追加エピソード2 凪と海渡の東京旅行
ピンポーン!
お、来たかな。
「はーい」
玄関に向かいドアを開ける。
「せんぱーい。会いたかったですぅ―」
開けた途端、海渡が抱き着いてきた。
「海渡邪魔! 入り口を
なんだかこの感じも懐かしいなー。
「二人ともよく来たね。上がって」
「「おじゃましまーす」」
海渡を引きずりながら居間へと向かう。
凪と海渡の二人は夏休みを利用して、来年の受験の下見にやって来たのだ。
「竹下先輩たちはいつ頃戻られるんですか?」
「竹下は夕方だね、風花はもうすぐ帰って来るよ。二人ともお茶を入れてくるから好きなところに座って待っていて」
二人を居間に残して台所へと向かう。
ちなみに竹下は秋一さんの会社にバイトで行っていて、風花は土曜日なので遠野先生の道場で暁と一緒に修行中だ。
「樹先輩、カァルの部屋を見てもいいですか?」
「右の部屋だから、好きにどうぞ―」
「僕は自分の部屋を見てみます」
二人が移動する気配を感じながら、お茶の用意を続ける。
「せんぱーい。カァルはどこですかー」
凪はカァルも探していたのね。
「カァルは彼女のところだよ」
お見合い以来、カァルは時々ミルの家に預ける事になった。今日はちょうどその日なのだ。
「カァルのお相手の子が気になりますね」
すでに隣の部屋から戻っていた凪にお茶を勧める。
「後から一緒に迎えに行ってみる?」
「是非!」
三人でお茶を飲んだ後、海渡も誘ったけど部屋でお布団の寝心地を試しますということなので、凪と二人でカァルを迎えに行くことになった。
「碧とはどんな感じなの?」
カァルがお世話になっているミルの飼い主の山本さんの家までの間、思わず凪と二人っきりになったので尋ねてみた。こういう話題は海渡がいない方が聞きやすいからね。
「サーシャと一緒になれたので碧君とももう少し進みたいのですが、さすがに今はまだ……」
つい先日テラでリムンとサーシャ、テムスとコペルの結婚式を行った。結婚したのなら当然夜の営みもあるわけで、凪は地球のサーシャである碧ともと思っているんだと思うけど、碧はまだ中学生なんだよなー。
「お互い受験で忙しいかもしれないけど、二人で一度話した方がいいかもしれないね」
「そうですね……わかりました。戻ったら話してみます」
凪は東京の大学を希望していて、碧は地元の高校へ進む。最低でも三年は長距離恋愛になるんだから、ちゃんと話し合ってほしい。
正直に言えばさっさとやっちゃえって思うんだけど、地球ではテラのつもりで考えたらいけない。まあ、テラではだいたい14才から19才の間に結婚して、すぐに子供を作るのが当たり前だ。だから、そういうことに関しての僕たちの考え方がこちらの人たちと違ってくるのは仕方がないとは思うけどね。
「ここだよ、ここにカァルがいるんだ」
山本さんのお宅のインターフォンを鳴らす。
「はーい」
「樹です。カァルを迎えに来ました」
「待って、すぐに開けるわ」
ドアが開き、山本さんだけでなくカァルとミルも玄関まで来てくれた。
「カァル!」
カァルは凪の姿に気付き、その場からピョンと飛び付き、凪も
「ニャー!」
カァルも凪に会うのが久しぶりだから、嬉しいんだろう。凪の顔をペロペロ舐めているよ。
「カァル、この子がミルちゃん。可愛い子じゃん」
「ニャ!」
ミルも凪の足元に寄り添い体をこすりつけている。凪とも仲良くなってくれそうだね。
「山本さん、凪も来年から夏さんのところに住むんですよ。よろしくお願いしますね」
凪の紹介もすんだところで、凪と一緒にカァルを連れて家に戻った。
「ただいまー」「ただいま戻りましたー」「ニャー」
「「「おかえりー」」」
お、風花たちも戻っていたみたい。
「せんぱーい、エキムのやつを何とかしてください!」
いったい何事なの?
居間に着くといきなり海渡が泣きついてきたんだけど。
「やつって……お前、おれは一応先輩だろうが、それに俺は遠野暁! エキムはあっちの俺!」
「ねえ、何があったの?」
海渡と暁がじゃれ合っているのを横目に見ながら、風花に尋ねた。
「私が暁君と一緒に帰ってきたら、海渡君がそこの部屋で寝ていて、それを見た暁君がそれは俺の布団だぞって言って、そしたら海渡君が……」
しょうもない理由じゃん。
「ごめんね海渡、海渡用の布団はまだ買って無いから、それはお客様用なんだ」
「なあ、言ったろう」
「だからって、暁専用でもないからね」
「……」
大学が始まって、暁は時々この家に泊まりに来ることがある。その時にさっき海渡が寝心地を確かめていた布団を使わせてあげていたんだけど、自分用と思っていたとは……これは、ちょっと教育が必要かも。まあ、それはあとからやるとして、まずは、
「二人とも遊ぶのはその辺にして、海渡、晩御飯を作るから手伝ってくれる?」
「はい!」
準備していた材料で海渡と手分けして料理を作る。これだけ人が集まるときに作るのは当然プロフだ!
「おっ! これは羊肉じゃないですか!」
「うん、こっちにはいろんな人たちが住んでいるからね。羊の肉を売っているお店も多いよ。ただ、テラのような味じゃ無いみたいなんだ」
「あー、それは仕方がないですね。テラでは目の前で飼っていますから新鮮さも違いますし、食べている草も違いますよ」
テラの羊たちは栄養たっぷりの草を食べているし、その草を食べるためにたくさん移動する。運動量からしてこちらの羊と違うから、それで肉の味が変わっているのかもしれない。
「一度海渡に作ってもらって、味をどうしたらいいか聞きたかったんだ」
「了解しました! 肉のうまみは仕方がないですけど、こちらは香辛料がありますから調整しながら作ってみましょう」
せっかくなら羊肉の美味しいプロフが食べたいよね。
夕方になって竹下も帰って来て、美味しい料理もできた。地球でこれだけの人数で食べるのは久しぶりだ。
「夏さんも来ればよかったのに」
「ばあちゃんは友達と歌舞伎を見に行ったからな。帰りはご馳走を食ってくるはずだぜ」
そうか、それなら仕方がないな。
「みんな行き渡った。それじゃ、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
久々にみんなの顔を見られてよかった。いつもテラでは会っているけど、あちらとこちらでは違うからね。今夜はきっと楽しく過ごせるはずだ。
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あとがきです。
「海渡です!」
「樹です」
「「お読みいただきありがとうございました」」
「よかったですぅー。もう、東京に行くことができないのかと思ってました」
「どうして?」
「だって、春休みのあといきなり10年後でそこで本編が終わっちゃったんですよ。夏休みとか大学とかのイベントがみんな飛ばされていてショックでした」
「そうだね、サクラが生まれてきてちょうどキリがよかったみたいなんだよね。あのあとも続けていたら100万字コースになりそうだったみたいだよ」
「100万字でも200万字でも書いたらいいのに……」
「あはは、無理言わないの。これからもちょくちょくこんな感じで空白を埋めてくれるんじゃないかな」
「絶対ですよ! サクラちゃんやアリスの話も気になりますけど、僕たちの話もちゃんとしてほしいです。このままだと僕と唯ちゃんが一緒になれたのかわかりません」
「あれ、自信無いの?」
「何言ってんですか、自信ありまくりですよ! 唯ちゃんは僕にべた惚れだし、僕だって唯ちゃん以外は何とも思いませんよ」
「はいはい、ごちそうさま。さて、今回の2022年ゴールデンウィーク追加エピソードとして2話、サクラのお勉強として特別編を1話お届けしましたがいかがでしたでしょうか」
「僕のエピソードがまだまだあるはずですから、皆さん作者を監視して忘れているようなら早く出すように催促してくださいね」
「催促って……。えーと、ご感想などもお待ちしています。それでは皆さん」
「「またねー」」
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