第176話 その紙どうしたの?

「樹、その紙まだ持っていたのだ……」


 うん、持ってるよ。大切なものだからね。


「剛もわかるんだ。もしかして風花も読めるの?」


「うん。暁君はなんて書いているのかわかる?」


「【僕はユーリルです。ソル、こちらでもよろしく】」


 暁はテラの発音でその言葉を話す。

 そう、これは竹下とユーリルが初めて繋がった時に、その証拠として書いてくれたもの。初めての仲間ができたあかし、僕の宝物だ。


「ねえ、これどうしたの?」


 引っ越してきたばかりだからしまい込んでは無かったけど、大事なものだからすぐわかるところに置いていたとは思えない。


「俺はお前たちの部屋に入ってはないぞ! カァルが持ってきたんだ」


「カァルが?」


 そういえば昨日の夜、荷物の整理をしているときに出てきたからカァルにも見せてあげたんだった。


「うん、みんなを待っている間カァルと一緒にいたんだけど、このカァルがユキヒョウのカァルだったらいいなって思って助けを求めたんだよ。そしたら急にいなくなって、戻って来た時にはこれをくわえていた……」


 ユキヒョウのカァルに助けを? 僕たちは暁の話を聞くことにした。






「えっ! それじゃ、タルブクに盗賊が来ているんだ」


 やはり暁はエキムで、穂乃花さんと同じように一方的にあちらのことを見ることしかできないらしい。


「……明日の朝には女と食料を渡せって言われている」


「他に男たちは? それくらいの人数ならみんなで抵抗すればいけるだろう」


「うん、普段はそうしているんだけど、去年が山頂の湖まで行けなかったじゃないか、だから馬と羊が冬の間に瘦せちゃってさ、すぐにでも新鮮な草を食べさせないといけなくなって、ほとんどの男たちが出かけたばかりなんだ」


 遊牧民にとって家畜は何よりも大切なものだ。その家畜を守るためにやったことなら責めることはできないだろう。


 そして暁によると村に残っている男は、鍛冶工房の建設をしていた者たちだけでエキムを含めて3人しかいないらしい。盗賊も4~5人なんだけど、腕に覚えのある者が残っていないから言いなりになるしかないって言っていた。


「それで、ユキヒョウのカァルが来てくれたら、盗賊を退治してもらえるのにって思ったんだね」


「そうなんだ、もしかしたら近くにいるかもしれないと思って……」


 去年の春に通った時のカァルの縄張りは、タルブクよりもカイン寄りだった。移動していたらいいんだけど、


「ねえカァル、タルブクの近くにいるの?」


 カァルは首を横に振る。あまり変わっていないみたいだ。


「ねえ、このカァルって?」


「うん、ユキヒョウのカァルと同じ人格……猫格?」


「ちょっと待って! ダメ元で話していたんだけど、こっちのカァルはあっちのカァルなの!」


 カァルは「ニャ!」と鳴き、テーブルの上に前足を上げて暁を見つめる。


「す、すごい! でも、お前たちも俺と同じようにあちらのことがわかるだけだよね。伝えることができたらいいんだけど……」


 暁に僕たちのことを教える。


「そんな……そうか、それでカインはあんなにも技術が進んでいたし、それにお前たちに計算も教えてもらった……あれ? でもソルは女の子……風花な感じはしないし……もしかして樹?」


 僕は首を縦に振る。


「樹はソルかー。道理で女の子っぽくなかったんだ。剛はユーリルだろう。そのまんまだから、それじゃ風花は?」


「ボクだよ、わからない?」


「その話し方はリュザール! あはは、参ったな……」


「ねえ、暁。もしエキムと繋がれるとしたら、盗賊は退治できるの?」


 暁はかなりの実力も持ち主だった。その辺の盗賊ならなんてことないだろう。でも5人を相手にするのは慣れてないと難しい。


「ああ、5人を一度に相手にしなければ簡単だな。別々にやるのは得意なんだ」


 どうやら、暁にも何か秘密がありそうだ。






 僕は暁にテラと繋がる方法と注意点を教える。


「そうか、樹かソルと手を繋いで寝ることで完全に繋がってしまって、戻すことはできないってことだよね」


「たぶんだけど、これまでのみんなはそれで繋がった。それでも構わないなら僕は協力できる」


「よろしく頼む。このままじゃ、チャムが獲られる! それにエキムや子供の命も危ない。そんなことはまっぴらごめんだ! それにもうこんなに仲間がいるんだろう。心強いじゃないか!」


 急遽、男だけのお泊り会を開くことになったので、暁が着替えを取り家に帰るついでに風花もついていって、少しだけ道場で指導を行うことになった。

 暁は少人数相手には得意といったけど、一対一で風花にはかなわなかったからね。ほんのわずかな時間だけど、風花の技を吸収して底上げをしたいみたい。なんせ命にかかわることだから、万全を期すのはおかしいことではない。


「それじゃ、料理を作って待っているよ」


「夕方には戻ります。行ってきまーす」「行ってくるね」


 風花と暁を送り出した僕たちには仕事が待っている。


「さてと、竹下。一緒に料理を作ろうか」


「うそ!? 今日からなのー。勘弁してよ!」


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あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「暁はやっぱりエキムだった」

「会ってからの親近感のわき方が半端なかったからな」

「一か月近くの間、昼夜問わず一緒にいたからね」

「それにしても樹と暁の仲の良さっぷりは異常だよな。何かあった?」

「うーん、何もないけど、初めてあった時から昔からの知り合いのように感じていた。エキムだからだと思うけど、違うのかな?」

「……わからん。でも、ほどほどにしとけよ、風花が妬くからな」

「わ、わかっているよ。それでは次回更新のご案内です」

「次回の内容はひたすら料理をさせられました。うぅ、まだ手が痛い」

「あれぐらいで泣き言を言わない! 結婚披露宴の時とか大変なんだから」

「わ、わかっているよ。次からは感謝しながら食べるって」

「いや、作るのも手伝ってね」

「とほほ、それでは次回もお楽しみに……」

「ほら、元気出して! 皆さん次回もまた会いましょうね!」

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