第160話 テムスとコペルの結納
「どうだおやじ、すげえだろう!」
「さすがは俺が見込んだ男だ。村のために進んで仕事をするとは!」
「ファームさん。俺がいない間、パルフィと子供たちのことをよろしくお願いします」
「任せておけ!」
という感じで、ユーリルはエキムたちが帰るのに合わせて、荷馬車を通すための道の調査に行くことが決まった。
「アラルクもいい迷惑だよね」
「あはは、ユーリルには前から頼まれていたから大丈夫だよ」
今回調査する場所は、いくらカインの近くとはいってもまだ危険があるから一人では行かせられない。でも、ユーリルとアラルクの二人が揃っていたら大抵の盗賊は返り討ちに合わせられるだろう。
それに、もし(ユキヒョウの)カァルが来てくれたなら、危険がせまったらすぐに教えてくれるはずだしね。
「僕としては大助かりさ。荷馬車が通るための道の作り方を教えてもらえるからね」
エキムはやはり優秀な
「それで、エキム。お風呂はどうだった?」
「気持ちよかった! あんな方法でお湯を沸かすとは思っていなかったよ。さすがはユーリルだね。早速タルブクでも作りたいから、鍛冶職人に釜の作り方を教えてもらうように頼んだんだ」
エキムは、タルブクから鍛冶屋のおじいさんの代わりに若い子を連れてきたんだけど、パルフィはこの子にカインの技術をできるだけ伝えようと言っていた。
技術の流出は大丈夫なのって聞いたら、さすがに風呂釜をタルブクまで運ぶわけにはいかねえから仕方が無いって。
確かにタルブクまでの道は急だから、風呂釜という金属の塊を運ぶのは苦労すると思う。それならあちらで作ってもらった方がよほどましだ。
「あいつが帰って来るまでに、鍛冶工房の改造を終わらせとかないといけないから大変だよ」
ただ、タルブクの鍛冶工房は鉄を打てるようにはできてなかったらしい。エキムは戻り次第、ユーリルとパルフィに聞いた方法で工房の改造を始めるそうだ。
鍛冶職人さんが帰ってきたら、すぐにでも風呂釜を作るつもりなんだと思う。
タルブクあたりでもお風呂に入る習慣ができたら、妊婦さんたちも清潔になるはずだから、赤ちゃんが病気になることも減るだろう。
「急に静かになりましたね」
エキムたちを送り出したあと、私たちは織物部屋でいつもの作業を行っている。
「行く人が増えちゃったからね」
ユーリル、アラルクの他に機織り機のジャム、鍛冶工房からリムン、そして織物部屋からジャバトの五人でいくことになった。
結局、ただ行って調べるだけではもったいないから、簡単な工事はその場でやってしまおうということである程度の人数を連れていくことにしたみたい。
「あのメンツでジャバトが役に立つんですかね」
「家を作る時も手伝ってもらっているし。土木作業も慣れてきているみたいだから大丈夫じゃないの?」
ふふ、ルーミンはああ言っているけど心配なんだろうな。
「あ、お昼過ぎに私とコペルがいなくなるけど、大丈夫だよね」
「あー、今日でしたね。そういえば朝からリュザールさんが落ち着いてなかったのはそのせいですか。こちらは問題ないですよ。急ぎの仕事もありませんから」
「ねえ、ソルが私のお母さんになるの?」
「コペルのお母さんならいくらでも引き受けていいけど、やることってお茶を用意するくらいじゃないかな」
たぶん結納の時にはお母さん役は必要なかったと思う。
「ソルにもいて欲しい」
「心配しなくてもそばにいてあげるよ」
コペル心細いのかな……
「そうだ! いいこと思いついちゃった。みんな聞いてくれる」
ラーレ、いったい何を……嫌な予感がする。
そろそろ日が傾いてきた。リュザールもそろそろお風呂から戻る頃だろう。
今日は調査に出かけたリムンに代わって、レノンとローランと一緒にお風呂に入りにいっている。
本来は昨日がリュザールの番だったんだけど、急遽リムンが調査に行くことになったからお風呂の順番を変わってあげたのだ。調査に行ったらしばらくは入ることができないからね。
「ソル、ただい……ま。あのー、これはいったい?」
風呂から戻って、居間に入って来たリュザールの第一声だ。
「あらあら、リュザール。さっぱりして男前になったわね。早く、ここに座って」
「どういうこと?」
リュザールはラーレに手を引かれ私の隣に座った。
「みんなでコペルのお祝いをしたいみたい」
コペルはリュザールの反対隣に座っていて、テムスと父さんが訪れるのを待っている。
「みんなでお祝いって……いつもこうなの?」
そんなことは無い。いつもなら、娘と娘の父親のもとに相手と相手の父親が出向いて結納を行う。
こんなふうに十数人でお出迎えとか聞いたことが無い。
事の発端はラーレがコペルは織物部屋みんなの娘だから、私たちも結納に参加する権利があると言い出したことだ。
それにみんなが賛同してしまい。織物部屋の全員が仕事を放り出してここに来てしまった。
「ボク、ちゃんとできるかな……」
あらら、せっかく少し落ち着いていたと思ったのに、急に人が増えたからまた緊張してきちゃったかな。
交易の時は頼もしいのに、こういう時は普通の高校生って感じになるんだよね。
「リュザール、大丈夫。私がどうしたらいいか教えてあげる」
いやいや、さすがにコペルに教わるとか無いから。
「心配かけてごめん。ボクちゃんとやるよ。コペルの大切な日だからね」
うんうん、覚悟ができたようだ。
間もなく、父さんとテムスが結納の品を抱えて現れた。
「テムス、よかったな。みんながお前とコペルのことを祝福してくれているぞ」
たくさんのギャラリーを見た父さんは、一瞬驚いた表情をしたけど、すぐに笑ってテムスの背中を叩いた。
「みんな待っているようだし、早速始めようか」
そう言って父さんは、テムスをコペルの前に座るように促し、自分はリュザールの正面に座った。
いよいよ始まるんだ。リュザールの緊張がこちらにも伝ってくる。みんなも言葉を発することができない。
そんな中でも一人落ち着いている父さんは、予定通りに式を進める。
「私たちはコペルさんをテムスの嫁にもらい受けるためにこちらに参りました。それでは、リュザールさん。こちらが結納の品でございます。どうかお納めください」
父さんはリュザールの前に織物や麦、米、それに銅貨などのテムスの結納のために用意していた品物を差し出す。
リュザールがちゃんとコペルのお父さん役として返答できるのか。みんなが固唾をのんで見守る中、意を決したリュザールは、床に頭をつけ、そして口を開く。
「た、タリュフさん。確かにお受け、いたし、ました。末永く、よろしくお願い、します」
ちょっとたどたどしくて短かったけど、何とか言い切った!
「おめでとう。コペル!」「リュザール、よくやったよ!」「テムスもこれで一人前だね」「早く赤ちゃん作るんだよ」
「ちょっと待った! 誰だい、赤ちゃん作れって言ったのは、結婚式がすむまでは二人っきりにはさせないよ!」
みんな、そうそうと言って笑っている。ほんと、テムスもコペルも嬉しそうだ。コペルがここに来た頃は、ほとんど笑うことが無かったからね。普通に笑えるようになって私も嬉しいよ。
二人の結婚式か、たぶん来年の夏かな。
でも、テムスってまだその時13才なんだよね。
赤ちゃんの作り方、知っているのかな……
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あとがきです。
「ソルです」
「リュザールです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「お疲れ様でした。お父さん役うまくやれてたよ」
「よかった。せっかくのお祝いの席だから失敗しないように緊張しちゃった」
「コペルも喜んでいたから100点満点だよ。それにしても、テムスは13才で奥さんを持つんだよね」
「早い気がするけど、コペルが来年は18才でしょう。遅らせられないよ」
「そうなんだよね、コペルを考えたらギリギリなんだけど……13才か、テムス赤ちゃんの作り方わかるのかな」
「た、たぶん大丈夫じゃないかな」
「……どうしてそんなことが言えるの? 教えてリュザール」
「ボ、ボクは知らない」
「ふーん、まあ、こっちもコペルにもいろいろ教えているから大丈夫か」
「そっちも気になる!」
「さて、それではお時間が来たようです」
「「次回もお楽しみに―」」
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