第142話 久々のコルカ
「元々よく眠れる方だと思っていたけど、これほど眠れるとは思っていなかったよ」
翌朝、移動し始めた私たちは、コルカへと向かうために南へと進み始めた。
「みんな泥のように眠っていたよね。地球でも話したけど、横になった瞬間に寝ていたよ」
カインを出発してからすでに40日が過ぎている。大丈夫なつもりだったけど、やはり体は疲れていたようだ。
「ところで、あの温泉だけど、もったいないよね」
昨日までの私の中での一番の温泉は、由紀ちゃんの嫁いだ旅館だったんだけど、今日はもう二番になってしまっている。
当然一番は昨日のやたら見晴らしのいい温泉だ。
「うん、かなりよかった。また来たいよね」
「リュザールたちはいいよ。コルカに寄った時に少し足を延ばしたらいけるじゃん」
そうだよね。リュザールたち隊商の人たちは、大変な仕事だと思うけどこういうところは恵まれていると思う。
「うーん、コルカからここまで馬で4日かかるんだよ。往復で一週間以上でしょ、荷物もあるしコストもかかるしなかなか難しいよ」
そっか、荷物があるから逆に動きが制約されちゃうんだ。思ったより恵まれてなかったよ。
でもねー
「男の人はいいよ。あの温泉は女の人には無理だよ」
「ソルみたいに、見られてもなんとも思わない人は少ないだろうからね」
私だって、見られてもいいと思っているわけではなくて、好奇心に勝てずに入っただけで……、とりあえず昨日私の裸を見た二人には厳重注意をしておいたけど、ゲンコツの方がよかったかな。
「そんなに睨まないでよ。見るなっていう方が無理だって、危険なところなんだから確認しないといけないからね」
リュザールの言う通り、安全じゃないから目を離した隙に襲われたり、人質に取られたりすることだって考えられる。仕方がないと言えば仕方がないんだけど、だからと言っていくらでもどうぞとは言えないよ。
「そっか、ソルとルーミンぐらいだろうな。あの温泉に入れるの……」
なんか失礼なこと言われている気がするけど、ユーリルのことだから何か考えてくれているんだろう。
「ねえ、リュザール。この辺りで一番大きな町ってコルカになるの?」
ほらね。
4日後コルカに到着した私たちは、まずはクトゥさんの隊商宿に向かった。
「おおーこれはソルさんお久しぶりです。少し背が高くなられましたか」
「お無沙汰しておりました。クトゥさんもお元気そうで何よりです。背は少し伸びているかもですね」
といういつもの挨拶を終わらせて、いつもの大部屋で荷物を
「クトゥさん、ソルのこと女の子だって思って無いな」
ん、ユーリル。どういうこと? 女の人であまり旅をする人は少ないけど、隊商宿の部屋はもとから男女分かれてないと思うけど……
「年頃の娘さんへのあいさつで、背の話するか? 普通ならお美しくなったとかだよね」
それでか、挨拶の時にクスクス笑っていたのは。
相槌を打ったリュザールも含めて二人にゲンコツを落として、ファームさんの鍛冶工房まで向かう。
「ソル姉! 久しぶり!」
声変わりが来ているのか、普段から大声で話しているせいか、少し低くなった声で話しかけてきたテムスは、背も高くなっていて私と変わらなくなっていた。
それよりもあの二の腕、アラルクやリムンには負けるけどなかなかの大きさだ。……あとで触らせてもらおう。
「テムス、大きくなっていてお姉ちゃんびっくりだよ。修行はうまくいっているみたいだね」
「うん、師匠は厳しいけど、毎日が楽しいよ!」
うんうん、元気そうだ。これならコペルも安心するよ。
「やあ、これはソルさん。よくお越しくださいました。テムスはなかなかですよ。あと少しでカインに戻さないといけないのが残念ですな」
おお、ファームさんがそう言うのなら、そうなんだろう。
もしかしたらもう少し修行させたいのかもしれないけど、カインにはコペルが待っているから伸ばすわけにはいかない。来年の春から夏の間に結婚式を挙げることになるはずだからね。
「何のお構えもできませんが、ゆっくりって下さい。それで、ユーリル! てめえには話がある。こそこそしてねえでこっちにこい!」
「はい!」
私の後ろに隠れていたユーリルは、ファームさんに外へと連れていかれてしまった……。まあ、いつものことだから大丈夫だろう。
私とリュザールとテムスの三人は、工房の居間で一緒にお茶を飲んでゆったりムードだ。
「姉ちゃんたちはいつ発つの?」
「明後日か明々後日かな」
本来なら一泊してすぐにコルカを発つ予定だったけど、ユーリルが考え着いたことを実行するために二日余裕をとっている。
「そっか、それじゃまた来てくれるよね」
「もちろん、テムスの仕事ぶりも見せてもらうよ」
「そうだ! ソル姉とリュザール兄は戻ったら結婚式でしょ。僕も行きたいけど、ごめんね」
「気にしないで、テムスは修行をしっかりやって、カインに戻って来てね」
テムスが一人前になるのをコペルは待っているからね。私たちの結婚式でそれを遅らせるのは悪い気がするよ。
「もう少しで、リュザール兄が本当の兄ちゃんになるんだ。これで僕には二人目のお兄ちゃんができる。楽しみだよ」
「よろしくね、テムス」
テムスはお兄ちゃん大好きだからな。なんか妬けちゃうね。
ファームさんから解放されたユーリルを連れて工房を後にする。
「お疲れ様。いつもに増してげっそりしているね」
私たちは、普段は市をやっているはずの広場を歩いている。もう市は終わっているようだけど、太陽が沈むにはもう少し時間がかかりそうだ。
「参った……またカインに来るって」
「え! まさか一緒に来るんじゃないよね」
ファームさんが一緒だと、カインまでの道中、気が休まることは無いよね……
「いや、テムスがカインに戻るタイミングだって言っていたから、すぐじゃないんだけど、気が重いよ」
「でも、どうして?」
「隊商の人からラザルとラミルが生まれたことを聞いているみたいでさ、どうして連れてこないんだって言われて」
「連れていけないじゃん」
「そう、まだ小さいから無理だって言ったら、俺が行くって聞かなくて……」
まあ、それは仕方がないよね。
宿に着いた私は、クトゥさんに呼び止められた。
「ソルさん、お待ちしていました。材料は揃えてありますのでいつものようにお願いします」
そうだった、ここではこれがあったんだ。
私とリュザールは顔を見合わせ、一緒にかまどへと向かった。
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あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「お義父さん元気そうでよかったね」
「お義父さんって……そうだけど、苦手。そっとしておいてほしいよ」
「まあまあ、そう言わずに、ファームさんもラザルとラミルに会いたいんだからさ」
「そりゃわかるけど……仕方がないか。あー、俺も早くラザルとラミルに会いたいよー」
「早く仕事をかたずけて帰ろうね」
「わかった、明日の仕事はきっちりと片付けて、カインに戻る!」
「その意気その意気。さて、次回予告の時間です」
「俺たちはコルカの村長に会いに行きます」
「どんな話になるのか、乞うご期待!」
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