第141話 温泉があるってことは?

 リュザールが温泉に向かった後もプロフの調理を続ける。

 米を入れ、炒めた具材とともに炊き込み、火加減を調整しながら、後は炊きあがるのを待つ。魚の燻製は火であぶるくらいでいいので、食べる直前で大丈夫だ。


 当然今も顔を上げるとリュザールの姿が見えるんだけど、リュザールもこちらから見えているのをわかっているはずなのに、別に隠そうともしていない。当然ちらちらと見える……


「どうしたの?」


「いや、うん、まあ、見えるなと思って」


 ユーリルはリュザールの方を見て


「……ま、そういうことだ。気にするな、


 うぅー。




 リュザールが温泉から上がったタイミングで料理が出来上がったので、先に食事をした後に、私はゆっくりと温泉を楽しむことにした。


「ねえ、二人とも、温泉はどうだった?」


「いやー、よかったよ。嘘偽りのない源泉かけ流しだからね。体もポカポカだよ」


 確かに二人の体からは、今も硫黄の香りが漂ってきている。


「ボクもこの旅の疲れが一気に取れた気がするよ。隊商でも一度にここまで旅を続けることは無いからね。黙っていたけど、結構疲れていたんだ」


 ふむふむ、これは期待が持てそうだ。


 ん、硫黄の温泉と言えば……


「ねえ、ユーリル。この温泉って合宿の時の旅館と同じ泉質だよね。あの場所には近くに火山があったけど、このあたりにもあるのかな?」


「よくわからないんだよ。地球では南の方のタジキスタンのあたりまで行ったら、火山がたくさんあるみたいなんだけど、この辺りにあるって話は聞いていない。でも昔はあったかもしれないね」


「この温泉はその名残なの?」


「そうかもね、まあ、この辺りはずっと南にあるインドから押されているから、その影響もあるかも」


 地球ではインドがユーラシア大陸にぶつかって、ずっと押し上げているのでヒマラヤ山脈ができたというのは有名な話だ。もしかしたらこのあたりにまで、その力が及んでいるのかもしれない。


「ずっと、押されているってことは、その力が溜まっている可能性もあるんだよね」


「うん、だから、いつ地震が起こってもおかしくないと思っているよ」


 昔の話でテラでも地震があったって聞いたことはあるけど、私が生まれてからは一度もない。でも、地震大国日本で生まれ育っている私たちは、この話をここで終わらせることはできない。


「それじゃ、今住んでいる家では……」


「カインで作っている最近の家は、レンガを工夫しているからこれまでの物より多少は丈夫だけど、ちょっと大きな地震が来たら到底持たない。だから、もっと強い家を作りたいんだけど、今の俺の技術じゃ無理だからね……」


 竹下が工学部を目指す理由はここなんだ。


 今のテラの住居は、日干し煉瓦を積み上げたものを漆喰で固めたものだ。中に鉄骨が入ってないから揺れるとすぐに崩れてしまうだろう。


 あれ、確か地震に弱い建物を補強する方法があったと思うけど、なんだったっけ?


「ああ、筋交すじかいを入れたら強くなるよ。でも、テラの住居じゃあまり意味はないね」


 ユーリルによるとこちらの住居はレンガ自体が脆すぎて、いくら筋交いを入れてもレンガが揺れに耐えきれず壊れてしまうそうだ。


「今、再現可能な技術なら、古い日本家屋みたいに木の柱に漆喰の壁、柱と柱の間には筋交いを入れるって感じにしたら強くなるんだけど、こっちは日本ほど木が無いんだよね。一部の建物は木造で建ててもいいと思うけど、他の建物はこちらで調達可能なもので作れるものを考えるから、それまでは待っていて。それよりも、ソルも早く入っておいでよ。そろそろ日が暮れちゃうよ」


 そうだった、暗くなったら危なくて入れなくなる。


「ねえ、ソル。改めて聞くけど、本当に大丈夫なの?」


「何が?」


「丸見えだよ」


 うっ、わかっているけど、いまさら入らないとかありえないよ。


「見たら殺す!」


 とりあえず2人を脅したけど、まあ、見られたところでどうってことはないんだけどね。このあたりの考え方が樹の影響が出ているのかな……





 リュザールと二人で食事の後片付けをしている間に、ユーリルが改めてお湯の温度の調整をしてくれたので、着替えを持って湯船へと向かう。


 湯船は穴を掘ったところに石を組んで、壊れないようにしているみたい。その石も丸いものが多いから、わざわざ河原から運んできたのかもしれない。


 ……しかし、ホントに遮るものがないな。


 丘の途中からお湯が流れ出ていて、その周りには木も生えていない。温泉から出てくる硫黄の影響かもしれないし、この辺りの羊が食べてしまったのかもしれない。

 いずれにしろ、今、私の視界を遮るものは、私たちのユルトしかない状態なのだ。さらに安全のためにユーリルとリュザールの二人も近くにいるから、見るなというのが難しいかもしれない。


 まあ、見られてもあの二人だし、誰か来たら教えてくれるだろうということで、着ている服を脱いでいく。




 湯船の中の温度を確認し、鍋でお湯をすくって体にかけてみる。


 うーん、硫黄の匂いが心地いい……。樹の時はこの匂いは好きだけど、ソルの体の時もそれは同じみたいだ。


 早く中に入りたいので急いで体を洗う、もう一か月以上お風呂に入ってないから、念入りに洗いたいんだけど、さすがにあまり時間をかけたら二人に見られてしまう。見られるのは……まあ、仕方がないけど、見せつけるつもりは毛頭ない。


 準備を済ませ、中に入る。色は硫黄泉特有の白濁したお湯で、温度はちょうどいい感じだ。

 源泉からちょろちょろとお湯を流すようにして温度調整している辺りは、さすがユーリルの仕事だと感心してしまう。最初に入った時に裸でうろうろしていたのは、この調整をやっていたんだ。

 おかげで余計なものまで見えてしまったけどね。


 気を取り直して、温泉を堪能する。


「うーん、日本人じゃないけど、やっぱり温泉はいいよねー」


 落ち着いたところで辺りを観察する。この温泉、そんなに使われている感じじゃないのに、なかなかよくできていると思う。

 近くの村の人が作ったのかな。それとも隊商の人かな、もしかしたら、この辺りにも私たちみたいに地球と繋がっていた人がいたのかな。私のご先祖様みたいに……


 ふと二人の方を見ると、焚火のところでユーリルと話しているリュザールと目が合った。

 目を背けるどころか手を振ってきたんだけど……あ、ユーリルもこっち向いたじゃない。まあ、湯船に浸かっているから見られているわけじゃないんだけど、私が言ったこと覚えてないのかな。ドスの利いた声で言ったつもりだったけど、迫力が足らなかったか……

 まあ、遮るところが何もないここじゃ、しょうがないか。


 ……ほんとに旅の疲れがとれそうだよ。今日はゆっくりと眠れそうだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「あれ、なんでルーミンがいるの」

「今日はお知らせがあって無理言って出させてもらいました」

「おー、そうなんだ。それで何のお知らせなの?」

「実は私が主人公のお話ができましたー。

『みんなではじめる国づくり ~旦那様を受け入れるのは簡単ではありません~』

カクヨムでのリンクは→ https://kakuyomu.jp/works/16816927859649526122 です。皆さん読んでください!」

「おー、おめでとう! それでどんなお話なのかな?」

「内容はここではお伝え出来ませんが、全4話の短いお話です。お時間がある時にでも、覗いてもらったら嬉しいかも……」

「短いのかちょっと間に読めそうだね。皆さんお願いします」

「皆さん私のお話の宣伝にお付き合いいただきありがとうございました。それでは次回のご案内です」

「久々のコルカでのお話です! テムス元気にしているかな」


「「それでは次回もお楽しみにー」」

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