第6章
第150話 東京へ
「「水樹さんお世話になります」」
8月に入って間もなく、僕と竹下は、風花のお父さんの実家に行く風花と水樹さんに同行して東京まで行くことになった。
夏休みに入ってすぐ水樹さんに誘われた僕たちは、二つ返事でお願いすることにした。だって、来年受ける予定の東京の大学を、みんなで見学することができるからね。
「二人とも忘れ物はないわね。それじゃ荷物を積み込んだら出発しましょう」
僕たちが住む町から東京に行くには、ほとんどの人が飛行機を使う。もちろん列車を使っても行けるけど、新幹線がまだ通ってないので乗り換えが必要で、到着するまでに時間がかかるのだ。
空港までは僕たちの町から1時間もかからない。だから今から向かえば飛行機の出発時刻に余裕をもって到着すると思う。
「空港には早めに着くと思うけど、お昼は東京まで我慢してもらえるかしら。穂乃花が迎えに来るらしいから、あちらで一緒に食べましょう」
「えっ! 穂乃花さんが来てくれるの!」
僕も初耳だけど、竹下も聞いてなかったんだ。
「うん、お姉ちゃんからさっき連絡があって、時間が取れたから空港まで来るって」
「そっかー」
竹下は本当に嬉しそうにしている。
穂乃花さんとは今日の夕方、風花のおばあさんの家で会う予定だった。だから会うのが少しだけ早くなるだけなんだけど、お正月以来会っていないのだからそれも仕方がないと思う。
予定通りに早めに空港に着いた僕たちは、チェックインを済ませお土産物売り場まで向かう。
「風花たちはお土産を買うの?」
「うん、お菓子をいくつか買うみたい」
お菓子か……、水樹さんは地元の人だからどのお菓子が美味しいのか知っているのだろう。わき目も振らずに売り場に向かって行った。
それよりもこっちだ……
「竹下ー、何探しているの? 誰へのお土産?」
僕たちは、今夜は風花のおばあちゃんの家に泊まらせてもらうことになっているけど、高校生がお土産持って行ったら変に思われるんじゃないだろうか。第一、お母さんたちからそれぞれお土産は預かっている。
「いや、穂乃花さんに何か買っていこうかと思って……」
穂乃花さんか……東京からの帰りは穂乃花さんも一緒に帰って来る予定だ。だからわざわざ今買わなくてもいいと思うけど、居ても立っても居られないんだろうな。
「竹下君、お姉ちゃんこういうのが好きだと思うよ」
お菓子を水樹さんに任せてこちらにやって来た風花は、竹下を小さな陶器の人形が並べられたコーナーまで連れて行った。
「じゃあさ、これどうだろう」
竹下が手に取ったのは、陶器で作られた小さな猫の置物。
「うん、これならお姉ちゃんも喜んでくれるよ」
「ありがとう。買ってくる」
竹下はその猫の置物を大事そうに抱えてレジへと向かった。
「ごめんね。僕がこういうのに疎くて」
テラでは女の子をしているけど、地球では男の子として生活してきたから、こちらの女の子が何を喜ぶのかいまいちよくわからないんだよね。
「ふふふ、竹下君の買って来てくれたものなら、お姉ちゃんはなんだって喜ぶはずなんだけどね。ボクも樹が買ってくれたものなら何でも嬉しいよ」
「な、何か買ってこようかな……」
「樹、せっかくなら東京で何か一緒に買おうよ」
そうだね。観光にもいく予定だし、どこかで記念になるようなものを買ってもいいよね。
「ねえ、風花。さっきからボクになっているよ」
今日の風花のいでたちはボーイッシュな感じなので男の子に見えなくもないけど、聞いた人はあれ? って思うんじゃないかな。
「今は二人っきりだったからねって、お母さんが来ちゃった」
「お待たせ、あなたたちも何か買ったの?」
水樹さんも買い物が終わって、こちらに来てくれたんだけど、なに、あの量……
「あ、あの、持ちましょうか?」
「ありがとう。助かるわ。さすが未来のお婿さんね」
水樹さんからお菓子がたくさん入った大きな四つの手提げ袋を受け取り、二つをレジから戻って来た竹下に渡した。
「何これ?」
「婿の仕事だって」
荷物を改めて手荷物カウンターで預けた僕たちは、二階の搭乗ロビーへと向かう。
「えっと、これどうしたらいいの?」
今回の旅で分かったんだけど、なんと、竹下は飛行機に乗ったことがなかった。
「ポケットの中の物を全部出して、この籠の中に入れるんだよ」
「スマホも財布も?」
「うん、全部」
竹下に保安検査場の通り方を教え、搭乗ロビーの中へと入る。
「はい、もう大丈夫だから。ポケットの中にしまっていいよ」
僕より先に出て、保安員のおじさんから受け取ったスマホや財布を、どうしたらいいか悩んでいる竹下に教えてあげる。
「もういいんだ。ふう、ドキドキしたー。もしさ、これダメだったら入れないの?」
「そうだよ。よかったね、通れて。後ろから見てて冷や冷やしたよー」
「え! もしかして危なかった?」
「うん、保安員のおじさんがずっと竹下を見ていたからね。ここでお別れかなって思っていたよ」
ありゃりゃ、言い過ぎたかな。竹下の顔が青くなっていく。さて、どうしよう。
「樹くんその辺で、竹下くんも真に受けないでね。危ないものを持ってないなら通れるから」
さすが風花、ナイスフォロー。
「樹! てめえ!」
「ごめん、ごめん。許して!」
だって、いつも何でもできる竹下がびくびくしていて面白かったんだもん。
その代わり飛行機の座席は窓側を竹下に譲ってあげた。
「本当にいいの? 通路側だと外が見えないよ」
「いいよ。僕は家族と乗るときには窓側に乗せてもらっているから」
しかし、さすがは水樹さんだ。左側の座席を縦に並んで取っている。これなら天気もよさそうだから富士山がよく見えるだろう。
でもこの前の方の席って高かったんじゃないだろうか。座席の色も後ろの方と違うし……
「水樹さんよかったんですか。僕たちまでこんないい席に座らせてもらって」
前の座席の通路側に座っている水樹さんに声をかける。
「いいのよ、樹君。今回の旅行代金は、二人の分も含めてお義母さんが出してくれたんだから。ゆっくりと楽しみましょう」
「風花のおばあちゃんが……」
泊まらせてもらうだけじゃなくて旅費までも……どうしてそこまでしてくれるのだろう。
「あ、動き出した」
竹下は飛行機乗ってからずっと窓の外の景色にくぎ付けだ。
「……なあ、本当にこの大きな機体が飛ぶの?」
こいつは物理の成績が学年トップのくせに何を言っているのだろうか……
「紙飛行機と同じ原理だから、簡単に飛ぶよ」
「紙飛行機と一緒か……なるほど、速度を上げて風の流れを作って揚力で浮くのか……そして、あの翼の先が上に曲がっていて……」
竹下はそう言って、窓から翼の先の方を眺めている。
「もうわかった?」
「うん、これ考えた人すごいね。お、走り出した!」
楽しそうだ。窓側を譲ってあげてよかった。
その後飛行機は何事もなく離陸し、富士山のところでは竹下にお願いしてスマホで写真を撮らせてもらい。定刻に羽田空港に到着した。
飛行機を降りた僕たちは、到着ロビーで荷物を受け取りターミナルに出て、穂乃花さんと合流する。
穂乃花さんは真っ先に竹下に抱き着き再会を喜び、そして、僕の方までやって来た。
「おめでとう、ソル!」
僕たちは穂乃花さんの言葉に声を失った……
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あとがきです。
「樹です」
「竹下です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「飛行機初めてだったんだね。よくお店の旅行に行っているから、乗ったことあると思っていたよ」
「お店のはバス旅行なんだ。近いところが中心っていうのもあるんだけど、みんなバスに乗った瞬間からお酒を飲むんだよね。そして歌いだす。だから、空を飛んでいくことは無いよ、騒げないからね」
「そ、そうなんだ。かなり賑やかそう……。それでどうだった初めての空の旅は」
「楽しかった! それにあんなに高く上がるとは思っていなかったよ12000m! いつもこんなに高いの?」
「たまたまかな、機長さんと管制さんが決めているみたいだからね」
「そっか、帰りも高いところ飛んで欲しいな」
「○○と煙は……」
「樹! 聞こえているよ!」
「それでは次回のご案内です。東京でのお話の続きですね。風花のおばあちゃんの家に向かいます」
「「次回も読んでくださいねー」」
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