第162話 久々の勉強会
「よかった。やっと帰ってくれた……」
今夜は久しぶりにユーリルの家に集まっている。ようやくみんなで勉強できるようになったのだ。
「すまねえな。あたいが父ちゃんをたきつけたばかりに」
ファームさんは最初10日ほどで帰るつもりだったみたいだけど、この前村長さんたちに大好評だったお風呂用の釜をファームさんの工房でも作ってもらおうということになって、その技術を教えるときにパルフィがやらかした。
ファームさんに向かって『職人なら技を盗むもんじゃねえか』って言ってしまったのだ。
『パルフィの言うことももっともだ。ただで教えてもらったものが、手に付くはずがねえ。そんなわけで、しばらく鍛冶工房の手伝いをさせてもらうから、帰ってきた早々悪いが婿殿しばらく厄介になるぜ』
タルブクへの道の調査から帰った途端、ユーリルはファームさんからそう言われたらしい。
『逃げずにパルフィと打ち合わせしとかないからこんな目に遭うんだよ』
翌日、半泣きで樹のところに愚痴をこぼしに来た竹下にそう言ったのは仕方のないことだと思う。
「戻ったらちょうど帰る頃だと思っていたんだけどな……」
ユーリルの計画は大体うまくいくように思うけど、ファームさん相手の時だけは裏目になっている気がする。たぶんよほど相性がいいんだと思う。
「でも、さすがはファームさんだよね。あんなに早く習得しちゃうんだから」
普通の職人なら半年くらいかかりそうなのを、たった一か月でものにしていったんだよね。
「まあな、あたいの父ちゃんだからな。それに、他の職人もピリッとしたからいい刺激になったんじゃねえか」
テムス以外の職人はファームさんと一緒に働くのは初めての事だった。ファームさんにパルフィ、二人の一流の職人の技を身近に見れて勉強になったのは間違いない。
「エキムが連れてきた職人さんはものになりそう?」
「ああ、春までいたらある程度はできるようになると思うぜ、そのあとは本人次第だけどな」
タルブクに帰っても、技を磨いて行かないといけないということなんだろうな。
「ユーリルさん、できました。これでどうでしょうか」
「どれどれ…………おー、ルーミン。やればできるじゃん」
ルーミンはユーリルから出されたかなり難しい問題を解いていたんだけど、うまくできたようだ。
夏以来
せっかく同じ大学に行くのなら、一緒のところに住んだ方が家賃もそうだけど、食べ物とかお風呂とか諸々の諸費用を節約できる。かといって、最初から三人で住める部屋を借りていても、海渡が一年遅れて入学してくるから一年間余分にかかる費用の負担をどうするのかって問題があったんだよね。
でも、今度夏さんが貸してくれる家は四人家族が住めるくらいの部屋数があって、それを二人分の家賃で貸してくれることになっていた。
そして翌年海渡が来た時に一緒に住めるか聞いてみたら、家賃はそのままで住んでいいよって言ってくれたのだ。
もちろん海渡が、風花たちと一緒に住む予定の凪の双子の弟だってことは伝えている。
そして海渡にたまには夏さんに料理を作ってあげようって話しているんだ。お世話になりっぱなしでは悪いからね。
「ユーリルさん、僕のも見てください」
「……うん、リムンもできているよ」
リムンもこの前ユキヒョウのカァルに会ってから、猫のカァルともより仲良くなったように思う。そのカァルと近くに住めるとわかってから、大学に確実に合格できるように気を抜かずに頑張っているようだ。
「リュザールには悪いことしたな」
「うーん、どちらにしろ、シドさんには会いに行かないといけないって言っていたから、少し時期が早くなっただけだよ」
リュザールはファームさんを送るために、予定より少し早めにコルカに向けて隊商を出すことになった。まあ、少しでも早くファームさんを送り届けてあげた方が、ユーリルのためになりそうというのもあったんだけどね。
「風花は勉強の方は大丈夫だよな」
「うん、大丈夫だよ。家では私と一緒にやっていたし、一人でもしっかりできるから」
ユーリルの家に集まれないときにはリュザールと二人で勉強をやっていた。そうでなくても風花は一人でコツコツとやれるタイプだから心配していない。今頃隊商宿で一人復習をしているはずだ。
「あー」
お、ラザルとラミルが起きたみたい。
「お前たち、姉ちゃんたちの邪魔をするなよ」
パルフィの忠告を聞かず、二人の兄弟はとことこと真っ直ぐにリムンの方に向かって行った。
「おー、二人ともしばらく見ない間に大きくなったね」
おや、リムンは二人に会うのは久しぶりなんだ。
……あ、そうか、リムンは鍛冶工房にずっといるから会ってないんだ。ラザルとラミルが歩くようになって、パルフィが仕事の間は織物部屋で預かっている。さすがに鍛冶工房で歩き回るのは危なすぎるからね。
「将来は鍛冶屋さんになってくれるかな。お兄ちゃんが教えてあげるよ」
リムンも久々に二人に会って嬉しいんだろう。顔がにやけているよ。
「リムン、こいつらが鍛冶屋をするのは間違いねえし、教えてもらうのは嬉しいが、お前もそろそろ相手を見つけて自分の子供を持たなきゃだめな年だぞ」
ありゃりゃ、とうとうパルフィに言われちゃった。
「うっ、わ、わかっています」
リムンは17才。地球だとまだ結婚のけの字も出ない年だけど、こっちではそういうわけにはいかない。コルトのように20才まで結婚してないとかほんとに稀なんだ。
「どうする。リムンがいいなら父さんに言って話を進めるけど……」
せっかく話が出たからこのまま続けてみよう。
「サーシャの気持ちを考えないと……」
リムンの中での相手はやっぱりサーシャなんだよね。サーシャの方もリムンを相手に思っているようだけど、進まないのはもしかしてそれぞれが相手から話が来るのを待ってんのかな……
「サーシャも来年15才になるから……父さんもいつまでも待ってくれないよ」
「そうですよ。兄ちゃんが覚悟決めなきゃ、サーシャ違う人のところに嫁いでしまいますよ。それでいいんですか!」
「で、でも……」
「あー、もどかしい! リムン、明日サーシャに話して来い! これは命令だ。鍛冶工房の中でいつまでもイジイジされちゃ他の者の士気に関わる。スパッと決めてこい!」
「は、はい!」
パルフィのおかげでやっと話が進みそうだぞ。明日が楽しみだよ。
翌日、リムンはパルフィの監視のもとサーシャに結婚の申し込みをして、あっけなくそれを了承してもらった。
織物部屋でそのことを聞いた私は、事の次第を父さんに伝え結納の準備を進めていく。
「え、俺がリムンのお父さん役なの?」
リムンの結婚については、リムンの両親からこちらで決めていいと了解してもらっている。その代わり結納の品はこちらで用意するんだけど、リムンのお給金からそれは準備できるし、サーシャは父さんの子になっているからいらないと言えばいらない。
でも、こういうものは形を整えることが重要なので、しっかりとやる必要があるのだ。
「リュザールはしばらく帰ってこないし、年下のジャバトがやるのはおかしいでしょ。可愛い後輩のためだからしっかりやりなよ」
それから数日後、結納の品を揃えたリムンとユーリルは父さんとサーシャの待つ家へ向かう。
「私たちは、サーシャさんをわが息子リムンの嫁にもらい受けるためにこちらに参りました。それでは、タリュフさん。こちらが結納の品でございます。どうかお納めください」
「ユーリルさん。確かにお受けいたしました。サーシャ共々末永くよろしくお願いします」
結納が済んだことでリムンとサーシャの結婚式はいつでもできるようになった。たぶん来年のテムスとコペルの結婚式と一緒にやることになるんじゃないかな。その方が賑やかになるしね。
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あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「パルフィのおかげで助かったね」
「わざわざ言わなくてもリムンがビシッと決めてくれると思っていたんだけどな」
「真面目過ぎるというか、相手に気を使いすぎるというか……、もしかしてサーシャから告白があるまで待つつもりだったのかな」
「さすがにそれはないと思いたいけど、ありえないと言えないのがあいつらしいんだよな」
「ルーミンは取り合えずやってから考えるけど、リムンは考え抜いた挙句にやっとやるかどうか……双子なのに正反対」
「あいつらそれでうまくいっているのかもしれないな。さて、次回のご案内です……えーと、10月に入るようです」
「10月ならあれの時期かな」
「ですです。皆さん次回もお楽しみにー」
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