第140話 テラの温泉
リュザールの案内で、温泉が湧いているという場所へと向かう。
温泉に寄るのはユーリルが言い出したことだけど、実は行ったことが無いらしく、
「宿の人が知っていてよかったよね」
「ごめんって、まさか思っていた場所と全然違っていたとは思わなくて」
ユーリルが話してくれた場所を宿のご主人に確認したら、そこには何もないと言われてしまった。方角から違っていたので、ユーリルを信用してついて行っていたら、温泉には入れずじまいになるところだったよ。
「ほんとにソル、大丈夫なの?」
「う、いまさら入らないのは我慢できないかもしれない……」
リュザールに連れてこられた場所は、東にある山から続く丘の途中で、周りには目印のようなものが何もないから、知らなければ通り過ぎそうな場所だった。
もちろん、温泉が湧きだしているところからは湯気が出て、硫黄の匂いがするからそこにあるというのはわかるけど、遠くからだと気づかないと思う。
ただ、そういった場所には当然囲いがないので、誰かに裸を見られる危険性も出てくる……
「ソルがいいのなら、一緒に準備をしようか」
温泉の湧きだしている所には誰かが作った湯船みたいなものが二か所あって、一か所に溜まったお湯の一部がもう一か所に流れる構造になっていた。
おそらく、湧き出しているお湯が熱いので、そのままでは入れないからそういう仕組みにしているのだろう。合宿で行った温泉旅館と同じだ。
一つ目の湯船はお湯を貯めるだけで使うことが無いのでそのままにして、二つ目の湯船の中を掃除する。いつも使われているわけではないようで、湯船の底には砂や枯れた草が溜まっていたのだ。
一つ目の湯船から二つ目へと流れるところに石を置き、流れを止める。すこし温度を冷ましたところで中に入り、砂や草を取り除く。
当然濡れるので、リュザールとユーリルが下着一枚になって頑張ってくれているんだけど、二人はすでに汗だくだ。
それにしても二人ともいい体つきになったよね。ユーリルなんてカインに来た頃は、ひょろっとしていたのにがっしりとしてきているし、リュザールも、もう少年の体じゃない。胸板も厚くなってきているし腕だって太い、きっとあの腕に抱き寄せられたら逃れることはできないだろう……
「お湯、そんなに熱いんだ」
「熱いのもあるけど、これ、かなりいい温泉だよ。体中ポカポカしてきた」
二人は足と腕しか温泉に浸かっていないけど、すでに体全体が温まっているみたい。
ある程度砂と草を取り除き、改めてお湯を流し込む。溜まったところでもう一度汚れを取り除き、それを何度か繰り返してようやく入れそうな感じになった。
「しばらく冷まさないと入れないから、今のうちにユルトの用意をしておこう」
ユルトは、温泉が湧きだしている所から、ほど近いところに立てることにした。遠くだと、盗賊が来た時の対処に遅れるし、近いと硫黄のガスの影響が怖い。
二人はタオルで汗を拭き、下着姿のままユルトの準備を行っている。
「寒くないの?」
もうすぐ夏になると言っても、午後も遅くなってきたから少し涼しくなってきている。
「うん、大丈夫みたい。それにしてもソルは、俺たちの姿見てもなんともないんだね」
「どういうこと?」
「普通の女の子なら男の下着姿とか、見る機会ないでしょう。キャーって叫ぶとは思わないけど、もう少し反応あるのかなって思っていたんだけどね」
確かに、こちらの男性も夏場であっても肌を露出させることはあまり無い。特に女性が近くにいるときは、気を付けるようになっている。
「まあ、男の裸は見慣れているから」
「それもそうか、それじゃソルはかまどの準備をお願いね」
「うん、わかった」
リュザールの姿にちょっとドキドキしたのは内緒だ。
私はすでに集めておいた石を積み、かまどを作っていく。薪の準備もできているから、このまま夕食の準備も始めてしまおう。
「ソル! 準備できたようだけど、どうする?」
「二人からお先にどうぞ!」
二人が頑張ってくれたんだから、先に入ってもらわないとね。
「わかった。ユーリルが先に入るから、ボクもそっちに行くねー」
石で組まれている湯船はそれなりの大きさがあって、三人ぐらいなら一緒でも大丈夫な大きさだった。ただ、ここは安全な場所とは言えないので、みんなで一緒に入るなんて到底考えられない。
まあ、安全であっても、私が一緒に入れるわけはないだけど……。
ということで、一人ずつ入って他の二人はいつでも動けるようにしたのだ。
「お待たせ。今日は何を作るの?」
「昨日お米が手に入ったからプロフと、魚の燻製を焼いたものかな」
「了解。野菜切って来るね」
「ユーリルはもう温泉に入っているの?」
「ほら」
リュザールが指さした方には、鍋を使いお湯を
「丸見えじゃん」
「そう、だからソルも見ないように気を付けてね」
気を付けてねって……。確かに盗賊に襲われたら大変だから、すぐに対処できるところにいるのはわかるけど、……うまく見ないようにできるかな。
まあ、気にしても仕方がない。見えた時は見えた時と諦め料理を続ける。
リュザールが野菜を切ってくれているので、昨日泊った村で譲ってもらった羊肉を炒める。炒まったところで肉を一度上げ、炒めた油をそのまま使ってリュザールが切ってくれた野菜を炒める。
という感じで作業をしているんだけど、顔を上げるたびにちらちらとユーリルの姿が見えるんだよね。黙って浸かっていたらいいのに、出たり入ったりして……なんかぷらついているのが見えるような気がするけど、気のせいだろう。
というか、あいつのお風呂の入り方が地球と変わらないな。やっぱりどちらも男だから一緒になるのも当然か。
「どうしたの?」
「いや、ユーリルのお風呂の入り方が竹下と一緒だったから、それもそうかと納得していたんだ」
「そうなんだ、ボクは地球での竹下君の入り方がわからないけど、こちらではあんな感じだよ」
「どちらも男だと楽でいいよね。風花はリュザールと繋がった後、髪を切ったでしょ。あれはやっぱり……」
「うん、面倒くさかったから。リュザールの短い髪を知ってしまった後、お風呂に入る時の大変さが我慢できなくなった。もしかして長い方がよかった?」
女の子は髪を大切にするというけど、風花はリュザールの影響が強めに出ることがあるから考え方も男の子っぽくなるんだよね。髪を切った当時は失恋したのかって騒がれて、こっちにまで聞いてくる人が多くて大変だったよ。
「ううん、短い方も可愛いよ」
「ふふ、よかった」
「上がったよ……二人とも顔が赤いけど、もうのぼせているの?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「なんでおとなしく浸かっておくことができないのかな……」
「いや、湯船の構造がどうなっているのか気になって……」
「まあ、そうだろうとは思ったけど、地球と一緒で落ち着いて入ってないから、余計なものが見えちゃったよ」
「やだ、エッチ」
「気持ち悪いからやめて。女の子もいるんだから少しは考えてほしかったよ」
「女の子って言ってもソルだからな。地球では何度も一緒にお風呂入っているし、変に隠す方が嫌な感じするじゃん」
「そうかもしれないけど、竹下の方とは温泉やスーパー銭湯に一緒に行くことあるけど、ユーリルとは違うんだからね。目のやり場に困ったよ」
「それで、ソルから見て俺のってどうだっ、……痛て! 何すんだよ!」
「セクハラには鉄拳制裁」
「いてて……次回もお楽しみに―」
「人種か……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます