第118話 ジャバトとルーミンの結婚式
翌日のジャバトとルーミンの結婚式は盛大なものとなった。
たくさんの人たちに祝福された二人は本当に幸せそうで、織物部屋の職人はみんな
「引っ付けようとは思っていたけど、まさか本当に一緒になるとはねぇ……」
「それよりも織物よ。まったく用意してないと聞いた時には耳を疑ったわ。間に合ってほんとによかったわぁ」
「ホントにそう。あの子ってちゃんと奥さんできるのかしら、ジャバトが苦労しなければいいんだけど……」
二人の周りはこのように、みんなの祝福の声であふれている。
「なんだか心配の声しか聞こえてこないのですが、気のせいでしょうか」
「そう? 二人のこれからのことを期待しているんじゃないの」
結婚式も終盤に入り、手伝ってくれた女性陣だけでルーミンを囲んでの食事中だ。幸せ一杯のルーミンを祝福しようと多くの人が集まってくれている。
「ねえ、ルーミン。そこ、そうそこのお饅頭取って」
「あ、私は唐揚げが欲しいわ。ついでにお願いね」
ルーミンは花嫁衣裳を身にまとったまま、一緒に織物部屋で働く奥様方に料理を取ってあげている。
「あのー、私ってほんとに祝福されています?」
「もちろん! 誰の目から見ても間違いないよ」
違う村出身のルーミンが、これだけ村の人から慕われている。他の村との交流があまりないこの世界では、それだけでもすごいことだと思う。
それにしても、料理を取らせるのはあんまりだと思うけどね。
「その花嫁衣装もすごいね。コペルと一緒に作ったんでしょう」
夕食が終わった後、私とリュザールがユーリルと一緒に勉強をしているときも、二人で遅くまで作っていた。
「何とか間に合ってほっとしました。これが終わったので、私も皆さんの勉強に加えてくださいね」
「新婚さんなのに?」
「あ、どうしましょう。受験に間に合わなくなっちゃいます」
「うーん、それじゃ、食事の後少しの時間だけおいでよ。リムンと一緒ならジャバトも許してくれるだろうから」
私とリュザールは、秋からユーリルの家で一緒に勉強をしている。夜に大体1~2時間くらい。その中に一学年下のリムンとルーミンが増えても問題ない。むしろ復習になっていいと思う。
「ありがとうございます。これで何とかなりそうです。場所はユーリルさんのお宅ですよね。あれ、勉強の時にパルフィさんはどうしているんですか?」
「勉強するときはパルフィもラザルとラミルと一緒にいるよ」
「パルフィさんだけでなく、ラザルとラミルも?」
「うん、だいたいおとなしく二人遊びしている」
ラザルとラミルがおとなしくしているから、パルフィも私たちがお互いに出す問題を聞いていたりする。
そして、最近ではぼんやりとしかわからなかった日本語が、大体わかるようになってきているようなのだ。その証拠に問題文について質問してきたりするから驚いてしまう。さすが穂乃花さんと同じ人格だと感心してしまった。
「そうなんですか、日本語がわかってきているのなら、繋がりかけているんじゃないでしょうかね」
「そうかもしれないけど、パルフィはもう夢は見ねえぞ、って言っているからあんまり心配はいらないのかも」
「おう、ルーミン。おめでとな、きれいだぜ」
「はい! ありがとうございます」
おっと、噂のパルフィがやってきた。あれ、なんか考え込んでいる?
「……こういう時なんて言ったんだっけな、ユーリルが言ってた気がするんだけどな。…………そうだ! 馬子にも衣裳だ! どうだ合っているか」
「あぅー、パルフィさんひどすぎますぅー」
「あれ、違ったか」
「そう言う言葉はあるけど、普段は粗末な身なりの者が着る物によって違って見えることを言うから、あまりこんなところじゃ使わないかな」
「そうか、その意味で使ったんだけどな」
「うぅ、パルフィさんのいけずです」
「まあ、よく似合っているってこった。幸せにな!」
そう言うとパルフィはみんなの中に入って行った。
「私もそろそろ行くね。おめでとう!」
ジャバトとルーミンの結婚式はみんなに祝福されながら、その幕を閉じた。
結婚式が終わった翌日、お彼岸で祝日の僕たちは男三人で集まっている。
「このメンツ。今から何を聞かれるか想像できますが、これってセクハラになりませんかね」
「お前、俺の時には遠慮なく聞いていただろうが!」
「確かにそうですが、男と女の子を一緒にしてもらっては困りますね」
「そういわずにさ、お前たちのこと心配なんだよ。うまくいったかだけでいいからさ、頼むよ」
「まあ、仕方がありませんね。ご心配かけたのは本当のことですし」
「なに、話してくれんの!」
「……しかし、なんですかね。話すと言った途端、このギラつく竹下先輩の目は」
「わかる! ここぞというときは肉食動物が獲物を狙う目になるよね」
こんな話をするときの竹下の目は、目の色からしていつもと全く違う。というか、わかりすぎ。
「肉食動物ってこんな目なんですか?」
「うん、うちで飼ってたカァルが獲物を見つけたときにはこんな感じだったよ」
「飼っていた? カァルってペットか何かなんですか?」
「ペットではないけど、昔一緒に暮らしていたオスのユキヒョウ」
「ユキヒョウ! なんですかそれ、初めて聞きましたよ。激レアな動物じゃないですか。詳しくお聞きしてもいいですか」
「詳しく話すと長くなっちゃうから省くけど、
「ユキヒョウって、山のふもとのビントの村でもほとんど見たことありませんよ。よく見つけましたね。それで大きくなって、山に返したんですね」
「返したというか、薬草取りに一緒に行ったときにほかのユキヒョウがいて、その子と一緒に行っちゃった」
「へえ、きっと彼女さんを見つけたんですね。……なんか竹下先輩が急に静かになったんですけど、どうしたんですか? 目の色も戻っちゃったし」
「こいつユキヒョウ大好きなんだって、前に半年早くカインに来たら会えたのにって言ったら、泣き出しちゃって困ったよ」
「それで今も泣きそうな顔をしているのですね。気を落とさないでください竹下先輩、いつかきっと会えますよ」
「チクショウ! 俺はユキヒョウとは縁がないんだ。東京に行ったら毎週のように動物園に行ってやる!」
「毎週動物園行っていたら、穂乃花さんから呆れられちゃいますよ。いいでしょう、かわいそうな竹下先輩のために昨日ことを話してあげますよ」
「ほんと!」
「とはいえ、詳細は省きますけどね。……んと、まず最初にジャバトを見たとき、えっ! と思いましたね」
ん、何がだろう。
「こんなに違うんだって……」
え、も、もしかして……
「お前、もしかして自分のと比べちゃったの。ダメだってそんなことしちゃ。どちらも男の俺が思うにたぶん人種の差だからさ、気にしちゃ負けだって」
人種……
「そうはいっても、男として気にしない方がおかしいでしょう。……どうしたんですか樹先輩。急に
「え、いや、別に……」
「あのな、樹。風花はそんなこと気にしないはずだから、あまり考えるな」
「あー、なるほど、風花先輩は
「そりゃ、お風呂は男もまとめて入っているから見ることはあるけど、普通の時だからな。まあ、…………気にするな樹、俺たちは普通だ」
「うぅー」
「せ、先輩、元気を出してください。まだ負けと決まったわけでは……、そうだ、昨日の僕の話を聞いてください。昨夜は…………」
ルーミンとジャバトがうまくいったのはよかったけど、やっぱり気になる。でも、聞くに聞けないよー。
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あとがきです。
「竹下です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「結婚おめでとう!」
「ありがとうございますって、おめでたいのはルーミンの方なんですけどね」
「お前は嬉しくないの?」
「嬉しくないわけではないんですけど、自分の方が進んでないのでいまいち喜べないんですよ」
「ふーん、結婚したから変わるかもよ、唯とジャバトが同じ人格ならね。どう思う? 俺は同じな気がしてるんだけどな」
「今のところ分かりませんが、仮に同じ人格だとしても繋げてもらいたくはないですね」
「なんで?」
「だって、今日の樹先輩じゃないですけど、比べられたら立ち直れませんよ」
「ああ、確かにお前たち全然違うもんな」
「! 全然ということは無いでしょう! ほんのちょっとの差です!」
「あれ、さっき、こんなに違うんだって言ってなかったっけ」
「あれは、ジャバトのああいうのを見てびっくりしただけで、実際はたいして変わりませんよ」
「そうか? あれがああなるのはわかるとして、あれはああはならんだろう」
「見てきたように何を言うんですか!」
「確かにああは見てないけどあれは見てるからな」
「くそー! 温泉合宿の時に騙されなければこんなことには……」
「まあ、そんなもんだと思っとかないと、気にしてもしょうがないぜ。さて、次回更新のご案内です」
「こんなに気持ちでお知らせしなければいけないとは……。次回はユーリルさんたちがお風呂を設置にルーミンの実家に行くんですか……」
「まあ、海渡。人のことは気にせずに、な。それでは次回もお楽しみー」
「ちくしょう!」
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