第149話 結婚式の後の竹下の部屋での集まり

「それで村長さんたちとの話は、どういう感じになったんですか?」


「すぐ解決できそうなものは、このあと手配することになっている。そしてこれから何か困ったことがあったら、俺たちのところに相談に来てもらうことになった」


 ソルとリュザールの結婚式の翌日、僕たちは竹下の家に集まって、昨日の村長さんたちとの話の内容を凪と海渡に伝えている。


「でも、それでは遠くの村の人は大変ですよね。カインは奥まっていますから」


「うん、急ぎの時は無理してでも来てもらわないといけないけど、普段はカインを行き来する隊商に取り次いでもらうようにしたよ」


 以前のカインはセムトさんたちの隊商だけで物資のやり繰りができたんだけど、最近は人口が増えているので他の村からの隊商も受け入れないと回らなくなってきている。その人たちに伝言なり手紙なりを渡して、私たちに知らせる仕組みにしたのだ。


「あーなるほど、それなら遠くの人たちも安心ですね」


「そうそう。ただ、いつかはすぐに連絡が付くようにしないといけないんだろうけどな」


「携帯電話とかないですからね。やるとしたら駅伝ですか。狼煙のろしでは詳しい内容が分かりませんし」


 駅伝はモンゴル帝国の時に作られた制度で、20~30キロごとに休憩所や馬を乗り換える施設が作られていて、情報の伝達や交易の発展に役に立ったらしい。


「駅伝は村の隊商宿を使わせてもらったらすぐにでもできるんだろうけど、その費用負担をどうするかとか決まってないからね。まだまだ先の話だよ」


 このあたりで育てている馬の能力は相当高い。足も速いし、耐久性もあるので、そう簡単に乗り潰されるってことは無いと思う。だから、馬を頻繁に補充しないといけないということはないんだけど、育てたり世話したりするのには当然費用と手間が掛かる。それをみんなでどうやって負担していくかを話し合わないと、便利だからって理由だけで始めると不満が残るだろう。


「そうですね。遠くの村のために、なんで俺たちが馬の世話をしないといけないんだっていう人が出てくるかもしれませんね」


「うん、俺たちは情報の重要性をわかっているけど、他の人はそのことを知らないからね。無理強いはできないよ。まずは、リュザールたち隊商の人たちにお願いして、それでだめだったら説得して回ろう」


 説得に回るのは時間がかかって大変なんだよな。


「それで、温泉はどうなりました。出来そうですか?」


「明日、テラでシドさんがお風呂入るから。その結果次第かな。あ、それで凪、パルフィには言ってんだけど鍛冶工房から男を二人貸してくれない。村長さんたちのほとんどがお風呂に入るって言うからさ、沸かしたり入り方を教えたりしないといけないだよね」


「はい。二人ですね。パルフィさんの了解があるのなら大丈夫ですよ」


「それじゃ、今日の話はこれくらいかな。みんなお疲れ様、気を付けて帰ってね」


 竹下がそういうので、膝の上のカァルを下ろして立ち上がろうとしたら


「あ、樹と海渡は残ってて」


 ほらね。やっぱりあの話をするつもりのようだ。


 ただ、今日はいつもと違う。


「あの、風花さん、凪さん。これから男だけで話があるのですが……」


 竹下も焦っている。風花と凪の二人もそのまま残っているのだ。


「ボクも凪もその話に興味があるんだよね」


「樹、しゃべったの?」


 静かに頷く……


「竹下君はユーリルの時にはボクたちにそういう話をしてくるのに水臭いよね凪」


「はい、仲間外れは寂しいです」


「いや、だって、女の子にこういう話をしたらセクハラだって怒られるじゃん」


「女の子ならね。でもボクもリムンもあっちではずっと男の子しているんだよ。そういう話も興味あるよ。現に一緒の部屋の時はそんな話ばかりだったじゃない」


 僕と海渡はテラの男部屋のことは分からない。ただ、テムスが年の割におませさんになっているから、ろくな話はしてないんだろうなとは思っていた。


「でも、今日は樹に昨日のことを聞くつもりだったんだけど、いいの?」


「ボクたちのことを聞きたいのなら話してもいいけど、ユーリルとルーミンのことは聞いてないからね。そっちも話してほしいな」


「げっ! 姉ちゃんの前で話すの!」


「凪も碧君とのこと話すって言うからさ、聞かせてもらえないかな」


「えっ! 進展してんの!」


 ご、ごめん、凪。思わず叫んでしまった。

 お友達から始めてどうなるかと思っていたけど、進んでいるみたいだ。よかった。


「この前、碧君の部屋に行ったって言っていたからさ、その時の話でも聞こうよ」


「年頃の男女が部屋で二人っきり……姉ちゃんが女になっていたなんて気づきませんでした。碧もやるもんです見直しました! 今度会った時は碧のことをお義兄さんって呼ばないといけませんね」


 凪はブンブンと顔を横に振っている。まだ、そこまではいってないようだ。人それぞれペースがあるからね。


「それじゃ、まずは竹下君とお姉ちゃんのことを話してくれるかな」


「え! そっち!」


 獲物を狙う肉食動物の目を持っている竹下もタジタジだな。だってこんな時の風花は猛獣だからね。





「うう、根掘り葉掘り聞かれてしまった……」


「それじゃ、海渡君! ジャバトとはどうなの?」


「この流れではお茶を濁して終わらせることはできないようですね。いいでしょう、この海渡、秘めたる事もつまびらかにいたしましょう!」


 海渡も楽しそうだ。まあ、こいつの場合はいつも楽しそうなんだけどね。





「それで樹。昨日はボクを受け入れてくれたでしょう。どうだった?」


 おっと、僕の番だ。


「……うん。嬉しかった……うっ!」


「にゃ! にゃー……」


「あの、風花さん。樹に抱き着くのは二人っきりの時だけにしてもらえませんか。カァルも挟まれて大変そうですし」


 風花が急にくるから、カァルも逃げる暇がなかったようだ。






 今日はじっくりとみんなのことを聞くことができた。まあ、僕たちのこともいろいろと聞かれたけどね。


 ふふふ、子供の頃に友達からおかしな奴と言われたあの日が嘘のように思う。こんな日が来るなんてあの頃は思いもしなかったよ。


 一人で頑張ろうと思っていた時に竹下が手伝うって言ってくれて、そして竹下とユーリル繋がった。


 しばらくしてリュザールに結婚の申し込みをされて、僕の近くに現れた風花と繋がっていることが分かった。その後も凪と海渡が僕にリムンとルーミンと繋げてくれと頼んできた。


 こうしてこの五人の仲間と一緒にいることになったんだけど、たぶん、僕の力は二つの世界で別々に存在している同じ人格の人間を繋げてしまうことだと思う。

 この力は誰にでも使っていいものではないだろう。繋がった人間は行動が制約されるし、何より人生が変わってしまうことだってある。ここにいる四人のように……


 僕はみんなに対して繋げてしまった責任は取れないかもしれない。でも、みんなが幸せになるためならどんなことでもやっていこうと思う。僕の命がある限り……


「あー、さっぱりしました。どうしたんですか樹先輩。顔が真面目になっていますよ」


「いや、何でもないよ」


「海渡、お前はトイレに行きすぎ。それにさっぱりじゃなくてスッキリだろう」


「だって、皆さんのお話がすごすぎて我慢できないんだから、仕方がないじゃないですか!」


「お前の後は匂うんだよなー」


「何言っているんですか。僕の前に行ってた竹下先輩だってしてたくせに、あからさまな芳香剤。バレバレですよ」


「いや、だって、お前……俺だって穂乃花さんとたまにしか会えないんだから仕方がないじゃないか!」


「それなら、僕だってあの唯ちゃんですよ。ホントにジャバトと人格が一緒なんですかね。結婚したというのにあまり変わりませんよ」


「あ、それなら大丈夫かも。この前唯ちゃんとお茶した時だけど、前に比べて海渡の話をいっぱいしていたから」


「姉ちゃんホント! それなら早速……痛っ!」


「海渡! あんたも女の子気持ちが分かるんだから、どうしたらいいかわかるでしょう」


「はーい。ついでに碧にも教えておきまーす」


「海渡!」


 ふふふ、みんな楽しそうだ。


「さてと、僕もトイレに……って、なんで風花が付いてくるの?」


「手伝ってあげようかと思って」


「え、いや、普通にトイレだから、手伝いなんていらないから! みんなも来なくていいから!」





 僕には気心の知れた仲間たちがいる。

 そして大好きな人と一緒になることができた。


 ただ、僕のテラの人たちの生活を良くするという目標を、達成できたかというとそうじゃないと思う。まだまだ努力が必要だろう。

 でも、僕は心配していない。だって、心強い仲間がいるからね。みんなには、これからもたくさんお願いをして、心配をかけるかもしれないけど、一緒に頑張っていこうね。

 

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あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「このお話で第5章が終わりとなります」

「結局5章はどういうお話だったの?  やたら長かったよね」

「いろいろあったけど、振り返るとテラのみんなが結婚するお話かな……」

「リムン……」

「ま、まあ、あの二人を待っていたら、ずっと5章のままになっちゃうから」

「それもそうか。それで樹は6章はどんなお話になるのか知っている?」

「知らない、教えてもらって無いよ。竹下はどう思う?」

「そうだな。俺たちの出番が増えそうな気がする」

「俺たちということは地球のお話だよね、なんで?」

「だって、そろそろ3年の夏休みだよ。受験はすぐそこだからね」

「うっ……そうだった。勉強頑張らなくちゃ。それでは次回のご案内です」

「内容は……お、早速地球でのお話のようですよー」


「「それでは次回もお楽しみに―」」

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