第15話 再婚

 あのキャンプからどのくらいの時が経っただろう。長く続いたコロナ渦と呼ばれた時期も終わって、皮膚と同化していたマスクもする必要がなくなった。行き交う人々が顔をさらしている事に違和感を抱く。当たり前って少し怖い。昔の当たり前にやっと戻れたのに、時折マスク姿の人を見かける。

 

 僕はと言うと、まだあの喫茶店に足を運んでいる。星にした願いは叶い、エリさんとは年の離れた友人になった。マスターや他の常連さん達と一緒にキャンプに行ったり、カラオケに行ったりして、楽しくやっている。エリさんは歌が下手で、勝手にこの人は何でも出来ると思い込んでいた僕は、自分で生み出したギャップに笑った。


 相変わらず、カウンターで珈琲を飲みながら仕事の愚痴を聞いてもらっている。ごく自然にカウンターで隣に座っていたエリさんは、ある日からマスターと一緒にカウンターに立ち、僕と向かい合って話をするようになった。少しだけ驚いたけれど、エリさんがマスターを手伝う姿は店に馴染んでいた。


 ほどなくマスターから柄に似合わない可愛らしい封筒を渡された。結婚披露パーティーの招待状だった。

「エリちゃんがどうしてもやりたいって言うから。」と恥ずかしそうに下を向く。

相反してエリさんは、「裕太君、絶対来てね、もうそれ出席にマルしてあるから。」と元気いっぱいだ。二人はお互い一度結婚に失敗し、長く悩んだ末、共に歩む事を決めたらしい。パーティーはとてもささやかで、とても温かかった。さすがにウェディングドレスは着られないと、エリさんはオフホワイトのワンピースで現れた。二人はとてもお似合いで、僕は心から二人の門出を祝福した。パーティーに招いてくれた事も嬉しかった。ホホゥ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る