第148話 結婚式が終わって……そして初めての夜

 披露宴が終わった後、私とリュザールの着替えを待って、寮の食堂で村長むらおささんたちとの話し合いが始まった。参加者は、披露宴に参加してくれた村長さんのほかに、隊商からセムトさんとリュザール、そして工房からユーリルと私だ。


 まずは父さんが代表して挨拶をし話し合いが始まったんだけど、それぞれの村長さんが困っていることを話すときに、私の方を見て訴えかけてくるのには参った。


「ソル。期待されているね」


 こういう状況を作り上げた本人がよく言うよ。


「ユーリルが解決策を考えてくれないと、私だけじゃ何もできないんだからね」


「もちろん、ソルだけに任せないし、俺だけでも無理。みんなに手伝ってもらうよ」


 そうそう。みんなでやっていこう。リムンとルーミンを含めた私たち五人はもう運命共同体だ。







 話し合いは日が沈んだ頃に終わり、父さんとセムトおじさんが村長さんたちを宿まで送り届けると言うので、残った三人で後片付けを始める。


「明日はほとんどの村長さんがお風呂を試すんでしょう。ユーリル、大丈夫なの?」


「うーん、2、3人ずつ入ってもらって、入り方も教えないといけないし、途中でお湯も入れ替えないといけないだろうし……何人かお風呂につきっきりでじゃないといけないよね」


 コルカのシドさんには入ってもらうつもりだったけど、途中からトールさんがビントのお風呂の自慢を始めちゃって、使ってみたいという人が増えてしまったのだ。


「ボクも手伝おうか?」


「いや、リュザールは次の隊商の準備があるんでしょ。こっちの方は工房の方から人を出すよ」


 リュザールたちの隊商は明後日から出発することが決まっている。これまでは結婚式の準備があったからほとんど用意できてなくて、明日一日で準備を済ませないといけないみたい。


「それにしても今日は落ち着かなかったよ。なんか私を見て拝んでいる村長さんがいるんだもん」


 話し合いの途中、私の方を見て拝むような仕草をしたり、呪文のようなものを唱えたりする人がいたのだ。私の後ろに何かいるのかと思って、何度も振り返ったが何もいなかったと思う……


「あー、俺も気になって聞いてみたら、ソルは山の神様の使いだから、任せておいて安心だって言っていたよ」


「何のこと?」


「あ、ボクわかるかも。ソルがカァルと一緒に暮らしていたのは隊商の間では有名だったんだよね。村長さんの中に知っている人がいてもおかしくないよ、たぶんそれでじゃないかな。ユキヒョウって山の神様の使いって言われているでしょう」


 つまり私は、みんなのために便利なものを授けてくれて、困ったことを解決してくれる山の神様の使いだと思っている人もいるということなのかな。


「そんなの違う……とも言えないんだ」


「うん、俺たちって普通じゃないからさ。どうしてこうなっているかわからないからね」


 私や他の仲間たち、そして私のご先祖様が地球と繋がっていたのは、偶然なのか理由があるのか、それともどこかにいる神様の仕業なのかわからない。


「だから、ソルが神様の使いだって思われているんなら、それを利用した方が都合がいいと思う。大変だろうけど我慢して、俺たちが支えるから。なあ、リュザール」


「そうそう、ソルだけに苦労はさせないからね」


 争いが起きるのは絶対に避けないといけない。そのために必要な事なら仕方がないか……


「わかった、でも私がおかしくなったら止めてよね」


「逆に俺たちがおかしくなったら、ソル頼むな」


「任せて!」


 そうして、三人でしっかりと手を取り合う。


「ところでお前たち早く帰らなくていいのか? リュザールは明後日にはいなくなるんだろう」


「うん、すぐにでも帰りたいけど、これからいくらでも二人っきりになれるからね。慌てなくていいよ」


「あはは、ソル真っ赤。急いで片付けて解散しよう」







 片付けを済ませたあとユーリルと工房の手前で別れて、私たちは新居へと向かう。


 玄関を入るなり、リュザールに後ろから抱きつかれた。


「やっと、ソルを抱きしめることができた」


「ごめんね、リュザール。ずっと先延ばしになっちゃって」


 リュザールの手に私の手を重ねる。


「ううん、ボクも半人前のくせに結婚できると思っていたからね。ボクの方こそごめんね」


「うん、まずはあがろう。私たちの家に」


 リュザールの手を引き居間へと向かう。


 居間の中央にある掘り炬燵こたつは夏の間は木でふさいでいて、15畳ほどある部屋の真ん中には大きな絨毯が敷いてある。

 もちろんこの絨毯は、私がこの日のために織ったものだ。みんなにも手伝ってもらったけどね。


「リュザールはどこに座るの?」


「うーん、ボクはここかな」


 リュザールが指さしたのは居間に入って真正面。家の主人が座る場所。


「わかった。座って待っていて」


 台所の母さんからもらったカルミルの壺から二人分をすくい、居間へと戻る。


「はい」


 リュザールにカルミルを渡し、私はその右斜め前に座る。私の定位置もここになるだろう。


「ありがとう。そしてお疲れさまでした。ソル」


「リュザールもご苦労さまでした」


「……」「……」


「あはは」「ふふふ」


「なんか、おかしいね。こっちで二人っきりって、何を話していいかわからないや」


「そうそう、こんなことなら海渡に初夜の話なんて聞かずに、ジャバトと何を話しているかを聞いとけばよかったよ」


「へえ、初夜の話なんてしているんだ。男同士で何こそこそしているのかと思ったら、そんなこと話していたんだね」


「い、いや、竹下がどうしてもって……」


「そういう樹だって、興味津々だったんでしょ」


「……う、うん」


「今夜のことも聞かれるのかなあ」


「たぶん……」


「ふふふ、それじゃ。樹がしっかり話せるようにしないとね。……ねえ、ソル。ボク、もう我慢できないんだけど」


「リュザール。私も……」


 自分の気持ちに素直になったら心配することなんてなかったよ。自然と言葉が出た。


「それじゃ、部屋に行こうか」


「もう、ここで……」


「いいの?」


「うん、二人っきりだし」


「わかった。……優しくするね。ソル」


 これからよろしくね、リュザール……ん。


「……」


「ソル、どうしたの?」


「キスしただけなのに、こんなに嬉しくなるとは思ってなかった」


「ボクも樹との初めての時は嬉しくて仕方がなかったよ。今も嬉しくてどうにかなりそう……もう、止められないかも」


「うん、きて……」


 今日ぐらいは寝るのが少し遅くなってもいいよね。


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あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ようやくリュザールと結ばれることができました」

「長かった、最初にソルに会ったのが14才の時で今は18才。もう結婚させてもらえないんじゃないかって思っていたよ」

「え、いや、さすがにそれはないはずと思いたい。大丈夫だったよね?」

(はい、みんなには幸せになってもらいたいと願っていますので……ただ)

「「ただ?」」

(この先のことは私にもわかりません)

「そうなんだ。まあ、それは当たり前か。それじゃ、やることは変わらないね」

「うん、やれることをやっていくだけだね」

「そうそう、みんなと一緒にね」

「皆さんこれまで、応援いただきありがとうございました。おかげでソルと結婚することができ、ボクは幸せです。またいつか会える日まで、ご健勝でいてくださいね」

「いやいや、リュザール。終わりっぽい挨拶しているけど、これで終わらないよ。まだまだ続くよ」

「そうなの?」

「もちろん! テラではまだまだやることがたくさんあるからね。それでは次回のご案内です。次回は……たぶん、奴が黙っていないと思います」

「例の話?」

「……」

「ふふーん。ボクも参加しよ!」

「「皆さん次回もお楽しみに―」」

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