第151話 風花のおばあちゃん

「お姉ちゃん、それって……」


「風花。じゃない、リュザールもおめでとうな!」


 これは間違いない。穂乃花さんはあちらと繋がってしまっている。うーん、パルフィに変わった様子はなかったと思うんだけどな。


「ねえ、あなたたちどうしたの。何の話かお母さんにも教えて」


「これはあたいたちだけの暗号だからな。いくらお母さんでも教えるわけにはいかないんだぜ」


「あら、残念。まあいいわ、それじゃ、食事にしましょうか。お腹が減っているのよ」


 水樹さんがあっさりと引いてくれてよかった。打ち合わせなしに穂乃花さんと話を合わせるのは無理そうだもん。


「お前たち、詳しい話は夜にな」


 どうやら、穂乃花さんも話をしたいみたいだ。

 はてさて、今日の夜はいったいどうなるんだろう……






 空港で食事を済ませたあと、僕たちは羽田空港の中の駅まで向かった。


「大丈夫? 付いてこれる?」


「なんでみんなこんなに足が速いの……」


 竹下は初めての東京のテンポに戸惑っているようだ。というか、僕もいつ来てもそう思うから、初めてだとなおさらだよね。


「私たちはそんなに急がなくていいから、ゆっくり行きましょう」


 水樹さんの言う通り、無理に周りの人に合わせる必要もない。僕たちのペースでいこう。


「ねえ風花、乗り換えはあるの?」


「うん、二回かな」


「の、乗り換えなんてあるんだ……荷物があって、歩くのが大変なんだけど」


「男だろう、がんばれがんばれ!」


 ……穂乃花さんの話す内容は、パルフィそのものなんだよな。





 僕たちは二回の乗り継ぎを経て、風花のおばあちゃんが住んでいるという町まで着いた。


「どこをどうやって来たかわからないよ」


 初めてだとわからないよね。乗り換えの時もどの階段を上るのか、どの改札を抜けたらいいのか、まるで迷路みたいだからね。ほんとに受験前に来ることができて助かったよ。特に僕たちと竹下は二次試験の場所が違うから、一緒に行くことができないからね。明日の見学の時は一人でいけるようにしっかりと教えておかないといけない。


「ここから、そんなに離れてないから歩きましょう」


 水樹さんたちについていっているんだけど、ここってかなりの都市部だよね。風花のおばあちゃん家ってマンションか何かなのかな。それじゃ僕たちが泊まったら部屋が大変なんじゃないだろうか……


「ねえ、風花。おばあちゃんの家ってマンション?」


「ううん、平家の一戸建て」


 平家? なおさら僕たちが泊まっていいのかな……


 地下鉄の出入り口がある大きな通りから二本中に入った先には、大きな白い塀が続いている区画があった。そして、風花たちはそこで立ち止まった。


 ……はは、まさかね。


「もしかして、ここなの?」


「そう。大きいでしょう?」


 この白い塀の内側がおばあちゃんの家だとすると、何百坪あるのだろうか……


 僕と竹下が呆然と立ち尽くしていると、他の三人が笑い出した。


「うそうそ、ここはお寺さんよ。お義母さんの家はこの向かい側」


 そう言って水樹さんが指さした先には、そこだけ時間から取り残されたような平家の家が立ち並ぶ一角があった。そして、歩き出した風花たちはその中の一軒の家の前で止まった。


「正真正銘ここがお義母さんの家」


 そこには周りの家よりも少しだけ大きな平家の家があり、穂乃花さんが鍵を取り出し開けていく。


「みんな、ここでちょっと待っててな。ばあちゃん! 着いたぞ!」


 僕たちは玄関で穂乃花さんの帰りを待つ。

 そしてすぐに、風花と穂乃花さんに雰囲気が似た優しそうなおばあちゃんがやって来た。


「よう来たな。疲れただろう」


「ただいまお義母さま。言われた通り二人をお連れしましたよ」


 言われた通り?


「ありがとう、水樹さん。この子たちか……。さあ、遠慮なく上がっておく…………」


 えっ! おばあちゃんが僕の方へ倒れ込んできた!


「「「あ、おばあちゃん!」」」


 慌てて、おばあちゃんを抱えゆっくりと床に座らせる。


 僕はおばあちゃんに近づく水樹さんたちを制し、おばあちゃんに声をかける。


「おばあちゃん、わかりますか! わかったら僕の手を握り返してください!」


 僕はおばあちゃんの手を握り、声をかけてみる。

 ……反応がない。


「風花! 穂乃花さんを探して救急車を呼んでもらって、そして、おばあちゃんがどんな病気だったか聞いてきて!」


「わかった! お姉ちゃん!」


 風花は急いで穂乃花さんが向かった家の奥に走っていく。


「水樹さんと竹下はおばあちゃんに声をかけ続けて!」


「お義母さんしっかりして!」「おばあちゃん! 分かりますか!」


「竹下、声かけながら手伝って、おばあちゃんを横に向けるから」


「おばあちゃん! しっかり!」


 僕と竹下は、座ったままのおばあさんを、楽な姿勢を取らせるために横に寝かせる。もちろん気管が詰まらないよう注意して。


「おばあちゃん、戻って来てください! みんなが待っていますよ!」


 声をかけ続けているけど反応がない。

 改めておばあちゃんの様子を見てみる。

 ……幸いにも心臓は動いているし、息もしている。脈は少し早いけど、乱れているわけではない。高いびきはしてない……けど、やっぱり脳の方かな……。血糖値はどうだったのかな……。救急車、早く来ないかな。それにしても穂乃花さんと風花はどうしたんだろう。


「お義母さん! お義母さん!」「おばあちゃん! 戻って来て!」


 僕たち三人はおばあさんに声をかけ続ける。


「ふむ、この若さで二人ともなかなかしっかりしておるな」


 急にぱっちりと目を開けたおばあさんは、そう言って僕の手をギュッと握り返してきた……






「ばあちゃんどうだ。あたいが言った通りだろう」


 その時、穂乃花さんが風花の口を押さえながら家の奥から現れた。

 竹下と水樹さんは事態が呑み込めず、玄関先で呆けたままだ。


 僕はおばあちゃんが起き上がりそうだったので、掴んでいる手を引き体を支えてあげる。


 そして、おばあちゃんが起き上がったところで、


「いくら、おばあちゃんでもやって良いことと悪いことがあります! 僕たちがどれだけ心配したと思うんですか! もう二度とこんなことはしないでください!」


 と、思わず叫んでしまった……


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あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「東京も初めてだったんだ」

「うん、一人ではたどり着けなかったかもしれない。みんながいてくれて助かったよ。それにしてもどうして東京の人は、あんなにせかせかしているのかな。電車もたくさん走っているから乗り遅れても次に乗ったらいいのに?」

「さあ、時間に追われているのかな。テラみたいに太陽とともに生活してたら、そういうこと気にしなくてよくなるのにね」

「ほんとにそう思う。俺たちはのんびり行こうな」

「それではのんびりと次回のご案内です」

「おばあちゃんは病気ではなかったのかな? 樹は怒っているようですが、どうなるのでしょうか」

「次回もお楽しみに―」

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