第119話 ビントから来た二人の男の子

「ねえ、リュザール。昨日竹下が出発が遅れそうって言っていたんだけど大丈夫?」


 ユーリルとリムンの二人はルーミンとジャバトの結婚式が終わったあと、工房の職人を連れて出来上がった風呂釜を設置するためにビントへ行っている。

 そして、昨日地球で竹下から『戻るのは予定通りだけど出発は遅れる。ごめん』と連絡があった。


「二、三日でしょう。ボクも聞いてるよ。問題ないよ」


 私とリュザールは、ユーリルが戻って来るのを待って、三人一緒にタルブクそしてその北の方にある町までの旅に出かける予定にしているのだ。


「いいの? 隊商の人たちに悪くて……」


 今回の旅には、タルブクの北の町までリュザールの別動隊の中から数人が同行してくれるようになった。私たちが住む盆地以外は治安が良くないと言われているから、付いて来てくれて心強いんだけど、私たちの都合で予定がずれるのが大変申し訳なく思う。


「普段でも、何日か遅れることはよくあることだからね。それに今回の旅はセムトさんからのお願いだから補助はしてもらえているし、普段いかないところにうちの工房の製品を持って行けるから、みんな儲けるんだって張り切っているよ」


 本当にありがたい。


 今回の旅はリュザールが言う通り、セムトさんから頼まれてタルブクの村を助けるのが目的だ。そのためには、タルブクの北の町に砂糖の原料となるテンサイを育ててもらって、景気を良くする必要があると竹下は言っていた。


 もうそのための準備は済ませてある。


 テンサイの種は、リュザールがタオルと引き換えにカルトゥの商人から仕入れていて、ある程度の広さの畑が作れる量はあると言っていた。

 また、カインの近くの標高が高いところにも、テンサイが作れそうな場所があったので、少し種を貰ってそこで試験的に栽培を始めようと思っている。うまく栽培出来たら、自分たちが使う分の砂糖は作れるかもしれない。




 数日後ビントから戻ってきたユーリルたちには、二人の男の子が付いてきていた。


「皆さん、俺とルーミンの弟のレノンとローランです。工房で働きたいというので連れてきました。さあ、二人とも挨拶して」


 リムンから紹介された男の子は、以前会ったことのある二つ下と四つ下の弟さんだ。来ることは凪から聞いていたけど、元々は来る予定でなかったのを、ユーリルが熱心にスカウトして連れてきたらしい。


「ねえ、ユーリル。お風呂の管理はリムンの弟さんたちがやるんじゃなかったの?」


「それはね、すぐ下の弟が一人でやることになったらしくて、後の二人は仕事を探していたんだよ。それならうちに来て欲しいじゃん、人手はいくらあってもいいからさ」


 また、ユーリルに一緒について行ったコルトの妹は、リムンのすぐ下の弟がお風呂の管理をすることがわかると、結婚してもいいと言い出したみたい。どうも他の村に行ったらお風呂に入れなくなるのが嫌で、決めきれなかったらしい。たぶんここなら毎日お風呂に入れると思ったのだろう。




 二人の挨拶が済み、みんなの紹介も一通り終わったあとは、お約束の新人争奪戦だ。


「二人とも、お姉ちゃんと一緒に働きたいでしょう、織物しましょうね」


 ルーミンは相変わらず、少しでも自分の仕事を減らしたいらしい。


「おめえ、リムンの弟だってな、来るの楽しみにしてたぜ。二人一緒に一人前の職人に育ててやっからよ。すぐ支度しな!」


 パルフィは新人が来ると聞いた時から頭数に入れていた。だから、知っていちゃおかしいんだからね。


「荷馬車というか建設ばかりしているけど、そろそろ俺のところにも欲しい……」


 アラルクごめん。まだしばらくは私たちの家の建設で忙しくさせちゃうけど、よろしくね。


 とまあ、こんな感じだ。でも、スカウトしてきた当のユーリルはのんびりしている……


「あ、あの、俺たちはもう働く場所は決めています」


 そう言って二人が話してくれた仕事先は、レノンがパルフィの鍛冶工房、ローランがユーリルの機織り機だった。


「レノンはリムンべったりだからわかるけど、ローランは私のことが好きじゃなかったの?」


「ルーミン姉ちゃんのことは好きだけど、ユーリルさんがたまに会って成長したところを見せた方がきっと喜ぶって言うから……」


「ユーリルさん! 可愛い弟をよくもたぶらかしましたね!」


「いいだろ、僕が誘ってきたんだから、ちゃんとみんなで面倒見るから頼むよ」


「ぐぐぐっ! 仕方がありません。いい家も作って頂きましたし、ここはお譲りしましょう。大事な弟はお任せします。その代わり、一発殴らせてください!」


 なんか嫁に出すお父さんみたいになっているけど、一応新しい職人を迎えることができた。


 しかしそうなるとタルブクへの出発に影響が出てくる。


「あー、痛てて。ローランをみんなに任せてすぐに行くわけにはいかないからさ、出発は二、三日待っていて」


 ユーリルが前もって出発が遅れると言った理由はこれだったのだ。確かにいくらリムンとルーミンがいると言っても、知らない土地に来たばかりでは心細いだろう。特にローランは、知っている人が誰もいないところで働くことにになるから、気を付けてあげないといけない。


 ということであれば、みんなで一緒に何か作業しちゃえばきっと仲良くなるよね。いいことを思いついた。早速明日みんなにお願いしちゃおう。


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あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ありがたいことに工房に新しい仲間が増えました!」

「ほんとやっと人が増えてくれたよ助かった」

「ねえ、ユーリル。機織り機ってそんなに需要あるの。だいぶん行き届いたと思うんだけど」

「何言ってんの! 全然足りないよ。綿花もたくさん作られるようになったし、蚕さんも増えてきて生糸も安定して手に入るようになってきた。タオルもそうだけど結婚式の衣装も手が込んだものが多くなってきたりと、みんなの生活が変わってきているんだからね。これからもまだまだ機織り機の注文は来るよ」

「そうなんだ」

「でももし、機織り機が必要なくなったら違うものを作るよ。まだまだこちらで作ってみたいものはたくさんあるからね」

「頼りにしているね。でも、ごめんね。忙しいのに明日はみんなに違うことをお願いすることになりそう」

「面白そうなこと考えてるんでしょ。いいよ、みんなで参加するよ。楽しめた後の方が仕事の効率も上がるからね。まあ、すでにかなり遅れていて一日ぐらい増えてもあまり変わらないというものあるんだけどね」

「ほんとごめん。気を取り直して次回更新のご案内です」

「次回は旅の前にソルの思い付きでみんなで作業をします」

「それでは次回もお楽しみに―」

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