第60話

     -less


 遠藤 璃々から放課後、呼びだしをうけた。今は中学三年生で、同い年の桑島 圭太と付き合っている少女だ。

「また彼氏との気持ちよくセックスする体位を聞きに……?」

 オレも警戒してそう尋ねる。すると、沈んだ表情で首を横に振った。

「ちがうわ。でも、最終的にそういうことになるのかも……」

 遠藤の彼氏、桑島は潔癖症で、彼女とのエッチに悩みを抱えていた。前の人生ではそれで自殺までしていたので、相当に悩みも深いはずだった。今回は、その悩みを解消してあげたことで、彼女とのセックスを愉しんでいる……そう思っていたのだけれど……。

「彼が最近、また悩んでいるようで……」

「セックスはしているんだろ?」

「ええ……。でも最近はあまり……。それに春休みには一度もなくて……」

「意外?」

「そうですね。昨年までは週一では必ずしていたので……」

「やりたい盛りの中二男子としては、それでも少ない方か……」

 潔癖症であることが、何か影響しているのだろうか? 「とにかく、彼と話をしてみるよ。何か悩んでいるようだったら、聞きだしてみる」

「お願いします」

 遠藤は一つ下のオレにも、丁寧だ。彼氏とのエッチができない、と悩んでオレのところに来たぐらいだから、桑島のことを本気で愛しているのだろう。その解消のためには年下でも頼りたい、ということだ。

 彼女を見送ったそのとき、意外なところから声がかかった。

「ちょっと! 遠藤先輩と、何の話をしていたの⁈」

 ふり返ると、そこには小平が立っていて、腰に手を当てて頬を膨らませていた。


「悩みごとを聞いていただけだよ。小平は、遠藤と知り合いなのか?」

 話を逸らそうと思ったけれど、これぐらいでは誤魔化されない。

「前に、委員会が一緒になってね。悩みごとって何?」

「プライベートの話さ。心配しなくても、彼女には彼氏がいるよ」

「知っているよ。桑島先輩でしょ」

「何だ、全部知っていて、腹を立てているのか?」

「彼氏がいたって、エッチはできるもん!」

 なるほど、それも道理である。むしろ、彼氏がいて、浮気をする方が性欲を掻き立てられる……という人もいるのだから。

「彼女は彼氏一筋だよ。心配するようなことはない」

「私が浮気を心配して、こんなことを言っていると思っているんでしょう? 残念でした! 私は浮気じゃなく、遠藤先輩が本気になるんじゃないかと思って、心配しているんですぅ~」

「いや、オレも浮気じゃないだろ……。恋人いないんだし」

「ぶ~ッ‼ 私がいるじゃん!」

「そうだっけ?」

 しばらく、小平からのぽこぽこハンマー攻撃をうけることとなった。


 桑島と会う。彼はその繊細そうな表情を暗くしていた。

「また璃々か……」

 以前も、彼女がオレに相談したことを知っているので、すぐに彼もそう悟った。

「彼女は心配しているんだよ。キミのことが好きだから……」

「よくいうよ……」

「何が不満だ? でき過ぎた彼女だろ?」

「あいつに不満があるわけじゃないよ」

「じゃあ、何で……?」

「最初は、彼女ができてうれしかったし、セックスができるようになって気持ちいいと感じていた。でも最近は、何かちがうって、そう考えるようになったんだよ。体と心が一致していないというか、オレは……」

 次の言葉は聞かずとも理解できた。体は男でも、女性の心をもっている……。桑島は美少年系だし、髪を明るめに染めているのも、やんちゃなアピールかと思っていたけれど、美意識が高い……とすれば、理解もできた。

「女性が好き? 男性が好き?」

 オレの質問に、桑島は「女性が好きだけれど、愛し方がちがうっていうか……」

 体は男、心は女、それで女性が好き……。何だか万事丸く収まりそうな気もするけれど、彼にとってはちがったらしい。それで、遠藤とも距離を開け始めた……。


 これは桑島と、遠藤で話し合ってもらうしかない。とにかく、桑島がフェードアウト的に、真実を語らずにもやもやするより、互いの認識の差をはっきりとしてから、それでも付き合うのか? 決めるしかないのだ。ただ、桑島が違和感をもっているように、中々それは遠藤にとっても、厳しい結果が待つのかもしれない。

 オレが立ち会ってもよかったけれど、二人で話し合う、というので、そうしてもらった。ここは第三者がいない方がいい。なぜなら、正解なんてないのだから……。

「遠藤先輩と桑島先輩、どうなったの?」

 小平に聞かれ、オレも首を横にふる。

「当人たちの問題に、立ち入れるのは途中までだよ。結論をオレがだしてはいけない。アドバイスはしても、判断は任せないと、きっと本人たちが望まない結果となったとき、後悔するよ」

 分かったような、分からないような説明に、小平も首をかしげている。

「要するに、答えが分からないから、丸投げした?」

「何でそう短絡的に答えをだすんだよ。男女の間に、正解なんてないだろ? それとも、正解をだして欲しいのか?」

「正解? だして、だしてぇ~ん♥」

「そういうことをいう奴は、こうだ!」

 肩に担ぎ上げると、制服のスカートの中に手を入れて、その股の辺りに手を滑り込ませる。

「いや~! 何でこんな格好でするの⁈」

「これも一つの形だろ?」

 背中にぽこぽこハンマーの攻撃を食らうが、足をじたばたさせないので、本気で嫌がっているわけではない。しかもこの体勢だと、両手がつかえるので便利だ。ただ、パンツの上からでも股間を責めて、彼女が感じはじめると、その方が足をじたばたと動かしてくる。

 その蹴りが胸に入り、ハートブレイクショットになって、彼女を肩から降ろさざるを得なくなった。


「ふ……ふん! どうよ、私の正解は?」

「よくもやってくれたな……。そんな悪い足は……こうだ!」

 両方の足首をもって、彼女の股間にこちらの足の裏を当てて、いわゆる電気アンマのように足を細かく振動させた。

「やめて~ッ‼」

 彼女が十分に観念するまで足で責めてから、やっと制服を脱がしにかかる。今日はまだ二人とも制服のままで、彼女の部屋で戯れているのだ。

 結局、今日も何だかんだといって、最後までいくのだけれど、これも一つの正解だろう。恋人なのか、その線引きすら曖昧だけれど、何となく楽しいからこうして二人でいる。エッチしない恋人を自負していても、されればやっぱり嬉しいし、気持ちいいので喘ぎ声をあげてしまうのも、いつものお約束だ。

 片足をもちあげて、わざと陰嚢を覆っている袋で、彼女のもう一方の太ももをこすりつつ、エッチをする。

「ふぅ~ん……」とよく分からない呻き声とともに、小平はイッた。

 きっと、桑島と遠藤の二人も、お互いにイクことができていたら、そんな違和感をもたなかったのかもしれない。体は男、心は女、それで女の子が好き……。一周回ってうまくいきそうでも、多分それは半周ぐらいで、そこに至る道筋では、幸せになれない……そう気づいてしまったのだろう。

 でも、だからこそ話し合うことが必要なのだ。体を重ねるだけではなく、話をすることも……。

「ふん、ふん、ふん」

 両手をこちらに差し出してきて、唇をつきだして手招きをする小平には、会話は必要なさそうだ。だからキスすると見せかけて、胸にかぶりつくと「も~ぉ!」と怒りを示すけれど、言葉にしないのも困りものだと、改めて思った。



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