第21話

   Sell Spring


 マリリンは自分のカバンを、ドアについているフックへと引っかけた。すると、すぐにスカートを脱ぎ、それをカバンのところにくしゃくしゃにならないように気をつかいながら、慎重に引っかけている。

 そのまま、躊躇うことなくパンツも下ろしたけれど、全部脱ぐのではなく。片足の太ももの辺りに引っかけたままだ

「こうする方が、喜ぶ親父って多いのよ」

 そういって、上着のシャツで腰の辺りが隠れるから、チラリズムでしょ、とでも言わんばかりに、くるっと一回転してみせた。

 しかしそこで止まらず、すぐにシャツのボタンも外していく。でも、ボタンを外しただけで、すべて脱ぐ気はないようで、そのまま前ホックのブラも外して、そこで止まった。

「こういうところでするとき、すぐに逃げられるようにってね。汚れるところだけ脱いで、後はすぐに着られるようにするのよ。あなたも全部じゃなくて、ズボンだけ下ろして。もう……お姉さんが脱がしてあげましょうか?」

 手慣れた様子で、オレのズボンに手をかけると、ベルトを外してチャックを下ろすと、パンツもずり下ろした。


「へ、へぇ~……。小学生にしては、中々ね。でも、毛はまだまだ……」

「それはそうですよ。オレ、小学四年生ですから」

「えッ⁉ 四年生⁈」

 同じ学年なら背が高い方ではあるので、六年生と間違えられることもある。何より中身は七十七歳、大人びた雰囲気がそう見せていることは間違いない。

「お姉さんは剃っているんですか?」

「病気をうつされちゃうからね。あぁ、前戯はしなくていいよ。私はその場で、結構濡れちゃうタイプだから♥」

 彼女はそういうと、ポケットから小さな袋をとりだして「もっていないでしょ。お姉さんがかぶせてあげる」

 でも、大きくなっていないオレのをみて「あら、私の裸でも興奮しない? 胸でも揉んでみる? あまり好きじゃないんだけど、フェラでもしようかしら……」


 彼女が手をだすまでもなく、すぐにぐーっと持ち上がってきたオレのをみて、マリリンも驚くが、オレはある程度、自分の股間をコントロールすることができるのだ。これはどうして? と聞かれても答えようがないけれど、勝手に生まれ変わりによる特典、と思っている。マリリンはすぐに手慣れた様子でキャップをはめた。

「大丈夫? ちゃんとできる? 立ちは初めて?」と、子供扱いしてくる。

 ただ、オレはずっといらだっていた。それは、少女がこうして性を売りにしていることに、であり、それはこれまで自分がしてきたことと逆だから。

 オレの直立するそこも、興奮ではなく怒りでそうなっている。ずんずんとマリリンに近づくと、ふっくらとしたその体型からも想像した通りの、その豊かな胸をぎゅっと握りこんだ。立ってするときは、男の方が背が高いことが多く、やや腰をかがめないと合わないこともあるけれど、いくら同学年の中では背が高いといっても、高校生の女子よりは小さいオレだと、彼女が少し腰をかがめるようになる。

 ただ、そうすることはむしろ好都合だった。

 言っていた通り、彼女はすでに濡れていた……否、こちらに被せるとき、ワックスなのか、ゼリーを塗っているのは気づいていた。「すぐ濡れる」と言っておいた方が、男が喜ぶとの計算だろう。それは避妊のための方法でもあるはずだった。


 一気に突き抜けた。彼女は驚いた様子で「え? ちょ……待っ……あ!」

 ワックスを塗っているお陰で、何の抵抗もない。ならば、以前も語ったことがあるけれど、体の小さい方が早く動くことができるのだ。小学生の腰遣い、しっかりと堪能させてやる! とにかく素早く、前後に動かす。音が漏れることなんて気にせず、ただただ彼女の中を超高速で貫いた。

「い……や……うわ……おね……いく」

 びくんと体を動かし、マリリンは絶頂を迎えたようだ。まだまだ……。オレは一旦止まったけれど、すぐに再開する。一度、イッたことで敏感になっている彼女は、二度目も早かった。そして三度、四度と……。

 オレは一度もいかなかったけれど、彼女の脳細胞はもう壊れるほどに、度重なる頂点越えで、そこがトイレであることも忘れ、終わった途端に荒い息遣いのままそこにすわりこんでいる。

「オレは、そうやって体を大切にしない人は嫌いです。だから、もう二度と会うこともないでしょう。でも、アナタがそれを商売だといい、商人としての節度をもっているなら、ちがう方面で発揮したらいいと思いますよ。そっちの方がよほど稼げますし、余計な心配をしなくて済む。病気になったら、結局稼いだお金、すべてかけても治癒しないかもしれないんです。もう一度、考えてください」

 オレは自分にはめられたキャップを外し、何も付着していないそれを、そのままゴミ箱に捨てて出て行った。


 マリリンは、足腰が立たなくなったようで、それでも便座につかまって必死で立ち上がると、よろよろとカバンのところに行く。さっき、あの子が出ていくとき、カバンに触れたように見えたけれど……。

 やっぱり……。そこに隠しておいた、ペン型の隠しカメラがなくなっていた。多分、スカートをかけるとき、調整していたのを見られていたのだ。

 小学生に、完敗……。

 それはウリで稼いできた自分にとっても、余計なお願いを聞いて、彼を嵌めようとしたことも、全部……。

 実はもっとお金をもらっていた。相手がどんな利用をするか、分からないのに自分のセックスシーンを撮らせるのは、それだけのリスクに見合うお金が必要だったのだから。

 そしてそれは、自分が足を洗えるぐらいの……。


「どうしたの、富士見君?」

 オレは梅木 美潮と会っていた。……否、呼びだした、といっていい。

「ちょっと、顔がみたくなって……」

 彼女は公園のベンチですわるオレの隣にすわり、その頭を優しく撫でてくれた。ちなみに、マリリンと会った公園とは、ちがう公園だ。

「何かあった?」

「ちょっと、落ちこむことがあって……」

 それは、怒りに任せてマリリンと性交してしまったこと。彼女はただの商売、別に何の感情ももっていない。男性が肉体労働により、お金を稼ぐように、彼女は肉体を提供して、お金を稼ぐ。それだけのこと……。でも、高校生の彼女がそれをすることに、オレは怒りを感じた。

 どんな背景があるのか? 実はすごく貧乏で、稼いだお金を生活費に充てているかもしれないのに……。

 梅木は何もいわずに、オレの肩をぎゅっと抱いてくれた。

 オレは素直に「ありがとう……」と応じる。そうやって、梅木の温かみを感じられるだけで、安心できた。

「富士見君は、私なんかよりずっと色々と考えていて、ずっと何かと戦っている。私は何もできないけれど、こうやって富士見君を抱きしめてあげられる。それしかできないけれど、それでいいのなら、ずっとそばにいてあげる」

 お互いに目が合うと、自然と唇を重ねた。梅木とは、今でもこうしてキスするだけの関係だ。でも、それで十分だった。体のつながりなんて、なくていい。互いに心がつながっていることが大切なのだと、そう思えたことで、少しだけ心が晴れたような気がした。


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