第8話

   Trouble Teacher


 オレは小学三年生になった。

 童貞のまま七十七歳で死んだオレが、小学二年生から人生をやり直し、何と小学二年生にしてセックスフレンドができた。

 あれからもリアとは体だけの関係がつづいている。何しろ、父親からの性被害を抑えるため、そのためだけの仮初の恋人であり、時おり遊びに行く……そこで性的関係を結ぶ、ぐらいの付き合いなのだ。

「付き合おうか?」

 何度かそう尋ねたけれど、彼女は頑なに拒否した。学校ではふつうに友達として振る舞い、家を訪ねたときは……といった関係だ。

 さすがに母親がいるときは行為をためらっているけれど、母親はすでに娘の変化に気づいているのか、そういうときは父親を連れて、買い物に行くことが常であり、その間はオレたちの自由だ。


 リアは相変わらずバックでするのが好きである。ベッドから下りたところに膝をつき、枕を抱えてベッドに突っ伏す。それが彼女のスタイルであり、そこにオレが後ろから挿入するのだ。

 両親が家にいないので、かなり声もだすし、身もだえるほどによがる。その体位での性交をしたくて、オレを家に呼んでいるのでは……? とすら勘ぐれるほどで、毎回それは彼女を満足させた。

 彼女の体は着実に大人へと近づいている。元々、背が高くてハーフ、その濃いめの顔立ちからも、中学生に間違えられるぐらいだが、胸の大きさも外国人級である。当然それは子供としては……だけれど、もう大きさだけなら大人。

 ただ、まだ成長途上らしく、張りがあって硬く、触られてもあまり気持ちよくない……というので、少し弄る程度のことだ。もし小学三年生でこれほど大きくて、これからも成長していくなると、将来はすごいことになるかも……とは思う。それに、オレは貢献できているのだろうか? 間違いなく、女性ホルモンをより分泌させていることになるのだけれど……。


 それと、学校では違うクラスになり、今では学校の中で会うことも少なくなった。男勝りで運動もよくできるリアが、こうしてオレだけにみせる女の子っぽさも、かわいいところである。もっとも、部屋はむしろピンクが多い、女の子っぽくもあり、学校での姿が無理をしているのかもしれない。

 寝物語のように「最近、お父さんはどう?」と尋ねてみた。

「もしかしたら、私たちがセックスしているって、気づいているかもしれない。私にもあまり近づいて来ないんだよね……」

「計画通り、ということか……。相変わらず、お父さんから睨まれるから、まだ赦してもらえてないんだろうけれど……」

「気にしなくていいよ。でも、お母さんも、何で私がこんなことをしているのか? 薄々感づいているかもしれない……」

 娘がこの歳で、体をゆるすほどの相手をみつけた……。いくら理解のある母親だとしても、それを全面的に容認するのは中々に難しいだろう。娘にできた彼氏を恨み、敵視し、愚痴をいう父親を、オレは前の人生で何度もみてきた。ただそこに、娘への本気の愛が隠れていた場合……、それは歪んだ、実の娘への性欲という形になるのだけれど、その倒錯により彼氏を敵視するのなら、まだこれから何が起こるか? 予断をゆるさない。前の人生では、三年生で引っ越していったことも、もしかしたらその辺りが影響するのかもしれなかった。


 三年生になったオレは、とある事件のことを思いだす。

 オレはその日の放課後、学校の一階にある指導室に向かっていた。隣は保健室で、そこは子供に反省を促すための、周りにみられないようにしながら叱りつける、というための部屋だ。

 事前に説明しておくと、この学校は生徒による携帯電話の、学校へのもちこみは認められていた。ただし、授業中は電源を切るか、マナーモードにして、カバンからとりださないことが必要で、違反をすれば携帯電話を没収され、反省文を書いて、ここで朗読させられ、しっかりと反省できた、という態度を示さない限り、返してはもらえない。

 オレは別に、携帯電話をとり上げられたわけではない。ただその日、一つ上の小学四年生の間で、携帯電話の盗難事件があった、として一部で騒ぎとなった。その処理をここでしているはずだった。


 オレはノックもせず、その部屋のドアを引き開ける。

 そこには椅子にすわった教師と、傍らには女の子がいたけれど、その様子は想像されたものとはちがう。何しろ、女の子は教師にむけて、自らスカートをまくり上げており、かわいらしいパンツが丸見えになっていた。オレが入ってきたことで、慌ててスカートを下ろす。

「な、何だ! オマエは!」

 教師はニヤけ顔で少女のパンツをみていた、その顔を引きつらせ、不意に入ってきたオレに向けて、怒声を上げる。

 中身は七十七歳の男に、その程度の脅しは何の効果もない。「こちらにいるって聞いて、訪ねてきたんですよ、田口先生」


 田口先生も、落ち着き払ったオレに、気味の悪さを感じたのか、浮かしかけた腰を再度、椅子へともたれかけさせ「何だ、用か?」と横柄に尋ねてきた。

「今日、携帯電話がなくなった件で、先生が犯人だと思いまして……」

 いきなりの核心をつく言葉に、田口先生は口をあんぐりと開け、呆けたような表情となり、顔を赤らめて、部屋の隅に逃げていった少女は、驚いた様子で丸い目を見開き、オレの方をみている。

「いい加減なことを言って……」

 怒りを通り越して、呆れた様子でそうつぶやく田口先生だけれど、オレはむしろ自分の携帯電話をとりだすと、その画面を先生にむけてつきだした。

「これ、映っているの、田口先生ですよね?」

 そこには教室で、誰かのカバンから何かをとりだす田口先生の姿がガラス越しなので若干不鮮明ながら、ばっちり映っていた。

「ほう……。それが、私が生徒のモノをとった、証拠になる……と?」

 教室の様子から、事件のあった教室であることは証明できるけれど、動画ではないので、その前後が分からない。確かに、カバンから何かをとりだしたように見えるけれど、そのままもっていった……という証拠にはなりにくい。大人の知恵として、田口先生はそう言い逃れする気のようだ。


「ま、確かに不鮮明だし、このランドセルが彼女のものである、と証明されたとしても、ここから何かをもっていった証拠にはならない、とは思いますよ」

 落ち着き払ってオレもそう答えた。

「でも、これは物的証拠であって、もっとも重要なのは目撃情報でしょ?」

 オレの自信満々の態度に、田口先生も動揺したようだ。それはそうだ。これはオレがその場にいた、という証拠であって、刑事事件でさえ目撃情報があれば、有罪にできるのだ。

 田口先生は逆ギレしたのか、目を怒らせて椅子から立ち上がると、物凄い形相でオレに近づいてくると、携帯電話を奪った。

「何をするんですか⁉」

「授業中、キミが携帯電話をとりだしているところを目撃し、僕が取り上げた。これはもう、反省文を提出してもらわないと……」

 田口先生はずっと画面に手をおいて、画面が消えないようにしている。きっとそうやってロック解除されたままで、写真を消してしまうつもりだろう。




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