第144話 学校帰りの集まり:竹下の部屋4
今日は学校帰りに無理を言って、みんなに集まってもらった。どうしても話し合いをしておかないといけない気がしたのだ。
「樹先輩、急にどうしたんですか。週末に模試があるから今日は集まる予定ではなかったですよね。コルカで何かありましたか?」
「ごめんね、海渡、凪。どうしても竹下に確認したいことがあって……みんなにも聞いてもらった方がいいと思ったから」
「むむむ、尋常じゃないご様子……。わかりました、この海渡。もし二人が取っ組み合いの殴り合いをはじめたら、全力で応援します!」
「止めてくれるんじゃないの?」
「こういうものは、途中でやめてもいいことは無いですからね。多少のケガぐらいで済むように見守っておきますよ。さあどうぞ!」
「ケガぐらいならいいんだ。でもそういうことは無いから。喧嘩するつもりはなくて、ただ、竹下がどこを目指しているのか聞きたいだけ」
今回の旅の中で
でも、それがなぜ今なのか、そしてそのあとはどう考えているのかを知っておかないと、協力することもできない。
「樹と風花はもうわかっていると思うけど、俺はカインあたりには国が必要だと思っている」
やっぱりそうだ。
「荷馬車ができて銅貨ができて、交易も盛んになって来て、食料も豊富にある。みんなの生活も安定してきているのは分かっているよな」
「うん、どの村でも子供を作る余裕ができて、人口も増えていっているよね」
これまでは子供を5~6年に一人ずつの間隔でしか育てきれなかったのが、3~4年に一度で良くなってきている。そのためほとんどの村で子供が増えてきているのだ。
きっとあと10年もしたらもっと育てやすくなるはずだから、あのあたりの人口もかなり増えるんじゃないかと思う。
「そう! まずはそこが問題になってくる。人が増えたら何が必要になるでしょうー。はい、海渡」
「そうですねー。やっぱりご飯を食べれないといけないから、食料が必要ですよね」
「正解! 食料がないと人は生きていけない。ただそれだけじゃなくて……」
「水も大事」
「うん、風花の言う通り。水と食料がないと人は生きていけない。でもそれって、限りがあるよねテラでは」
ソルたちが住んでいるところは、あまり降水量が多くない。それでも水に困ることなく生活できているのは、山の雪解け水を利用できるから。
もし、その水が枯れてしまったら、ユーリルがいた町のように誰も住めない場所へと変わってしまう。
「つまり竹下先輩は、人が増えていくと食料や水を求めて争いが起こると考えているんですね」
「うん、さすが凪。簡単に行っちゃえばそう。そう遠くないうちに、土地と水をめぐっての争いが起こるようになるはず」
竹下が心配していることはこうだ。
村に人が増えてくると、
最初のうちは村の中で畑を増やしたり、他の村から食料を買ったりすることで対処できるけど、それも限度があって、次第に村の外に畑や牧草地を広げることになる。
しかし、それは隣の村でも同じことが起こっているから、村の境界付近では土地や水をめぐっての争いが起こるんじゃないかと……。
「村長さんは名誉職なのに、村人から突き上げられて大変ですからね。少しでも相手に対して弱腰だと村人が黙っていませんよ。だからどちらの村長も余計に強気でやり合う……確かに、殺し合いもあり得ますね」
そうなのだ、少しでも相手に対して譲歩しようという姿が見られたら、他の村人が黙っていない。だからお互い譲歩し合って、話し合いで穏便に済ませるという選択肢が取れない可能性だってある。
「まあ、実際そういうのが始まるのは10年以上先のことだと思うけど、その時になって慌てても遅いじゃん。だから、今のうちから種まきしておこうと思ってね」
「まずはシュルトみたいな感じにしていくつもりなの?」
「うん、みんなで話し合うことが当たり前にしていきたい。そして、そのまとめ役をソルにお願いしたい」
やっぱりか。
「どうして
「
「どうして? わかっているならやれそうな気もするけど……」
「俺はテラでは小さなころから生きるのに精一杯だったから、地球の記憶を持っている今でも、最終的には判断が自分寄りになるんだよ。それだと他の村長から不満が出る」
「リュザールは?」
「リュザールは……本人を目の前にして言うのは気が引けるけど、考え方が過激すぎて……」
リュザールはお世話になった隊商の頭を殺されてから、身近な者に危険が迫った時の対処の仕方が容赦がない。竹下はそこを心配しているのだろう。
「僕だって、間違った判断するかもしれないよ……」
僕だって人間だからね、調子に乗ることだってあるし、余計なことを考えることだってある。
「大丈夫だって、その時のために俺たちが付いているからさ。それに村長さんたちもソルの事を気にかけているようだから、協力してくれるさ」
村長さんたち、いくらユーリルが
うーん、考えてもしょうがないか。
「それで、僕はこれからどうしたらいいの?」
「まあ、国と言っても権力者が力を持って、人民を支配するって感じにはならないからね。
たらいいよって、そんなに簡単な事じゃないと思うけどな……
「できるかな……」
「今度の結婚式で来てくれた人たちを、精一杯もてなしたらみんなも喜んでくれるさ」
それくらいだったら、できるかも。
「ふふふ、それでしたらこの海渡にお任せください。皆さんご納得の料理を振舞って差し上げますよ!」
今回僕は料理の手伝いをあまりできないかもしれないから、
「あとは、お風呂に入ってもらって、のんびりしてもらったら完璧だね」
「それで、村長さんたちと仲良くなった後はどうするつもりなの?」
仲良くなって、話し合いで決めごとをして、その後をどうしたいのかも聞いておきたい。
「その先は俺たちの代でどこまでやれるかわからないけど、できるだけみんなが争わないで済む世界を作りたいよな。俺みたいに行くところがない子供がいたらかわいそうだからさ」
僕たちの代か……僕たちの子供たち、それに子孫のことまで考えてあげる必要があるってことだよな。
「あの、私、これまでどこ学部に進学するか決めきれなかったけど、今わかりました。法学部に進学したいです」
「どうして?」
「これから、村長さんたちとの話し合いが多くなるんですよね。そしたら、決め事をいろいろと考えなくちゃならないはずです。その時に起こりそうな問題点とかを前もってわかっていたら、争いごとも少なくなるでしょう」
法学部は法律を学ぶことになるけど、その法律っていろいろな争いの中で生まれてきたんだよね。だから、それを学んでくれることはこれからのためになると思う。
「本当にいいの? 他にやりたいことがあるんじゃないの」
「法学部目指すのは、テラのためだけじゃないんですよ。うちに調子に乗って羽目を外すやつがいるじゃないですか、もし法律のことを知っていたら助けることもできるかなって思って」
「どうしてみんな一斉に僕の方を見るんですかね。失礼しちゃいます。皆さんにご迷惑なんておかけしませんよ!」
いくら注意していても、問題に巻き込まれることがあるってお父さんが言っていた。その時に相談できる人がいたら心強いだろう。
「凪、ありがとう。何か手伝えることがあったら言ってね」
「先輩たち、ありがとうございます。私は何とかなりますので、海渡の方をお願いします」
「姉ちゃんひどい! 僕だってこの前の試験、学年で50番以内に入ったんですからね。この調子なら年末までには10番以内間違いありません!」
「わかった。海渡は要注意ってことだな。カインに戻ったらみっちりしごくから覚悟しておくように」
「ねえ、僕の話聞いてました。……ねえ、皆さん。何とか言ってくださいよ」
「それじゃ、今日は解散ということで、……樹は帰る前に俺の布団でゴロゴロしていってね。母さんがシーツ洗ったからさ」
え、いや。それは止めてってこの前頼んだじゃん。カァルもお願いしたのに布団の上でペシペシしないで! ……だから、みんなこっちに来ないでよ、や、やめてー!
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あとがきです。
「樹です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「披露宴の料理お願いするね。あまり手伝えそうにないから」
「ソルさんは主役ですからね。料理のことは気にしないでください」
「そうは言っても、新しい料理も出すんだよね。それは気になるよ」
「ええ、いくつか候補は決めて、食材の手配も始めています」
「え! もう始めているの? みんなからおかしく思われないかな」
「大丈夫ですよ。日持ちするやつですからね。前もって押さえておかないと当日足りなかったら目も当てられません」
「それならいいけど、ちなみにどんな料理が出てくるのかな」
「お楽しみにと言いたいところですが、一つだけお教えいたしましょう。焼き鳥です!」
「おぉー、ついにおじさんからタレの作り方を教えてもらったんだ」
「いえ、それはまだですし、仮に教えてもらっても醤油も砂糖もないので再現できません。なのでハーブ塩を振るくらいですけどね」
「それでもおいしそうだよ。あ、それじゃ、食材の手配って……」
「はい、たくさんの鳥さんを集めています」
「……戻ったら朝が賑やかそうだ。それでは次回更新の案内です」
「次回はようやくカインに戻ります」
「皆さん次回もお楽しみに!」
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