第163話 今年も収穫祭の時期が来ました
秋の
今年も収穫祭を行うことになっていて、毎日少しずつ準備を進めているけど、去年のような慌ただしさはない。というのも、カインの住む適齢期の若い子たちがバーシで行われる婚活パーティを兼ねた収穫祭に参加するため、こちらでは去年のようなイベントはやらないことに決めたのだ。かと言って、今年の収穫祭が寂しいということは無いと思う。バーシから橋を作る職人が10人くらいカインに来ているし、屋台も去年以上に出すことになっているからね。
「ルーミンごめんね。身重なのに屋台をお願いして」
織物部屋からの帰り、一緒に並んで歩いているルーミンに声をかける。
今年はルーミンには休んでもらおうと思っていたんだけど、ルーミンの屋台を楽しみにしている村人が結構いた。それでルーミンに聞いてみたら『いいですよ』って簡単に請け負ってくれたんだ。
「大丈夫ですよ。売るのはジャバトに任せますし、今年はローランも手伝ってくれますからね」
元々お姉ちゃんっ子のローランは、ルーミンの妊娠が分かってからよく手伝ってくれるようになった。きっと、ルーミンの赤ちゃんに会うのを楽しみにしているんだろう。
ちなみにルーミンたちのもう一人の弟のレノンは、年頃ということでバーシの収穫祭に参加する予定だ。
「私も手伝うけど、無理はしないでね」
「はい。立ちっぱなしはしないつもりですし、動いてないと安産にならないって聞きましたからね」
ルーミンは妊娠7ヶ月だ。
お腹も大きくなっていて動きにくい時期になるみたいだけど、織物部屋の奥様方から無理しない範囲で動きなさいって言われているのだ。
「ご飯は食べられている?」
「ええ、食欲はありますよ。話に聞いていた胸がつっかえるってことは無いですね」
このころになると赤ちゃんが大きくなって、お母さんの内臓が圧迫されるから食べ物が入らなくなる人もいるらしいけど、ルーミンはその心配はいらないみたい。
「おや、ソルさんもお腹がふっくらしてきましたね」
私は大体4か月。そろそろ安定期に入ろうかという頃になっている。
「うん、少し大きくなったかな。そのせいか腰がだるく感じるよ」
「あー、私もなりましたよ。軽い体操で
そうなんだ。ルーミンが先に経験してくれているから助かる。
「ありがとう。あとでサーシャたちとお風呂に入るからその後でやってみる。それで、ルーミンは何の屋台をするつもりなの?」
「ユーリルさんから無理やり砂糖を確保しましたからね。それに小豆も。みんなの度肝を抜いてあげますよ」
砂糖に小豆と言えばあれか、海渡の作ったものは美味しかったからなー。みんなもびっくりするだろう。
「うどんはやらないの? 前回好評だったよ」
「うどんは他の子に頼みました。あれって、結構重労働なんですよ。今の私じゃ難しいですね」
確かに小麦粉を混ぜて麺を打ったり、叩いたり。かなり力のいる作業だ。今はしない方がいいだろう。でも、他にやってくれる人がいるのなら、楽しみにしている人たちも納得してくれるんじゃないかな。
ハチミツのおじさんは養蜂を習って去年よりもたくさんのハチミツを用意してくれるみたいだし、靴屋のおじさんも新しい靴を作ったって言っていた。
うどんにルーミンの例のあれ、そしてパルフィが、新しい道具もお披露目するって張り切っていたから出店も賑わいそうだ。
「去年はハチミツのおじさんと人気を二分しましたが、今年は負けませんよ!」
ははは、屋台で競争することは無いけど、努力することはいいことだよね。
今年の収穫祭も楽しみだよ。
「ねえ、風花。そっちの方はどう? みんな集まってきた?」
今日は秋の大祭の初日だ。僕たちは学校帰りに縁日に繰り出している。今日くらいは受験勉強を休んでも許してもらえると思う。
「カイン、ビントだけじゃなくてマルトからも若い子が来ていたよ。マルトの村長さんに聞いてみたら、やっぱりトールさんから話を聞いたんだって」
さすがはトールさんだ。会社なら間違いなく優秀な宣伝部長だな。
今年の収穫祭は去年が少し寒い時期になったので、少し早めて行うことになった。ちょうど地球のお祭りの
リュザールがバーシに行くと決まった時、出店で売れなかったときのフォローをしなくて済むと思ったことは内緒だ。
去年は結構大変だった。リュザールとはまだ二人きりになれなかったから、こちらで風花とデートをして機嫌を取ったりしてさ。まあ、それも楽しかったんだけどね。
「お待たせ―、皆さんの分も買ってきましたよー」
皆さんの分もって……、海渡がじゃんけんに負けたからみんなの分も買いに行ったんじゃなかったっけ。
「ありがとう。それじゃ、そこの公園で食べようぜ」
普段は子供たちが遊んでいる公園も、この時だけは周りに屋台が立ち並び、中央には地元の青年団体が設置したテーブルが並べられている。
そこでは屋台で買った物を持ち込んで食べることができるんだ。
「唯ちゃんたちは?」
「さっきここにいるって知らせたよ。もうすぐ来るんじゃないかな」
唯と碧は親戚が今年の祭りに出ているみたいで、そこに挨拶してから来るそうだ。
「なあ、海渡。これ何人分買ってきたの?」
竹下は海渡が買ってきたお餅の包みを眺めている。確かに思ったよりも大きい……
「7人分おひとり様3個ですよ」
ということは21個か……ん?
「おつりは?」
「そんなものありませんよ。有り金で買ってきました」
僕と竹下で1000円ずつ渡していたけど、
「足りなかったんじゃないの?」
「ええ、足りない分はこの海渡が出してますが、皆さん遠慮なく食べてください!」
「いや、まあ、足りない分を出してくれたのはありがたいけど、お前これ食べきれるの?」
海渡が買ってきたお餅には、中に
「楽勝じゃないですか! ……あれ、皆さん違いました?」
竹下も風花も凪も首を横に振っている。僕はまあ食べきれないことは無いかなって感じだ。
「……なあ、海渡。お前こっちでも食欲が増してないか?」
竹下が海渡に神妙な顔で尋ねている……。
「……そういえば、そんな気がします。もしかしたらお腹の子に栄養が行っているんですかね?」
お腹の子に……そんなことがあるんだろうか。
「ん? ちょっといいか、その腹、出てきてないか?」
「うぎゃ!」
竹下にお腹を摘ままれて海渡が叫んだ。
僕も海渡のお腹を触ってみたけど、今までよりもふっくらしているような気がする。
「ま、まさか、こちらでも……」
「俺たち特別だからそんなわけないとも言えないけど、触った感じじゃ赤ちゃんはないな」
確かにルーミンやソルのお腹を触った感触とは違う。
ということは……
「とほほ、あちらで二人分食べる感覚がこちらでもあって、止められないんですー」
あちらでは、おなかの赤ちゃんのためにたくさん食べさないって言われているからね。それがこちらでも出てしまったのだろう。
「まあ、食べたければ食べていいけど、ちゃんとあとから調整しろよ」
「わかりました。明日から頑張ります!」
明日からって……、僕も少し食欲ができているから海渡と一緒にランニングでもしようかな。精神は一緒かもしれないけど、体は別だからね。
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あとがきです。
「樹です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「まさか、食べてしまうなんて……」
「えへへ、ペロリでしたね」
「みんな呆れてたよ。食べる勢いが全然止まらないって……」
「樹先輩もなかなかでしたけどね」
「うっ! なんかいつもより美味しかったんだよね」
「でしょ! やっぱりお腹の子供が欲しがっているんですよ」
「そうなのかな……」
「そうですって、だから僕たちが食べるのはお腹の子供からの要求なんですよ! 仕方のないことです!」
「無いと言えないのが僕たちだし、あちらの子供に行っているのならいいんだけど、ちなみに海渡、最近体重計に乗っている?」
「それが聞いてください。うちの体重計、どうも僕が乗ったら針が壊れているようなんです……」
「僕が乗ったらって……、凪はどう言っているの?」
「いつも通りよって……」
「……わかった、海渡、このままじゃ僕たちはダメになる。明日から一緒にランニングするよ!」
「え、僕は分かりますけど、樹先輩までどうして……はっ! さては!」
「……えー、次回予告にお時間になりました」
「また、はぐらかしている! まあ、いいでしょう。一緒に走ってみんなを見返しましょう」
「「それでは皆さんお楽しみにー」」
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