


 ・・・何でだ、何でこんな時に、あいつが頭の中に浮かんできやがる。


 「にっ、逃げましょうよ!勝てっこないですって!!」

 ―――あいつが居たら、こんな事にならなかったのか?


 クソが。クソが、クソが!!!

 俺は勇者だぞ!!!こんな所で死ぬかよ!!!!

 もうどうなろうが知らねぇ!!!!俺だけでも生き延びてやる!!!!


 背中にいる消し炭の3人を地面に降ろし、サウザンドは剣を構える。

 もう仲間は諦める。こいつらの事は煮るなり食うなり好きにするがいい。

 ―――だが、俺の行く手を阻む者は容赦しない。

 これは、俺の英雄譚だ。


 「邪魔だァ、どけェェェェェ!!!!!!!」


 眼前のワイバーンに斬りかかる。

 ――――だが、既にワイバーンは口元に炎を蓄えていた。間に、合わない――――。



 「もう土でいいや!オラァッ!!!!」


 ―――――ワイバーンの後ろから声がした。聞き馴染みのあった声だった。

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