第59話

     Acting


 その日はモデルの高城 楓未……兵頭 楓未に呼ばれ、彼女のマンションにやってきた。お祝い、ということだったが、何を……? かは聞いていない。

「今日は、お姉ちゃんの女優デビューのお祝いです!」

 妹の小糸が、早々にそうばらしてしまう。

「女優? この前話していたCMはみたよ。わちゃわちゃやっている感じの……」

 飲料品にありがちな、多くの人が楽し気に跳ね回っているようなもので、高城 楓未はあくまでその中の一人、目立つような感じではなかったけれど、楽し気な様子は伝わってきた。

「そのCMをみた人が声をかけてくれて……。大した役じゃないんだけど、主人公の親友の妹っていう役で……」

 毎週、出演するわけではないけれど、連続ドラマの役をもらえたのがうれしいらしい。高城も頬を赤らめている。

「やっとお姉ちゃんの魅力に、テレビ業界が気づいたんだよ」

 小糸は自慢げだ。姉のことを誇らしく思うのは、姉がモデルという仕事のために恋人もつくらず、処女を貫いているのを真似していたことでも分かる。

 ただ、オレもその変化をつぶさに見てきたので分かるけれど、彼女はエッチをするたびに、女性っぽさを増していた。語弊もあるけれど、太ったという意味ではなく、全身の角がとれ、丸みを帯びてきた、という意味であり、そこから色気のようなものがでてきたのだ。

 元々、ぱっとみてキレイという印象ではなく、母性のようなものを感じさせる顔立ちもあって、その色気が大人の女性としてのイメージと合致した。CMばかりではなく、モデルとしての写真からもただよう、そうした雰囲気の変化が彼女を花開かせてくれたのだ。


「アナタって、上げチン?」

 小糸は下品な言葉も容赦ない。それは、クラスの半分以上が非処女、という中学に通っているのだから、そうした性的な話など、日常的にかわされているのだろう。

「言われたことはないよ。もっとも、オレはよく処女を捨てたい、という子の相手をするから、満足してもらうことを重視している。それで不都合が生じた、失敗したと言われたことは少ないから、よかったと思われているんだろう」

「私たち姉妹も、あなたにしてもらって、よかったと思っているわ」

 楓未の言葉に、小糸も「私も、デビューできるかな?」

「モデルをやりたいの?」オレの質問に、小糸は「女優!」と即答する。

「女優をやりたいの?」

「だって、楽しそうじゃん」

 大体、テレビや映画での活動しかみていないから、そう感じるのだろうが、だからなりたい、といってなれる職業でもない。

「エッチが好きなら、AVって道もありそうだけど……」

「AVは嫌! だって、そんないい体していないし、あいつ、AVに出ているのにおっぱい小さい……とか言われたら、立ち直れないもん」

「小糸ちゃんは、まだまだ胸は大きくなるわよ」

「だったらいいんだけど……。でもAVは嫌。お姉ちゃんぐらい、裸がきれいだったらいいけど……」

「モデルとして手入れしているからよ。小糸ちゃんも、もっときれいになる!」

「もっとエッチをして?」

「きれいになろう」

 二人でオレをみてくる。お祝い、といってよびだしたけれど、姉妹で楽しむつもりなのだ。オレは演技抜きで、ため息をついた。


「女優になったら、エッチする演技もあるのかな?」

 小糸がそう尋ねると、楓未も「今回は、どちらかというとミステリっぽい作品だし、私はちょっと遠いから、エッチはないわよ。キスぐらいならあるかもしれないけれど……」

「お姉ちゃん、テレビでキスするの?」

「もしかしたら……って話。でも、一応事務所にはお断りしているの。二十歳まではそういう演技はNGって」

「どうして?」

「水着の写真もお断りしていたけれど、やっぱり自信がなかったから……」

「じゃあ、練習!」

 そういって、姉の背中をどんと押す。楓未もオレの首に手を回してきて、唇を重ねると、濃厚な舌をからめるキスをしてくる。だいぶ慣れてきているが、演技でこれをできるかは不明だ。

 でも、糸をひくようなキスをした後の、とろんとした表情は、間違いなく色っぽいもので、男心をくすぐるだろう。

「もしかして、今のキスだけでイッたの?」

「…………うん」

 楓未は恥ずかしそうに頷く。正確には、キスだけではなくオレの右手が胸をまさぐっていたけれど、これが感度のいい姉だ。

「いいなぁ~。私も!」

 そういって、小糸が飛びついてきて、舌を絡めてくる。ただ、小糸の方が少し乱暴であり、こういう点が姉妹の差でもあった。


 感度のいい姉妹だけに、エッチをするのも楽でいい。ベッドに寝転がった楓未を激しく腰をつかって責めたてながら、そんな彼女に覆いかぶさるよう、四つん這いになった妹の小糸の陰部を左手の指で責め、右手は彼女の胸をもみしだく。

 どちらが先にやるか? でモメていたので、前戯で先にイッた方……といって、今の体勢で右手と左手、代わる代わる指で責めたところ、やはり感度のいい姉が先にイッたので、そのままこうしてエッチになだれ込んだのだ。

「くうぅ……」

 楓未はまたイッた。感度が良過ぎるぐらいで、それでもこれまで、他の男とヤッたことはない、という。元々、身持ちかたいこともあろう。モデルとして、恋人もつくらない……と決めたら、それを曲げずに貫いてきたように、驚くほどの頑強な意思をもっているのだ。

「ほら、キミのことを支えるから、お姉さんの胸を優しくマッサージしてあげて」

 オレは小糸の耳元でそう囁くと、彼女にはバックでいった。小糸の胸を両手で揉みつつ、その体を支えるので、彼女は姉の胸に手をおいて揉みしだく。

「はぅッ、はぅッ、はうッ、お姉ちゃん……気持ちいい?」

 激しく突かれながら、その自分の上下動に合わせて、姉の胸を揉んでいる。それをうけて、楓未も「いいよ、小糸ちゃん」と応じる。

 実際には、かなり荒っぽいので、楓未も痛いのかもしれないけれど、この姉妹はこういうところでも仲がいい。

 小糸も「くぅ……」と呻いて、イッた。


 二人が満足しきって横たわっていたところ、玄関のドアが開く音がする。二人ともハッとして起き上がった。

「お母さんが帰ってきたよ!」

「私が先にでるから、小糸ちゃんは郁君を逃がして」

 二人とも慌てて服を着ながら、そう打ち合わせをするも、どうみても姉がもたもたしている。

「楓未、小糸、いる?」

 部屋に来られないように、急いで部屋着をまとった小糸が先に部屋をでた。

「あら、またお姉ちゃんの部屋にいたの?」

「うん。一緒にスマホでゲームしてた」

「ゲームもほどほどにね。楓未は?」

「な、何、お母さん」

 部屋着に、髪もぼさぼさの姉をみて母もため息をつく。

「今日、仕事が途中で終わったから、夕飯を外で食べようかと思ってね。アンタたちも準備して」

「え? 珍しいね。どうしたの……」

「楓未のドラマデビューが決まったからよ。一緒にお祝いしましょう」

「わ~い、やったー!」

 オレはそんな姉妹の声をドア越しに聞きながら、まだまだ演技の勉強が必要だなと、ため息をつくばかりだった。




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