第146話 ソルとリュザールの結婚式1

 結婚式当日、朝から寮の台所で料理の手伝いを済ませた後、織物部屋へと向かう。


「これでいいのかな?」


「うん、大丈夫」


 みんなと一緒に仕上げた花嫁衣装を、コペルに手伝ってもらいながら着ていく。


「あとは、これを着けて……どう?」


「うん、きれい」


「ありがとうコペル。おかげで助かったよ行ってくるね」


「うん、広場で待っている」


 織物部屋のみんなのおかげで間に合った。旅から戻って仕上げようと思っていたら、急に村長さんたちが来ることになって何かと忙しかったからね。みんなには本当に感謝だ。








「あれ、もう出来上がったんだ。二人ともおとなしく乗っているね」


「うん、何とか間に合った。おとなしくしてもらいたいけど、今のうちだけだと思う……」


 私が織物部屋を出るタイミングで鍛冶工房から出てきたユーリルは、ラザルとラミルも一緒に連れてきていた。

 二人は新しく作った乳母車から見る外の世界に興味津々なご様子で、つかまり立ちして辺りを見回している。


「よかったねー、二人とも、これでどこまでも連れていってもらえるよー」


 この形状はあれだな。この前見た昔の時代劇で出てきた物とそっくりだ。子供を連れて歩くお侍さんが使っていたやつだから、それなら……


 前面の下の部分を覗き込む。


「何やっているの?」


「マシンガンはどこから出るのかと思って……」


「なにそれ? あ、ダメだよ! ラザル、ラミル。ソルの服に触っちゃ!」


「いいよ、いいよ。珍しいもんねー」


「……それにしても、化けたよな。今日はさすがに女の子に見えるよ」


 これは褒められているんだろうか……


「どう返事したら正解かわからない。……とりあえずゲンコツいる?」


「いらない、いらない。まあ、似合っているってことだよ。コペルが手伝ってくれたの?」


「うん、織物部屋のみんなが手伝ってくれたんだ。時間が無くて、自分だけでは無理だった」


 パルフィの結婚式の時から、花嫁衣裳は色鮮やかな糸を使って織りこむようになっていて、当然仕上がるまでに時間がかかる。もちろん子供のころから準備はしていたけど、刺繍だけでも大変な作業だから自分だけでは間に合いそうになかったんだ。


「今度の旅は俺が誘ったからな。ごめん。でも、そのおかげで村長さんたちとも話し合うことができそうだし助かったよ」


「それで、どれくらいの村から人が来てくれたの?」


「今のところ20ちょっとの村から50人ぐらい来ているみたいだよ。思ったより集まったね」


 集まったねって、予想よりもちょっと多いくらいな感じで話しているけど、こちらはもうびっくりだよ。普通でも結婚式には誰でも参加できるから、村の人口よりも集まることが普通だけど、それも近所の村の人くらいで、コルカみたいな遠くから来ることなんて稀だ。


 最初は十人くらいの村長さんたちが来るかと思っていたら、昨日だけじゃなく今日の朝からも父さんのところにたくさんの村長さんたちが挨拶に来ていた。これは予定していた量じゃ足りないってなって、それからはもう大慌てでいつも以上に料理を用意することになったんだよね。


「ルーミンに申し訳ない……」


「そうか、喜んでいたぜ。仕出し弁当の練習になるって」


 ルーミンだけじゃなくて、村の奥様方にも頭が上がらない。料理の手伝いはもちろんだけど、急遽作る量が増えたのでその材料まで融通してもらったって母さんとサチェおばさんが話してくれた。


「みんなに感謝しないといけないね」


「そうだな。ここはいい世界だよな」


 ほんとにそう思う。


「それで、村長さんたちとはいつ会うの?」


「今日の夕方かな。結婚式終わったばかりで申し訳ないけど、リュザールと一緒に顔見せてくれる? 寮の食堂で話すことにしたから」


「それはいいけど、50人も入らないよ」


「あ、それは大丈夫。村長さんたちだけだから。俺らも入れて30人くらいだよ」


 それならギリギリ入るか。披露宴でお腹いっぱい食べているはずだし、カルミルとお茶だけ用意したらいいかな。


「それで今日のもう一人の主役のリュザールはどこにいるの?」


「隊商宿にバズランさんを迎えに行っている。もうそろそろ着くんじゃないかな」


「わかった。それじゃ、俺はこいつらと先に広場に行っているからね。……おめでとう。お幸せに!」


「ありがとう!」







 家の居間へと向かい、準備万端でリュザールたちを待っている父さんとジュト兄に私の姿を見てもらう。


「いやー、衣装の力ってすごいね!」


 ジュト兄、それはどういう意味かな……


「いや、……しかし……ソルも……」


 父さん。言葉が出ないんだ……言いたいことは分かるよ。お嫁さんに出すお父さんはそうなるって言うもんね。


「女の子だったんだな」


 前言撤回! 言いたいことわかってなかったよ。女の子に決まっているじゃん!


「ソルが来たの! キャー、お母さん見てください。可愛くできていますよ!」


「ほんと! どれどれ」「女の子みたい」「さすがコペルすごいできね」


 ユティ姉の言葉を聞いて、台所から母さんだけじゃなく料理を手伝ってもらっている村の奥様方も集まってしまった。途中、よくわからない言葉を聞いた気がするけど、気のせいだろう。


「ほんとに可愛くできているね。さすが自慢の娘だよ」


「ありがとう。母さん」


「そろそろリュザールも来るんだろう。早く部屋に行って待ってな。他のみんなも頼んだよ。もう披露宴が始まるからね!」


 そう言って、母さんたちは台所へと戻っていった。


「それじゃ、父さん、ジュト兄。部屋にいるね」


「ああ、呼びに行くから待っておくんだよ」






 一人で子供部屋へと向かう。

 私の荷物はもう新居に運び込んでいるし、昨日のうちに家族との別れは済ませた。コペル、サーシャも含めてみんなにお礼を伝えること出来たから心残りはない……と思う。


 今、この部屋の中には誰もいない。コペルもサーシャも私たちの結婚式のために準備をしてくれているのだ。


 改めて部屋を見渡す……大体八畳くらいの広さで、窓は一つ。その窓もガラスは無いから木製だ。


 しっかりと閉まらないから、冬なんかは風が入って寒いんだよね。テムスと二人でカァルに抱き着いて寝ていたよ。


 ……カァルがいなくなってしばらくしてコペルが来て、テムスがユーリルのところに移動した後にパルフィが来た。その次の年にルーミンが来て、パルフィが結婚して出ていった後はサーシャが加わり、そしてルーミンが結婚して出ていった。


 ふふ、こんなに賑やかになるとは思っていなかった。特にルーミンがいるときは寝る時まで騒いでいて、うるさいってパルフィに怒られて……まるで昨日のことのようだ。


 ……とうとうこの部屋ともお別れかー。コペルとサーシャは寂しくならないかな。新しい子が来たらいいんだけど……あ、ジュト兄の子供たちのために部屋を空けないといけないんだった。


 そっか、もうここには戻れないんだね……





 表に人の気配がする。

 リュザールたちが到着したのかな。


 ……もう少ししたらジュト兄が呼びに来るな。さあ、私も出ていかなくちゃ。


 じゃあね、私の部屋。これまでありがとう!


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あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「マシンガン付けたらいいのに」

「よくわかんないんだけど、そういうのがあったの?」

「昔の映画で見たよ」

「そうなんだ。形だけネットで調べて作ったから映画までは見てなかった。でも、マシンガンはさすがに無理。あっても仕込みの剣みたいなものぐらいかな」

「それもあった」

「あったんだ……それって本当に乳母車? まあ、そんなのは結婚式にはふさわしくないから、必要はないね。つけてもラザルとラミルが喜ぶおもちゃくらいかな」

「おもちゃかー、二人とも喜びそうだね」

「二人だけじゃなくて、これから生まれるルーミンたちの子供やソルたちの子供も使えるようにしたいからね。もう少し改良していきたい」

「頼りにしているよ」

「さて、次回更新のご案内です。次回は今日のお話の続きになります」

「「楽しみにしててねー!」」

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