第143話 村長のシドさん

 翌日、クトゥさんたちと一緒に朝の食事を済ませた私たちは、コルカの村長むらおささんの家に向かって歩いている。


「ユーリルは村長さんとも親しかったんだね」


「親しいと言っても、銅貨を普及するときに手伝ってもらったくらいだけどね」


 そういえばユーリルは銅貨を普及させるときに、コルカの村長さんと一緒にこの辺りの村々を説得して回ったって言っていたな。


「どんな人なの?」


「うーん、一言でいうとクマさん」


 リュザールもうんうんと頷いている。なるほど、クマさんか……もうなんとなくわかった。

 クトゥさんにファームさん、それに村長さんか……コルカのおじさんってこんな人が多いのかな。






 町の北の方にある村長さんの家に到着した私たちは、居間に通されご本人と対面する……うん、クマさんだ。おまけにおひげまで生えていて、見た目からして間違いない。


「おお! ユーリルじゃねえか! 久しぶりだな、元気にしてたか」


 そして、がははと言いながらユーリルをバシバシ叩いている。仕草までも期待通りだ。


「シドさん痛い! 痛いって!」


「おお、すまんすまん。お客人もいるようだし、まずは紹介してくれるか」


 リュザールとは隊商の仕事で会うことがあるようで、ユーリルは私を紹介する。


「おお、あなたがソルさんでしたか! 私はシド。この町の村長をしております。あなたのおかげでコルカは助かりましたからな、まさに恩人。お会いできて光栄ですぞ」


 ちょっと、よくわからない。恩人って何のこと? というか手が痛い。さっきから手を握られぶんぶん揺さぶられている。


「シドさん、ソルが痛がっているよ」


 なんか、前にもこれをやられた気がするけど……あの時もコルカじゃなかったかな。


「えっと、シドさん初めまして。ソルです。恩人というのは何かの間違いではないですか。私は何もやってはないと思うのですが……」


「いやいや、謙遜されなくてもよくわかっていますよ。糸車を作ったり荷馬車や銅貨を作ったりと活躍されている。特に銅貨には助けてもらいましたからな。おかげでコルカの市は売る物に困るほどの大盛況。逆の意味で頭を抱えておりますよ」


 コルカの市が早い時間に片付いていたのは、早々に売り切れていたからなのか、それは凄い。

 しかし……糸車は確かに私がジュト兄とユーリルに頼んで作って貰ったけど、後の二つはどちらかというとユーリルが考えたものだ。私が感謝されるのは筋違いだと思う。


 そう思ってシドさんに話そうとしたら、ユーリルから止められた。


「ごめん、話を合わせといて」


 何か考えがあるみたいだから、そのままにしておいたけど、なんだか落ち着かないよ。


「いや、それで何のためにいらしたのかな」


 ユーリルは話を進める。





「ふむ、我々に新しい村を作って欲しいということですな」


「はい、水が枯れて町が無くなって以来、あの方面は交易にも不便になっております。我々隊商としてもあの辺りに村がないために、無理して移動をしておりまして、安全のためにもご協力いただけないでしょうか」


 リュザールは隊商の意見として村の必要性を説いている。


「リュザール。あっちは水が無くなって交易するうまみの少なくなっていると聞いてるぞ。そんなところに村を作って成り立つのか?」


 村長さんの言うことももっともだ。人が寄り付かないところでは、村としてやっていくのは並大抵のことではない。


「実はこれからシュルトで砂糖の栽培が始まることに決まりました。そうなるとコルカからシュルトへの交易が盛んになると思うんですが、道中に危険があると隊商を出せなくて困ってしまいます」


「ちょっと待て、リュザール。その話は本当か」


 シドさんの目の色が一瞬にして変わった。


「はい、ボクたちはソルの発案でシュルトまで行き、砂糖を作って貰うための話をしてきました」


 ち、ちょっとリュザール。なんてこと言い出すんだ!

 私はユーリルに言われて一緒について行っただけ!


 私が反論しようとするのをユーリルに止められ、さらに話は続く。


「おそらく、今年の秋には砂糖が作り始められることになります。本格的な交易は来年以降ですが、その時になってあの場所に村がないと困るんです。是非、お願いします」


「わかった。みんなと話し合わないといけないが、砂糖の交易に取り残されるわけにはいかんだろう。俺に任せておけ!」


「そこでシドさんにお願いがあるんだけど……」


 ユーリルが本来のお願いをするための話を始めた。





「確かにあそこには、お湯が流れ出ている場所があると聞いている。でも、使うのは隊商や近くの羊飼いぐらいだろう。そんな場所に、……そのお風呂? というものを置いてどうするんだ」


「実はこのお風呂、カインにはすでに設置していて使っているんだよね。この前もビントのトールさんとバーシのバズランさんに使ってもらったんだけど、二人とも気にいってくれてね、ビントにはつい最近、お風呂を作ってきたばかりなんだよ」


「そうなのか!」


「そこに男と女で部屋を分けて作って貰って、食事ができるようにしてもらえたら、きっとみんなが集まるようになる。使うための費用を銅貨でもらったら管理する人も生活できるでしょう」


「しかし、使ってみないことには何とも言えないな……」


「それじゃ、今度ソルとリュザールの結婚式があるんだよね。その時にカインまで来てもらえないかな。そしたらお風呂がどれほどのものかわかるはずだからね」


「なんと! ソルさんとリュザールが結婚を! それはめでたい! 確かにこれだけのことをされてきたソルさんの結婚式ともなれば、出席しないといけませんな」


 ふう、もう何が何だか、気が遠くなりそうだよ……





 そのあと、今日は泊って行ってくれというシドさんの誘いを丁重にお断りして、クトゥさんの宿まで戻ってきた。


「もう疲れたよ、リュザール」


「でも、話はうまくいったでしょう」


 確かにうまくいったけどさあ……


「砂糖の話とか私が言いだしたことにしていたけど、これはユーリルと話し合っていたの?」


「ううん、ユーリルなら多分そうするだろうなと思って、アドリブで言ったんだ」


 アドリブで……息ぴったりだったよ!


 しかしどうしよう、大事おおごとになりそうな感じになってきた。

 というのも、帰り際、シドさんから結婚式の日取りを聞かれ、カインに戻って準備するから今から12日~13日後ぐらいになると伝えたら、この近くの村長に知らせると言い出して、困ると伝えようとしたらユーリルとリュザールから全力で止められてしまった。

 ……村長さんが集まって祝ってもらう、光栄なことだけど正直面倒なだけ。仲間内だけでいいのにー。


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あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「リュザールにそんな才能があったなんて知らなかったよ」

「何の?」

「あんなにアドリブがうまいなんて……」

「ねえ、ソル。ボクの職業何か知っている?」

「もちろん! 隊商の隊長さんで行商をている人」

「そうそう、商売するのが仕事だから、人が何を求めているかはわかるつもりだよ」

「そうなんだ。でも私の求めていることは分からなかったよね」

「知ってた。知ってたけど、この方がおもしろそうだったからね。それにうまくいったでしょ」

「うまくいったのかもしれないけど、これからが大変だよー」

「ソル頑張ってね」

「リュザールも一緒に結婚式するんだよ。わかってんのかな。それでは次回予告のお知らせです」

「地球でのお話になります」

「皆さん次回もお楽しみに―」

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