第3話 再会

 休み明け、義理土産を持って会社に行く。興味もないくせに「楽しかった?」と聞いてくる人達。表面だけの付き合い。全部が窮屈で居心地が悪い。生活のために時間を捧げているような物だ。仕事ってやりがいを感じながら生き生きとする物だと思っていたのに、そんな風に働ける人は、ごくわずかなラッキーパーソンだと気づくまでに時間はかからなかった。毎日会社を出る時には深いため息が一緒に出る。自分の存在理由が分からなくなる。迷った犬が本能で家に帰るように、システマチックに電車を乗り換える。久しぶりに早く帰れた。夜更かしをするのか、早く寝るのか、そんなどうでもいい事を考えていると、また視界にあの女性が飛び込んできた。今日はロングのタイトスカート。少し疲れているように見える。仕事帰りだろうか。耳にはイヤホン、視線は前に見かけた時と同じ、スマホの画面から離れない。便利になった世の中は、人と人の間に見えない壁を作った。周りを見渡せば彼女と同じ、イヤホンとスマホの透明で分厚い殻にこもっている人が多い。

 

 何を聴いているんだろう、結婚しているんだろうか。自分には現実味がなくても同年代の女性で既に結婚している人は割と多い。吊皮を掴んだ左手に指輪が見当たらないことに安堵する自分の感情に驚く。

「話した事もない人を好きになるのはやめようや。」そう言い聞かせている自分と、結婚していても指輪をしない人もいる現実に不安を感じている自分が牽制し合っていた。小指に一つだけシンプルな指輪をつけている。自分で買ったのか、もらった物なのか。どうしようもない事で心が疼く。どんな声をしているんだろう、どんな字を書くんだろう。我ながら馬鹿げていると思いながらも、どんどん彼女に惹かれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る