第70話

     Actress


「ドラマ、見たよ」

 そう声をかけたのは、高城 楓未だ。リアのモデル仲間として知り合い、こうして度々会うようになった。今ではモデルから、女優へと仕事の幅を広げており、連続ドラマへの出演も果たした。当然、まだ主役ではないし、全九話のうち、半分ぐらいの出演という感じだけれど、彼女は嬉しそうにはにかむ。

「演技はどうでした?」

「オレに演技をどうこう言えるほどの慧眼はもっていないよ。でも、中々難しい役どころだったね。主人公を惑わせるトリックスター的な親友、そんな兄を支える妹――なんて」

「私はほとんど、その兄役の人としか絡んでいないので、よく分からなかったんですけど、主人公は大変なことになっていますね」

 そういって、楓未はくすくす笑う。もう撮影は終わっていて、別のドラマからも声がかかり、今はそちらの撮影に入っているそうだ。そちらは単発のドラマであるけれど、出番はもう少し多い、という。そんなこともあって、会うのは久しぶりだった。

 そしてもう一つ、前回は母親に見つかりそうになった。そこで警戒した、ということもある。

「お母さんにバレなかった?」

 これには妹の小糸が答えた。

「というか、お母さんにはもうバレている、と思うよ。だってお姉ちゃん、急にきれいになったもん。お母さんがその変化に気づいてないはずないって」

「でも、恋人ができたって思われているみたい……。それとなく、探りを入れてくるのよね……」

 普通の親ならそうだろう。まさか、娘がみつけたのがセフレだなんて、思ってもみないはずだ。

 もっとも、彼女がモデルとして恋人は望まない、という事情もあって、そうしているのだけれど……。


「お姉ちゃん、教えてあげなよ」

 小糸にそう促されて、楓未も語りだす。

「この前、業界関係者という人から、ホテルでの会食を誘われたんです」

「絶対! 怪しいよねぇ」小糸がそう断じる。

「関係者って、どういう?」

「とあるプロダクションの、お偉いさんっていう肩書で、映画の制作委員会でも強い力をもつ……っていう……」

「怪しいね。もし仮に、そこで寝ても、ちゃんとした仕事はまず来ないだろうね。逆に寝る子として、業界に周知されてしまうかもしれない。

 ナゼかこの国では、若くて脱ぐ子を『女優魂がある』と持て囃す風潮もあるけれど、脱がないと女優魂がない、なんて評価こそ、本来可笑しいだよね。作品として脱ぐ必要があるのなら、そうするべきだとは思うけれど、そういう作品でないケースで、いきなり裸をさしこんだり、キスシーンを入れたり、結局それは話題性をつくりたい、という制作サイドの問題で、魂なんて関係ないのさ。どちらかというと、そういう要求をしてくるケースは、作品自体が面白みがない、売れないと思っているからで、そういう作品をつくり始め、慌てていること自体が、もうプロデューサーや監督の無能を示すよね」

「あれれ? 女優が脱ぐのに否定的?」

「そんなことはないけれど、必要? というシーンでそれがでてくると、興醒めっていうか、そこだけみて、後は早送りだよね。それってもう、女優としての演技は評価されていない、見てももらえていないっていう……。魂もへったくれもないって話だろ?」

 そう、本末転倒なのだ。脱ぐから魂があるのではなく、魂の籠った作品の中で脱ぐことが重要で、どれだけの人が関わろうと、どれだけお金をかけようと、作品自体がダメなら、いくらその中で根性をみせようと、いい演技をしようと、その女優の価値が高まるわけではない。だって、誰もそれ以外のシーンを見ないのだから……。ただ一点、脱いでくれる女優として重宝される、というだけだ。


「それだけのエッチ好きだから、全裸なら何でもOKかと思った」

「何でそんな評価……? 別に好きなわけじゃない。経験が多くて、うまくなったってだけだよ」

「じゃあ、その上手いエッチを、今日も堪能しよう! 私、久しぶりで溜まっているんだから!」

 小糸はそういうと、すぐにトレーナーを脱ぐ。下にはブラもつけておらず、もう準備万端でとびかかってきた。

 二人ともエッチが好きで、しかも姉妹でするのが好き、という変わり種だ。むしろ姉妹愛が強くて、抜け駆けしてどちらかとだけすれば、喧嘩になる。だから姉が忙しかったこともあり、しばらくこのマンションにも来ていなかったのだ。

 しかし3Pといっても、オレは奉仕する側であって、される側でないので大変だ。要するに二人を相手に、きちんと感じさせないといけないのだから。

 でも、今日はちがった。

「私から、してみていい?」

 そういうと、楓未がオレのを銜えてきた。オレも未経験ということはないけれど、オレの方からすることが多いし、相手も初めて体験する子が多いので、こういう〝される〟側となるのは珍しいことだった。

 でも、オレは女性を相手にしても、立つことはあっても出すことはない。彼女は丹念にオレのを舐めて、優しく手でさすってくれるけれど、そそり立ったままで、それ以上にならないので、楓未も「もうッ!」と叩き、軽く歯を当ててきた。

「痛い、痛い……」オレも小糸とキスしたり、胸などを弄っていたりしたのを、止めざるを得なかった。

 すると、小糸が「じゃあ、お姉ちゃん、一緒に責めよう。今まで私、してもらっていたから、お姉ちゃんがまたいでいいよ」


 またぐ……というのはオレの顔の上で、楓未がオレの上に覆いかぶさるように、反対を向いて、オレは彼女のあそこを口でするのと同時に、手で胸を弄る体制になった。彼女はそのままこちらを口で愛撫してくる。小糸は足の方から、オレのを口で銜えてきた。

 しかし表からだろうと、裏からだろうと、オレのそれは立ちはするけれど、それ以上に何も起こらない。

 二人とも、あまりの手ごたえのなさに「やっぱり、私たちが下手?」と、やや落ち込んだ様子だ。

「いいや。初めてにしては上手いと思うよ。これはオレの側に問題があるんだ。でもこうしてださないからこそ、多くの子とエッチをしても安心……ということはあるからね」

 それで悩んだ時期もあるけれど、もう仕方ないと諦めて、前向きにとらえている。「でも、練習にはちょうどいいだろ? まだ出てきたものを飲みこむような、度胸もないんじゃ……」

「今日はアナタをイカせてみようと、そういう話をしていたんです。勿論、だしてくれるなら、飲む自身はあります!」

 そんなところで魂をみせられても困るのだけれど……。

「オレはやっぱりする側だよ」

 そういうと、先にとろとろにしておいた小糸に嵌めながら、先ほどまでオレを銜えていた楓未にキスをし、手で彼女の陰部を愛撫する。

 オレはやっぱり、奉仕する側なのだ。これは体の性質上、仕方ないことであって、オレが快感を得ることがない以上、彼女たちを感じさせないとやっている意味がないのである。

 演技抜きで、本気で気持ちよくてよがっている彼女たちを見下ろし、映画でエッチをするのが女優魂……などといっても、本気でエッチなんてしていたら、絶対に演技なんて不可能なのだと、改めて思った。むしろ魂が抜けている演技をするのが、女優魂なのか? こうして頭が真っ白になって横たわる二人をみても、魂が抜けているのが確実なのだから……。







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