第52話

     Incestness


 前の人生では、嫌々通っていた学校だけれど、今では事件をさがしてうろうろするぐらいだ。

 学校では、小平はあまり近づいてこない。自称・恋人だけれど、この時期は隠したい意識が働くのかもしれない。もっとも、オレとの意識のズレもあって、表立って恋人宣言しにくい、といったことはありそうだけれど……。

 ただ学校内では知り合いも増えた。イジメの相談に乗った子もいるけれど、多くは性的な悩みの相談に乗った。中にはエッチをした子もいるし、その手前の診断で止めた子もいる。

 多くが満足して、今でもオレと会うとあの時のことを思い出し、顔を赤らめることも多い。もっとも、恋人にはならないと宣言しているし、エッチ好きの子が、またそれだけを求めてくるケースを除けば、大抵は一回だけの関係だ。

 そんな中で、唯一といっていい言葉をのこしたのが、川勝 咲里――。

 二つ上で、オレが中学に上がってすぐのころ、伊丹の家にやってきた。

「セックスを経験しておきたい」

 ありがちな依頼だったし、オレもカウンセリングから始めて、同意の上で行為をはじめた。長い黒髪、表情にも乏しく、何を考えているか分からない。クールビューティーの雰囲気をまといつつ、彼氏がいないのはその話し方の冷淡さ、落ち着きのせいでは? と思わせた。


 唇を重ねようとすると「目を閉じますか?」と冷静に尋ねてくる。

「キスは嫌かい? エッチはしても、キスはしないという人もいるけれど、そうじゃないなら、目をつぶってするものだから。互いに目を開けたままだと、寄り目になっちゃうだろ?」

 彼女は目を閉じる。体を強張らせたり、唇をつきだしたりする子も多いけれど、彼女は自然体で立つ。その柔らかな唇にふれるも、あまりの反応のなさに拍子抜けするぐらいだ。

 ほっそりとした体は、胸もふくらむというより、縦に少し盛り上がっているようなイメージだ。中三でもまだ胸の小さい子はいる。むしろ、男っぽい肉体に悩んで、ここにきた羽沢のような子もいるので、胸がないのは慣れっこだ。乳輪の周りから丁寧にさすり、その先へと渦を巻くように指を滑らす。感じていないようで、その先端が陥没したままだ。

 不感症? しばらく指で弄っていると、やっと少しだけその先端を露わにした。どうも感じにくい体質のようだ。それは脇、横っ腹、へそといったところに指を走らせても同じ。ふつうならくすぐったい、と感じるような場所でも、彼女が強く反応を示すことはなかった。


 小さな胸なので、口を大きく開けて、その山裾から山頂をめざして、ゆっくりと唇を動かす。その間も舌でその先端を転がし、最後は唇をすぼめて先端を包むようにする。彼女は目をつぶったまま、それを受け入れるばかりで、声も漏らさない。

 その間も背中や、足といった部分も手でまさぐるけれど、どうも反応が鈍い。

「感じない?」と聞くと、「いいえ」と応じる。しかし言葉とは裏腹に、彼女はほとんど動かず、感じた様子もなく……。まるで冷凍マグロのようだ。

 オレも彼女の陰部を責めることにした。というより、もう感じる場所をそこしか見つけられないのだ。指をつかい、丁寧に、優しく責める。やはり反応が薄いので、口をもっていって、舌で責める。でも、川勝はほとんど動くことがない。横になったまま膝を立て、身じろぎもしない。

 業を煮やして……というか、他に打つ手もなく、「いくよ」と声をかけ、挿入を試みる。処女……というわりに、最初はきつかったけれど、すんなりと入った。

 ただやはり、痛みも感じていなければ、気持ちよい、気持ち悪い、そのどちらも感じてはいないようだ。

 入れながら胸をさわるも、態度が変わらない。そこそこ湿り気も感じられるので、あまり待たずに動いてみることにする。中の具合は初めてとは思えないほど、具合がいい。ただ、冷凍マグロが解凍した感じはなく、目をつぶったまま、表情すら変わらない。でも、中の感じはいいので、そのままつづける。しばらくして、彼女は小さな声で「うッ!」とうめいて、ぎゅっとあそこも締まってきた。無味乾燥なまま、彼女の初体験は終えた。

 帰り際、彼女は靴を履きながら「がっかりです……」とだけ呟いて、そこを後にしていった。


 学校で久しぶりに、川勝と会った。

「キミは……処女じゃなかったんだね」

 ふっと川勝は笑った。「処女ですよ。今でも心は……」

「家族……かい?」

「兄です。私は昨年、祖母の家に引っ越して来ましたが、それは兄と離れるためだった。一緒の家に暮らしていたら、また犯されるから……」

「警察には?」

「通報できるわけがありません。兄は今でも、両親と普通に暮らしていますよ」

 渡ノ瀬が心配していたこと……。それが彼女には現実として起きてしまった。彼女の心が硬く、閉ざしていた理由も分かった。望まぬセックスを強いられ、ずっと彼女はその行為の間、心をなくすよう意識づけられていたのだ。

「キミは、オレに何を望んでいた?」

「セックスが、もしかしたらふつうにできるのかなって……」

「キミが望むなら、もう一度してあげるよ。今度は、処女縛りがない形で」

「…………? 処女でないと、何かちがうんですか?」

「ちがうんだよ、これが……」


「あぁ、何これ? 何これぇッ⁉」

 川勝はオレのお腹の上で、そういって身悶えする。簡単なことだ。感じる場所をさがし、少しでも反応がでるところを探った前回とちがい、今回は最初から無茶をできる。しかも、同時に責める箇所をすこしずつ増やしながら。彼女のお尻に股間のふくらみを感じさせ、後ろから回した手で胸をさわり、振り向かせた状態で口の中には舌を入れる。極めつけは足のかかとで内腿のあたりをさする。

 六ヶ所責め――。挿入しながらする場合もあるけれど、まだ前戯の段階で、とにかく責める箇所を増やしていく。一ヶ所では感じにくくとも、複数の個所を同時に責められれば、脳が混乱してくる。

「ンん~……」

 処女の子にこんなことをしたら、それこそ大変なことになるので、あくまで慣れた子にしかしない。むしろ不感症で、感じにくい子への徹底した責め方だ。彼女がそうであるなら、躊躇うこともない。

 そして、あえて挿入もせずにしているのは、無理やり犯される経験をした彼女にとって、これは相手を喜ばすためにしていることだから。男が自分の満足のためにするようなエッチとは、ちがう体験をさせるためだ。

「じゃあ、伊丹。頼むよ」

 オレがそう声をかけると、すでに全裸となっている伊丹が、川勝の股の中に顔をうずめる。これで七か所責め――。伊丹もここで3Pや4Pになることが多く、慣れたものだ。

 彼女を喜ばすため、彼女を感じさせるため、二人で彼女の感じやすい場所をとにかく責めたてるのだ。

 硬く氷漬けになっていた彼女の心が、少しずつ溶けていく。口にはずっとオレの舌が入っているので、声はだせないけれど、うめき声だけで、彼女が感じていることは分かる。彼女は痙攣するほど、激しく絶頂を迎えた。嫌な記憶だけでないエッチを、彼女は初めて体験したのだった。






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