第153話 穂乃花さんの秘密

 夕食の後、秋一さんを見送った僕たちは、穂乃花さんの部屋に集まった。


「まずは、なんでお前たちをばあちゃんが呼んだか知りたいだろう」


 僕たちはうなずく。わざわざお金まで出して呼び出すとか、何か事情があるのかもしれない。


「はっきり言うと、剛と樹があたいたちの旦那としてふさわしいかを知りたかったみたいだぜ。だから、叱られるのは承知であんな芝居をしたんだ」


「知らなかった……」


 やっぱり風花も知らなかったみたいだ。


「風花だけじゃなく、お母さんも知らなかったんだけどな」


「え、でも水樹さん、僕たちを言われた通りに連れてきたって言ってましたよ」


「ああ、それはな、ばあちゃんがお母さんに受験前に風花を息抜きさせようと言ってたみたいだぜ、樹と剛も一緒ならなおいいから、二人も呼びなってな」


 なるほど、僕たち三人の仲がいいのを水樹さんは当然知っている。風花も一人よりは僕たちと一緒の方が気が休まると思ったのだろう。


「それで、樹たちは合格だったんだよね」


「もちろん! 緊急時に適切な行動がとれるってなかなかいねえからな、それも高校生でだ。お前たちは満点だってよ」


「……樹は分かるけど、俺は何もやれてないよ」


「剛は樹が正しい知識を持っているのを知っていて、それに従った方が間違いないって思っていたんだろ。ばあちゃんは人を見る目は確かだからな、それくらいお見通しさ」


 そうだったのか。いたずらにして度が過ぎるとは思っていたけど、試されていたとは思わなかった。

 ん? 試されていた……


「穂乃花さん、もし不合格ならどうなっていました……」


「当然あたいたちとの結婚は許されなかっただろな。まあ、その時はこの家と縁を切って剛と一緒になるけどな」


 風花もうんうんと頷いている。

 でも、せっかくなら風花のおばあさんからも祝福されたい。縁を切らずに済んで助かったよ。




「さて、それじゃ、あたいがなぜお前たちのことを知っているか話そうか」


「あ、ちょっと待って、その前に穂乃花さん渡したいものがあるんだ」


 そういうと竹下は、空港で買った猫の置物を穂乃花さんに差し出す。


「あたいにか! 可愛いじゃねえか。よくあたいの好みがわかったな。大事にすっからよ!」


 穂乃花さんは、早速猫の置物をガラス付きの飾り棚の中に飾った。当然一番目立つ場所に。


「本当は空港で会った時に渡すつもりだったんだけど、いろんなことがあって渡しそびれちゃって……」


 いきなり穂乃花さんが僕のことをソルって言うから、それどころじゃなかったもんね。


「えへへ、パルフィはユーリルの子供を産めて羨ましいと思っていたけど、あたいもまんざらでもねえな」


 穂乃花さんは、よほどうれしいのか、何度も猫の置物の方を眺めている。


「穂乃花さんはあちらの夢を見るんですか?」


「おう、よくわかったな。昔は時折だったが、最近は毎晩見るな」


「夢の内容を聞かせてもらっていいですか」


 穂乃花さんは、ここでない遠くを見つめるような表情で話し始めた。


「夢の中のあたいはパルフィという名前で、ユーリルという旦那がいて双子の男の子を産んでいる。それでこの剛がユーリルだろう」


「どうして、そう思ったんですか?」


「だってお前たち、夜あたいのところに来て勉強しているじゃねえか。その時に日本語で話しているし、こちらの名前も呼んでいるからな」


 それもそうか、パルフィに隠す必要はないのでこちらのこともよく話している。それを夢で見るのなら、僕たちのこともわかるのだろう。


「それでだ、ソル。どうだ、できてそうか?」


「え、……たぶん。遅れているから……」


 その瞬間、穂乃花さんに抱きしめられてしまった。


「お、お姉ちゃん! ……え、い、今のって…………」


「よかったな、リュザール」


 風花まで抱き着いてきた。


「嬉しい樹! ボク、お父さんになるんだね。でも、どうして早く言ってくれなかったの?」


「だって、まだはっきりとわからないから……」


「樹、おめでとう! それで穂乃花さん。ソルの時はいいんだけど、樹の時はそういうのは止めてもらいたいです」


「すまん。つい嬉しくて。ただ、ソルに抱きつけねえのが悩ましいな。しかし、ほんとに風花はリュザールと同じ話し方になるんだな」


 穂乃花さんは僕から離れ、風花は僕の横にピッタリとついている。


「ボクは何時だってボクだよ。それで、竹下君。パルフィはどう言っているの?」


 そうだ、ここまで穂乃花さんがあちらの世界のことを見ることができるのなら、パルフィにも影響が出ているかもしれない。


「この前も聞いたけど、まったく見ないって言っていたんだよね」


 ということは凪や海渡のような感じなのかな……


「穂乃花さん、あちらの世界のことを見て辛くなったりしませんか?」


「いや、まったく。楽しんでるぜ!」


「それよりもお姉ちゃんが、当たり前のように受け入れているのが不思議」


 確かに、僕たちが別の世界の別の人間として生きていることに疑問は持ってないんだろうか。


「不思議と言ったら不思議なんだけどな。まあ、世の中にはわからないことの方が多いからな。そういうことがあってもおかしくねえな。現に目の前にいるんだしな」


 柔軟性がすごい。


「でも、どうしてお姉ちゃんの方だけが繋がっているんだろう?」


 凪や海渡の時は、テラの記憶はここまで詳細なものではなかったような気がする。もしかしたらあの二人より繋がりが深いのかもしれない。


「詳しくは分かんねえけど、パルフィがこちらのことを知りたがってねえからじゃないか」


 そっか、そういうことなら二人を繋げるのは難しいのかな……


「まあ、あたいもあっちの世界がこちらより進んでいて、その知識を使ったら答えが簡単にわかるってことなら、知りたいとは思わねえからな。あっちのあたいの気持ちもわかるぜ」


 念のため、穂乃花さんに僕と一緒に手を繋いで寝たら、パルフィと繋がる可能性があることを伝える。


「なるほどな、樹が二つの世界の媒介になっているのかもな。でもあたいは、パルフィが繋げて欲しいと思わない限り繋がる気はねえからな」


 パルフィ次第か……。パルフィは穂乃花さんの状況を知ったらどうするかな……


「お姉ちゃんは、ほんとに大丈夫なの?」


「おう、ただ、ソルやルーミンをギュッとしてあげられねえのが寂しいな……樹や海渡で我慢しとくか」


「だから、穂乃花さんそれは止めて、俺が我慢できないから」


「冗談だ、冗談! お前たちのことは見守っているからよ。困ったことがあったら何でも言いな。来年にはすぐ会えるところにいるからな」


 僕たちにまた頼もしい仲間ができた。


「そうだ、お前たちこれからいいところに連れて行ってやるから、ついてきな!」


 もう外は暗いのに、どこに連れて行ってくれるんだろう……


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あとがきです。

「樹です」

「風花です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「穂乃花さんいったどこに連れて行ってくれるんだろう」

「そんなことより、樹は体の調子大丈夫なの? 辛くはない?」

「いや、僕じゃなくて、ソルだから。それに調子あまり変わらないかな」

「そうなんだ。ボクがまだ妊娠したことが無いし、パルフィやルーミンに聞くわけにもいかないから、よくわからなくて心配なんだ」

「まだ、はっきりとはわからないけど、無理はしないようにしておくからね。心配してくれてありがとう」

「ほんとに樹の方は大丈夫なの?」

「うん、こちらで無理してもあちらに響くことは無いと思うよ。たぶんね」

「たぶん……。わかった、ボクが樹を守る!」

「ははは、大丈夫だと思うけど、よろしく頼むね」

「まかせて! それでは次回のご案内です」

「内容はきっと夜の東京のお話だと思います」

「テラの話もありそう……」

「それでは次回もお楽しみに―」

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