第120話 みんなで畑を作りましょう
「今日はこれから予定を変更して、テンサイを植える畑の用意をしてもらいます。場所が少し遠いので、皆さん荷馬車に乗って移動してください」
工房、織物部屋、鍛冶工房のすべての職人は馬に曳かれた荷馬車に分乗し、薬草畑奥の山の中にある草原へと向かった。
当初の予定では、テンサイ畑の準備は私たちがタルブクに行っている間に、リムンたちにお願いするつもりだったけど、せっかくならみんなでやった方が楽しいに決まっている。
「はーい、皆さんこの場所になります。ここからはユーリルの指示に従って作業を開始してください」
薬師の私たちが、薬草を採りに行く山の麓の草原はかなりの広さがある。父さんから許可をもらってここを開拓することにしたのだ。
「ソルさん、いい土地がありましたね。でもどうしてこのあたりは木が生えてないんですか?」
ルーミンは私の隣でユーリルの話を聞きながらきいてきた。
「このあたりはね、昔、うちで羊飼っていた時に牧草地で使っていたらしいんだ。その後も畑にするつもりだったらしくて、木が生えないように管理だけはしていたみたい」
「そんな大事な土地を使ってもよかったんですか?」
「父さんにこの話をしたら、砂糖が手に入るんならこの土地はいくらでも使ってくれって。父さんがあんなに甘いものが好きだとは思って無かったよ」
収穫祭の時にリュザールにお願いして買ってもらったハチミツを、父さんがこっそり舐めているのを見た時は目を疑ったものだ。
「タリュフさんそんなに甘いものが好きなら、おはぎなんて作ったら大変なことになりますね」
ホントだよ、いくら小豆が健康にいいって言ったって、食べすぎたらよくないに決まっている。父さんの健康のためにも見張っておかないといけないな。
「そうそう、それで小豆はいつ植えるの。私は聞いてないんだけど」
小豆の原種のと思われる豆は、リュザールがケルシー(地球ではタクラマカン砂漠の西端辺り)の行商人から仕入れてくれた。地球の小豆より少し小ぶりな感じだったけど、ルーミンと一緒に少しだけ炊いてみたら、味はそう変わらなかったから小豆の代わりには十分だねって話していたのだ。
「あ、それは私が村の人たちに頼んで、春過ぎから植えるようにしています」
「それなら秋には砂糖と小豆が手に入るんだ……」
「そうなんですよ。びっくりしちゃいますね」
来年以降のために種を取る必要があるから、テンサイも半分以上は収穫せずに種になるまで待つつもりだ。それでもみんなで味見するくらいは砂糖が獲れるはずだから、おはぎを作ってもいいかもしれない。
「それにこれだけ広かったらテンサイもたくさん採れますね。おはぎだけじゃ無くて、バターも小麦も生クリームだってありますからそれこそケーキも作れますよ」
ここの全部をテンサイ畑にできたら、砂糖も村中で使う分以上は確保できると思う。でも最初のうちは種が足りないから一気には開拓しない。ここの畑は種を増やしながら徐々に広げていこうと思っている。
「さあ、それでは役割に応じて作業を開始してください!」
ユーリルの合図でみんなは作業に取り掛かる。
馬に犂を曳かせて、土を起こす。畑ならこれで終わりなんだけど、ここは草原なので起こした土の中からは石が出てくる。これをそのままにしておくと、地中で大きく育つテンサイはうまく育つことができない。だから、これを取り除く作業が必要になる。
男性陣は馬を使って土地を起こし、大きな石が出てきたらそれを運んだりする力仕事担当。
私たち女性陣の役割は、出てきた小さな石を拾って外に出すことなので、座り込んでの作業が中心だ。そうなると自然とお喋りが始まるのは仕方がないことで、
「ねえルーミン、新居はどう。そろそろ慣れてきた」
「すごく快適です! 家の中でいちいち靴を脱いだり履いたりする必要がありませんし、トイレに行くのも楽ですよ」
「いいわねー。私のところも改築してもらおうかしら」
「心配しなくてもユーリルがちゃんと考えてくれているわよ。それよりもルーミン。あなた、赤ちゃんはどうなの、やり方わかっているの?」
「う、わ、わかっていますよ」
「そうかしら、何なら教えに行ってあげようか」
「あらやだ、それなら私も行くわ」
「やめてください。うまくできてますから」
「それならいいけど、ちゃんと毎日しなさいね。今のうちだけよ、赤ちゃんできたらそうはいかないんだから」
「そうそう、若い頃が懐かしいわ。で、どうなの毎日できているの? 手伝いに行ってあげようか」
「ご心配なく! 毎日できています!」
とまあ、こんな感じだ。ベテラン奥様方にかかったら隠し事なんてできやしない。
「おーい、こっちに大きな石があるぞ! 鍛冶の人来て」
おっと、大きな石が出たみたいだ。
「このままじゃ運べないから砕くか。よし、リムン頼む」
お、リムンがやるんだ。
リムンは、土の中に埋もれていてそのままでは運べない大きな石に、鍛冶工房特製のハンマーを使って一叩き。『ガキーン』と大きな音が辺りに響きわたり、その石にはひびが入ったようだ。
「ありがとう、リムン。レノン、ローラン来てごらん。この石はこれからこのくさびを使って割っていくんだけど、やってみるかい」
リムンたちと一緒に工房にやってきたビント出身のジャムが、二人にやり方を教えている。
レノンとローランの二人は言われたようにやっていっているが、なかなかうまくいかない。
「あはは、難しかったかな。それじゃ、リムンやってみて」
リムンは、ひびが入ったところに鉄製のくさびをいれ、それにさらにハンマーで叩いて割っていく。さすが、普段から鉄を叩いているだけあって、要領はつかめているのだろう、見る見るうちに石が割れていく。
「リムン兄ちゃんすごい!」
レノンとローランの二人は、兄であるリムンを尊敬の眼差しで見ているようだ。そうなるともう一人の方も黙っていない。
「こうしちゃいられません。私もいいところ見せとかないと」
ルーミンは自分もいいところを見せようと、わざわざ二人の近くに行って石を拾っている。……ルーミンの場合は料理を作ってあげるのが一番いいと思うんだけど。
まあ、レノンとローランの二人もみんなと仲良くなれているようだし、私たちが旅に出ても心配はいらないかな。
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あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「畑の準備もだいぶんできたね」
「ソルが何を始めるかと思ったら、みんなに畑を作らせることだったんだ」
「うん、みんなで作業したら弟君二人も仲良くなると思って」
「それはうまくいったみたいだね。これで旅の準備は大丈夫?」
「私の方は大丈夫だけど、ユーリルの方はどうなの?」
「俺? 俺の方は準備万端だよ」
「あれ、こっちで俺って言っていたっけ?」
「あー、この前からラザルとラミルが話すようになってさ、俺も親の尊厳を気にしなくちゃいけなくなったんだよね」
「(親の尊厳ってそんなことじゃない気がするけど……)」
「ん、何か言った?」
「なんでもない。それじゃ次回更新のお知らせをしますね。次のお話から私たちは東のタルブクに向けての旅に出発します。ねえユーリル、どれくらいの期間かかりそう?」
「そうだね、だいたい二か月くらいかな」
「そんなに! ……って知ってた。こちらでは移動に時間がかかるから仕方がないよね。それでユーリルは、その間ラザルとラミルに会えなくても大丈夫なの?」
「うっ、ギリギリまで二人と遊んで、行った後は凪と海渡に毎日様子を伝えてもらうことしている」
「(二人も大変だ)それでは次回もお楽しみに―」
「ねえ、ソルの相棒って俺じゃないの?」
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