追加エピソード3 エキム一家のカイン旅行3

「さあ、うちに入って。あ、それともみんなへの挨拶を先にする?」


 チャムさんもカインは久しぶりだから、みんなにも会いたいだろう。


「ソルの赤ちゃんを見たい!」


 とういうことで、エキム一家とカァルをうちに招待することにした。


「もしかして、ここで靴を脱ぐの?」


 玄関で私が靴を脱いでいるのを見て、チャムさんが驚いている。


「うん、家の中も全部板張りにしているから素足で歩けるよ」


「すごくいい……あなた、うちでもお願い」


「えっ! わ、わかった。作り方を聞いておく。ユーリルでいいのかな」


 うんと答える。カインにいる間に聞く暇がなくても、地球で竹下に聞いたらいいからね。これからタルブクでも、こんな感じの家が増えるかもしれないな。

 それにしても、さすがは姉さん女房。旦那の意見すら聞かずに一声で決めてしまったよ。まあ、エキムもユーリルもこう言うのが好きなんだから仕方がないか。


「カァル、何やってんの?」


 チャムさんの言葉で振り向くと、カァルは土間に座ったままだ。他のみんなは靴を脱いで中に入ろうとしているのに、そこから動こうとはしてしない。


 カァル、サクラを見に来てくれたんじゃないのかな……

 あっ、私を見て足を上げた! あの合図は……


 慌てて濡らしたタオルを持ってきて、カァルの足を拭く。すると、ニャオンと言って中に入って行った。


「よく躾けてあるわね。まるで家猫みたい。でも、昔からそうだったかしら……」


 チャムさんが首をひねっている。

 地球では玄関にカァルが自分で足を拭けるようにタオルを置いているけど、今日は用意してなかった。まさか、来るとは思っていないし、さらに足まで拭いてくれるとは思ってなかったよ。


 みんなを居間まで案内する。そっとドアを開けるとサクラはスヤスヤと寝ていて、母さんは隣に座って編み物をしていた。物音に気付いてこちらをずっとを見ていた母さんは、私だけでなくチャムさん家族とさらにカァルまで現れたのに驚いていたようだけど、サクラが起きないように目だけで合図をして、部屋を出ていった。

 きっと、チャムさんが帰ってきたことをみんなに知らせに行ってくれたんだと思う。





「よく寝てるね」


「さっきお腹いっぱいお乳を飲んだからね」


 チャムさんと小声で話す。

 エキムはチャムさんの隣で、サクラを覗き込み、反対側からはカルシュ君とカァルが興味深そうにサクラを眺めたり、ちょっとだけ触ってみたりしている。

 やば、この子たちみんな可愛い!

 スマホなんてないのに思わずポケットの中を探ってしまったよ。


 あっ! カァルがサクラの顔を舐めだした。でも、急にそんなことをすると……


「う、うわぁんー!」


 ほらね。


 サクラを抱きかかえ落ち着かせる。カァルはバツが悪そうに私の足元で丸くなった。


「ソルもお母さんしているのね」


「うん、やっとそれらしくなってきたかも」


 サクラが少し落ち着いたから、空いた手でカァルを撫でてあげる。


「さあ、エキム、カルシュ。村のみんなに挨拶に行くわよ。ソル、また来るわね」


 チャムさん一家はカァルを残し、家を出ていった。


「サクラ、この子はカァル。私の相棒なんだ」


 泣き止んだサクラはカァルをジッと見つめている。まだ、ぼんやりとしか見えてないと思うけど、初めて見る物に興味があるみたいだ。


 カァルは改めて、私の腕の中のサクラの匂いを嗅いでいる。

 サクラはその様子を黙って見ていて、そしてキャッキャと笑った。


「カァル、よろしくって」


「ニャオン!」







 その夜は、久しぶりに帰って来たチャムさんとその家族を囲んでの村総出の宴会になった。


「いやー、あのリュザールがサクラに会いたいから早く帰りたいと言うだろう。子供が生まれるとこうも変わるかと思って付き合ってやったら、まさかチャムが来ているとは驚いたよ」


 セムトさんも夕方カインに戻って来た。ほんと間に合ってよかった。

 ちなみにリュザールは、帰ってきてからずっとサクラにつきっきりだ。セムトさんをチャムさんたちに会わせようと努力したのは間違いないと思うけど、サクラに会いたかったというのも紛れもない事実だろう。まあ、そのおかげで私はみんなと一緒に料理を作れるんだけどね。




「まさか、こっちでカァルに会えるなんて思ってもいませんでした。あれが本物のユキヒョウなんですね。兄ちゃんが虜になるのもわかります」


 寮の台所の中で、いつものメンバーで料理を作っている。ルーミンは話しながらでも、手が止まることは無い。ちなみにユキヒョウのカァルは、台所にいると大きくて邪魔なので、リムンのところに行っている。


「暁さん、カァルが来ること話してくれなかったんですか?」


「うん、何も言ってくれなかったからびっくりしたよ。たぶんカァルが内緒にしてって頼んだんじゃないかな。地球でもなんだか様子がおかしかったから」


 ネコのカァルもこちらでエキムと会った後あたりから、微妙に視線を逸らすんだよね。何か気に入らないことでもあったのかなって思っていたら、私を驚かしたかったんだね。


「ソルいる? サクラがお腹すいたみたいだよ」


 サクラを抱えたリュザールが台所を覗いてきた。

 もう、そんな時間なんだ。


「ソルさん、ここはいいですよ」


「ルーミン、ありがとう。すぐ戻って来るね」


 リュザールからサクラを受け取り、人目につかないところに向かう。


「あれ、ついてくるの?」


「うん、今日はサクラから離れないって決めたからね」


 まあ、いいけど。

 胸を開け、サクラを引き寄せる。目が見えるようになったサクラは乳首を見つけると一目散に口をつけた。


「お腹すいていたんだ。ほら見て、一生懸命に吸っているよ」


 どんどん吸われていっているのがわかる。


「どんな感じ?」


「うーん、お母さんって実感できる感じかな」


「いいなー、ソルは。ボクも女の子ならよかった」


「でも、それだと私と一緒になれないよ」


「そうか、でもかわりにソルが男の子だったら問題ないよ」


「男の子か……やっぱりダメ赤ちゃん産みたい」


「それなら樹が女の子」


「風花が男の子?」


「うん」


「まあ、それならいいか。でも、いまさら替われないからこのままいくよ」


「仕方がない。大学卒業するまで我慢する」


「あ、このまま寝ちゃうかな。吸う勢いが落ちてきた」


「ほんとだ、目がもう……あ、寝ちゃった」


「ふふ、はい、リュザール。私は台所に戻るね。たぶんアリスちゃんもそろそろのはずだから、ルーミンが待っているかも」


「っと、よく寝ている。それじゃ、ボクはみんなのところに行くね」


 チャムさんたちを歓迎する宴は夜遅くまで続いた。






「もう行くんだ」


「ソルの赤ちゃんを見たくて無理したからね。今度ゆっくり来るわよ」


 一日置いて次の朝、エキムたちはタルブクに戻るという。

 もう少しゆっくりしてもいいと思うんだけど、馬と羊を放牧に連れていかないといけないらしいから仕方がないか。タルブクのカルミルが美味しいのは、遠くまでいい草を食べに連れて行っているからだもんね。


「カァルもありがとう。ほら、サクラお別れだよ」


 カァルにサクラを近づける。サクラはまだよくわかっていないはずだけど、カァルに向かって手を伸ばして、カァルはその手をクンクンと嗅いでいる。

 ほんのちょっとの間だったけど、この子たち仲良くなったよね。カァルと並んで寝ている姿はほんと可愛かった。サクラって眠りながらでもカァルの大きな足をにぎにぎしているんだよ。肉球が気持ちよかったのかな。


 そうそう、カァルもエキムたちと一緒に帰るんだ。こちらもナワバリの見回りがあるから長い間、留守にできないみたい。それなのにサクラに会いに来てくれて、ほんと嬉しかったよ。


「皆さんお世話になりました――」


 エキムがみんなを代表して別れを告げ、三人と一匹はカインをあとにしていった。






「行っちゃいましたね」


 一緒に見送っていたルーミンがアリスを抱えてやってきた。


「うん、嵐のように来て、嵐のように去っていったね」


「また、何かの本の引用ですか? それよりも、チャムさんからカルミル飲ませて貰いましたけど、何ですかあれ。これまで飲んできたどのカルミルよりも数段美味しかったですよ」


「でしょう。たぶん、馬たちが食べる草が違うんじゃないかって思っているんだけど……」


「草…………もしかして! ソルさん、その草の生えているところを見させてもらうことはできるでしょうか?」


「エキムに聞かないとわからないけど、他の人に場所を漏らさないなら教えてくれるんじゃないかな」


 栄養豊富な牧草は一種の財産だからね。よそ者の私たちが横取りしたり、人に話したりしてはいけないと思う。


「そこに生えている草を調べたいだけです。誰にも漏らしません。それじゃ、早速聞いてきます!」


「ち、ちょっと待って! もう間に合わないよ。それに現地に行かないといけないんでしょう」


 ルーミンは、はいと言う。


「それなら、アリスがもう少し大きくなってからじゃないと無理。置いて行けないんだから」


 ルーミンはアリスをしっかりと抱え、そして話し出す。


「そうでした。自分ももう少し勉強してからの方がいいかもです。よし、受験頑張ろう!」


 なんだか知らないけど、ルーミンも気合が入ったみたい。

 それにしても、草を調べて何をしたいんだろう……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「追加エピソードお読みいただきありがとうございました!」」


「なんだか意味深な終わり方しちゃった。このエピソードはこれで終わりのはずなのに」

「ふふふ、私は、これで探し求めていた物が手に入るかもしれないと興奮しています!」

「何か欲しい物があったの? 言ってくれたらリュザールに頼んで手に入れてもらったのに」

「こればかりはたとえリュザールさんでも無理なので、ほとんど諦めていました。でも、もしかしたら……」

「いったい何なのか気になる。教えて?」

「それはですね――――」

「えっ! ほんと! 私も欲しい」

「ただ、今、手に入れてもうまく使いこなすことができません。勉強が必要です」

「あー、それで受験頑張るって言ったんだね」

「ですです。準備が整ったら絶対に手に入れて見せます!」

「頑張ろう! というわけで、今回の追加エピソードはこれにて終了です」

「次回はこれを手に入れる話ですか?」

「うーん、どうだろう。追加エピソードは時間軸に沿って書いているわけでもないようだし……」

「まあ、いいです。私か海渡が活躍する話なら何でも、ということなので、作者さんすぐにでも書いてください!」

「あはは、いつになるわからないそうですが、ちゃんと書くみたいなので、フォローして待っててくださいね」

「☆もお待ちしています!」

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