第167話 工房責任者たちの話し合い
ルーミンの出産から半月がすぎ、地球の暦ではもうすぐ二月に入る。
「アリスも静かなもんね」
「ええ、この部屋の音をお腹の中でずっと聞いていたからでしょうね。落ち着くみたいです」
ジャバトからアリスと名付けられたルーミンの赤ちゃんは、生まれて3日目からこの部屋に出入りしている。
ここにはベテランの奥様方がたくさんいて何かと手助けしてくれるし、お父さんのジャバトもいて、ルーミンも家にいるよりずっと安心できるんだと思う。
しかし、ジャバトがアリスという地球風の名前を名付けた時にはびっくりしてしまった。
ジャバトと唯ちゃんが繋がりかけているのかと様子を見てみたけど、そうではないみたい。ただ、唯ちゃんが好きなお話の主人公がアリスという名前なんだよね。もしかしたら潜在意識で繋がっているのかもって、みんなと話している。
「それにしても子供が増えたわね。春にはソルの子も生まれてくるでしょう。お昼寝させるのも一苦労しそうだわ」
これまでもラザルとラミル、ルフィナだけでなく、他の職人の子供もいて常に織物部屋には5~6人は子供がいる状態だった。そこにアリスが加わり、春にはリュザールと私の子供も加わることになる。
織物部屋ではお母さんたちが安心して働けるように、子供たちは目の届くところで誰かが面倒を見ることになっている。でもそれは託児スペースがあるわけではなく、刺繍や仕上げをやるための場所を使っているので、針を使った作業の時には注意が必要なのだ。だって、子供は手に掴んだものをすぐに飲み込んじゃうから、目が離せないんだよね。
十分なスペースあったらいいんだけど、すでに機織り機が目一杯並んでいるから子供だけで遊べる場所を作るのは難しいんだよ。
「織子さんもまだ増やしたいよね」
「はい! それは切実にお願いします! これからタルブクとの交易も始まるんですよ。タオルばかりは勘弁してください!」
ルーミンの言うこともわかる。新たに交易先が増えるのだから、人を増やさないとここにいる職人に負担がかかってしまう。他の村の分を減らすわけにはいかないからね。
「後からユーリルたちと会うから話してみるよ」
託児所をわざわざ独立して作る必要はないと思うけど、人を増やすには機織り機を入れないといけない。その場所が無いのは間違いないんだよね。
「そっかー、織物部屋も広げないといけないのか」
ユーリルの家でユーリルとアラルクとパルフィと集まってお茶を飲んでいる。
定期的に各工房の責任者が集まって話し合いをしているのだ。
「
「俺のところが忙しくなりそうなんだよね」
あー、そうか。アラルクのところは仕方がないか。
アラルクのグループは最近では家を建てることが多いけど、本来は荷馬車を作っている。これまでは他の村に技術を教えて作るようにしていたから、カインで無理に作る必要が無かったんだけど、山道への交易に使うような新型の荷馬車を作るようになったからね。また、新たな需要が発生してしまったのだ。
「あたいのところはいつでも広げて欲しいけど、炉がなー」
パルフィの鍛冶工房は、ずっとフル稼働状態だ。設備の増強には金属を溶かすための炉が必要なんだけど、火の加減をできる職人には限りがある。
「リムンは炉の管理は出来そうなの?」
「ああ、あたいの代わりができるくらいにはなっているぜ。ただ、もう一人欲しいんだよな。そいつがいたらすぐにでも広げてもらうんだけどな」
パルフィによると炉の火加減は難しいらしく、一人で一度に二か所以上の炉を見ることができないらしい。かといって、タイミングをずらして火加減を見るのでは意味がない。だから、炉を増やしたいなら炉の管理ができる職人が必要なのだ。
リムンはそれができるみたいだから、増やそうと思えば増やすことは可能だけど、それだと二人が付きっきりで仕事をしないといけなくなる。それはさすがに大変だ、トイレにも行けなくなっちゃうからね。
「テムスはまだ無理かな」
テムスはファームさんのところで一年間修行してきた。技術が足りないということは無いと思う。
「ああ、技は持っているんだが、まだ幼くてな……」
確かにまだ春の中日が来てないから12才なんだよね。無理を言っちゃいけないか。
「鍛冶工房はいつでも増築できる準備をしておくことにして、春になったら織物部屋を新築して移ってもらうか。そして空いたところをアラルクと俺のところで分け合って使うってことでどうかな」
ユーリルのところは機織り機を作っているけど、新商品の開発もしているんだよね。アラルクと一緒にやったら効率も上がるだろう。
「場所はどこにするの?」
「寮との間にするか、お風呂の東にするか……」
「広場は空けておきたいよ」
工房と寮との間の広場は、結婚式や収穫祭で使うのにちょうどいい。
「んじゃ東だな。アラルクと一緒に場所を探しておくよ」
今の場所からは遠くなるけどほんの僅かだし、広くなる分みんなも喜ぶだろう。
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あとがきです。
「ソルです」
「ルーミンです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「アリスちゃんかー」
「えへへー、可愛らしい名前でしょ」
「ほんとそうだよ。赤い髪も似合っているしね」
「ユーリルさん、ビデオか写真……いや、いっそのことスマホを開発してくれませんかね。今この瞬間を残しておかないと」
「気持ちはわかるけど、さすがにそれは……スマホは無理にしても写真ぐらいはやりそうだな」
「でしょ!」
「でもたぶん、30分くらいじっとしとかないといけないやつだよ」
「30分って、あの坂本龍馬が写っているようなものですか?」
「いや、あの写真の時は進化していて30秒だったらしいよ」
「あー、それだったらアリスが寝ているときならできそうです。早速作ってもらいましょう」
「あはは、さすがにすぐには無理だよ。それでは次回のご案内です」
「あーあ、今が可愛いのに……」
「次回は東京でのお話になります。アリスちゃん、しっかり目に焼き付けておこうね」
「はい! それでは皆さん次回も読んでくださいねー」
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