第165話 受験そして……
「おはよう。風花は?」
「おはよう。電停に来るって」
「そっか、それじゃ行こうぜ」
僕と竹下は最寄りの電停に向かって歩き出した。今日は大学入試共通テストの初日で、会場となっている地元の大学までは三人で一緒に行くことになっている。
「昨日はお疲れ様。海渡も大丈夫そうでよかったよな」
「うん、あの後電話もしたんだけど、起きたときは泣いてたって言ってたよ」
昨夜寝て間もなく、ジャバトが
それからリュザールに母さんたちを呼んできてもらい、出産の準備をしてルーミンの赤ちゃんを取り上げたのが深夜遅く。
そして、ルーミンに赤ちゃんを抱かせたり
当然、こちらで起きたときにSNSでみんながつながったことは確認している。
「泣いてたって、やっぱりつらかったのかな?」
「つらいのはつらかったんだろうけど、嬉しかった方が大きいんじゃないかな」
海渡が竹下に散々大変だって言っていたから、つらいものだと思っているみたいだけど、きっと生まれてきてくれてうれしい気持ちの方が強いと思う。だってルーミンは産み終わった後、ずっとニコニコしていたからね。
「そっか、それなら安心だな。女の子だって?」
「うん、ラザルとラミルのどちらかを婿にもらうんだって張り切っていたよ」
赤ちゃんにおっぱいを吸わせながら、『これでイケメンにお母さんって呼んでもらえます』って言っていたんだよね。以前聞いた時は冗談だと思っていたけど、本気だったみたい。
「ルーミンのところなら喜んで嫁にもらっていいけど、本人次第だよな」
そうそう、本人たちの気持ちが大事だ。もし、違う人と一緒になりたいって言ったら、それを応援してあげないといけないだろう。
「あ、風花」
建物の角を抜けると、風花が電停に向かう横断歩道のところで待っているのが見えた。
「お待たせー」「おはよう、風花」
「竹下君おはよう。樹、海渡君大丈夫だった?」
「うん、落ち着いていたよ。夜寝るのが楽しみだって」
「よかった。明け方みんなで慌てて寝たから、あの後どうなっていたか気になっていたんだ。それしても、うらやましいよ海渡君。ボクも早く赤ちゃんの顔を見たいな……」
「うん。あと、三か月だから待っててね……」
「なあ、お前たち、ほんわかムードのところ悪いけど、これから試験受けに行くことわかっている?」
そうでした、これからの試験を突破しないと東京に行くことができなくなるんだった。
「もちろん! 気合入っているよ!」
翌朝、目が覚めると太陽が少し昇っていた。多分二時間ぐらいは眠れたと思う。
横で寝ているリュザールを起こさないようにそっと抜け出し、ルーミンの家まで向かう。
「母さんおはよう」
母さんはルーミンの家の外に置いてある
「あら、おはよう。まだ寝ていてよかったのに」
「うん、もう目が覚めたから。それでルーミンは?」
「さっき起きたみたいよ。部屋にいるから行ってらっしゃい」
廊下を進み、ルーミンが寝ている部屋の扉をあける。
ルーミンは横に寝ている赤ちゃんの頭を撫でていた。
「おはようルーミン。ご気分はいかがですか?」
「ソルさんおはようございます。体中が痛いです……」
昨日あれだけぎばって(頑張って)いたらそうなるだろう。
「よく眠っているみたいね」
ルーミンの隣の生まれたばかりの女の子は、すーすーと寝息を立てている。
「はい、さっきまで泣いていたんですけど、今は眠ってくれています」
私も赤ちゃんをそっと撫でさせてもらう。
「ちょっと早く生まれちゃったから、心配していたけど元気そうでよかったです」
予定日より半月ほど早かったんだよね。少し小さいかもしれないけど、しっかりと泣いていたしお乳も吸いにいっていたから問題ないと思う。
「髪の色はジャバト似かな」
ルーミンの髪の毛は茶色だけど、まだ柔らかいこの子の産毛は赤っぽい。ジャバトに近い感じがする。
「はい、外人さんみたいですね」
ふふ、日本人を基準にしたら、茶色の髪の毛の私たちはみんながそんな感じなんだけどね。
「ルーミン、疲れたのなら寝てもいいよ。私が横にいるから」
「わかりました。それじゃ、少しだけお願いしますね」
そういうとルーミンはすぐに寝息を立てていた。
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あとがきです。
「ユーリルです」
「ジャバトです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
「お父さんになった感想は?」
「まだ、実感が……、それにルーミンばかり苦労して何もできなかったから……」
「まあ、俺たち男は役に立たないからな……それで生まれた時は近くにいたの?」
「いえ、邪魔だって追い出されて、リュザールさんのところに居させてもらいました」
「俺もそうだった。寒い時期じゃなかったから井戸のところに居たけど、ほんとは近くで応援したかったよ。でも、こっちじゃそういうわけにはいかないんだよな」
「ええ、出産に立ち会うことはできませんからね。って、こっち?」
「い、いや、何でもない。ほんとおめでとう! 頑張ってなお父さん!」
「はい!」
「それでは次回のご案内です。内容は……あちらでのお話です」
「あちら? って何のことだろう……」
「いいからいいから、ジャバトにもそのうちわかるかもよ。次回もお楽しみに―」
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