第112話 反省会

 なるほど、大豆の原産地は東アジアなんだ。

 竹下の話によると地球の大豆のご先祖様は、中国や日本に昔からあるツルマメというものらしく、それを品種改良したものが大豆になったらしい。大豆そのものが無くてもツルマメが手に入ったら同じようなものができると言っていた。

 そして、タルブクの北の町なら地球の中国辺りとも交易しているはずだから、そこで尋ねてみるつもりなんだって。陸続きなら何か情報があるかもしれないからね。


 大豆か。もし大豆が手に入ったら助かるな。まずは豆乳を作って血圧が高そうな人に飲ませたい。塩が普及してきたから、そろそろ危ない人も出てきている。それに米のわらにくるんで発酵させたら納豆になるらしい。血液サラサラに効果が期待できるって聞いたことがある。まあ、テラの人で食べることができる人がいるかどうかは別として……。

 ただ、日本人の味覚には欠かすことのできない味噌や醤油は、麴菌が必要なので難しいって海渡が以前言っていたはずだ。


「ねえ、海渡。やっぱり味噌や醤油は難しいんだよね」


「それについてですが、テラで探すのはやはり難しいみたいなんですよね。そこで自分で研究しようかと思っています」


「研究? どこでやるの?」


「進学先を農学部にしようかと、そこなら菌の研究もできるし、この店を継いだ後も得られた知識を使えますからね」


 そう言って海渡は自分の将来のことを話してくれた。


「これで海渡も俺たちと同じように東大を目指せるな」


 確か東大には農学部があったはずだ。それもあって決めたのかもしれない。


「こんなに早く決めちゃってよかったの。二年生までまだ時間あるからもっとじっくり考えてもいいと思うんだけど」


「僕の成績だと、今のうちから勉強しないと間に合わないので……」


 なるほどね、それは言えているかもしれない。


「凪ちゃんは?」


「私はもう少し待ってください。何が必要か決められなくて」


 双子だから凪ちゃんの方も決めているのかと思ったら、そうではなかったみたい。


「姉ちゃんの成績なら僕と違って、どこでも行けるからなー。羨ましい」


「そんなことないわよ。目標があるのと無いのとでは大違いなんだから!」


 それは言えている。モチベーションの維持ってなかなか大変なんだよね。僕たちもやりたいことが出来たから頑張れている。


「凪ちゃん。慌てなくてもボクのように行きたい道は見つかるよ心配しないで」


 風花も最初は何をやればいいのかわからないようだった。それが、改めて隊商を任されるようになって、身の回りのことだけでなく、他の地方で起きた出来事なんかを知る必要が出てきた。コルカの北で起こった干ばつのようにね。だから、より深く経済のことを知るために進学先を決めたのだ。


「そうそう、分からないことは俺たちに聞いたらいいからさ。それじゃ、そろそろ収穫祭の反省会を始めようか」


 おっと、そうだった。今日は収穫祭の反省会で集まったんだった。




「他にありますかー」


 テラで話せない内容を中心に気付いたことを話しているけど、結構出てくるな。来年に生かせそうなことばかりだ。


「はい! あちらで聞いてもいいのですが、気になっちゃって、それで、お見合いの方はどうなったんですか?」


 ルーミンの愛弟子の子もいたし、すぐ下の弟もいた、海渡は特に気になるのだろう。


「あー、それはね。気に入った人がいたら、それぞれの村長むらおささんに伝えるように言っている。そのあとタリュフ父さんたちが話し合って調整するみたいだよ」


 昨日の夜、タリュフ父さんとバズランさんとトールさんの村長3人は遅くまで話し合っていたみたい。同じ子に複数の子からの希望が出たり、調べてみたら血が近くてダメだったりとなかなか大変そうだった。とりあえず問題ない子たちをパートナーとすることに決めて、後は引き続き調整していくそうだ。


「そうそう、ルーミンの愛弟子の子がいたよね。あの子とコルトはそれぞれが希望していたし、他に競合する子もいなかったようだから決まりそうって言っていたよ」


「ふあぁ、ほんとですか。よかったぁー。あの子だけは手に負えなかったから気にしていたんですよ。これで一安心です」


 なんかそう言われると、コルトの方が一安心じゃないような気がするんだけど……。カインの奥様方によると、女の子は結婚したら変わるというし、後は本人たちに任せよう。


「それで、うちの弟はどうなりました?」


「うん、弟君の方はコルトの妹を希望していたけど、その妹ちゃんの方は誰も希望しなかったんだよね。だから今回は決まらないみたいだけど、コルトによるとまったくダメというわけでもないようだから、少し待っていてもらえるかな。タリュフ父さんと相談してみるから」


「あの子がしっかりしていないのは、やっぱりルーミンが賑やかすぎるのがいけなかったのかな」


「そういう兄ちゃんだって、いつもうるさく言いすぎたんじゃないの!」


「俺はちゃんとした方がいいと思って!」


「私だって、みんなに楽しんで欲しくて……」


「あはは、二人とも心配なのはわかるけど、リムンとルーミンになっているよ」


「あ」「ごめんなさい」


「俺も何とかできないか考えてみるからさ、時間を頂戴」


「「竹下先輩、よろしくお願いします」」


「えっと、あと他には、ない? それじゃ、今日は解散でいいのかな? もうおなかいっぱいで眠くて」


 司会役の竹下が終了を告げようとするけど、せっかくだからあの事を教えておこう。


「あ、ちょっといい」


「はい、樹! 目が覚める話をお願い」


「えっと、たぶん目が覚めるかな。収穫祭に関係はありませんが、ご報告します! ジャバトがルーミンのことを呼び捨てにできるようになっていましたー」


「あっ、樹先輩!」


「まじか!」「ジャバトの奴やるね!」「うらやましい……」


「「「え?」」」


 凪の思いも寄らない言葉に一同驚いてしまった。


「あ、ごめんなさい。つい……」


 凪が羨ましがるということは、今の段階では碧君というよりサーシャとのことだと思うけど……


「ねえねえ、リムンはサーシャとはどうなっているの?」


「鍛冶工房で指導するくらいで……」


「サーシャのことはどう思っているの?」


「仲良くなりたいと……」


 これは参った、もう何か月も一緒に働いているのに……凪もリムンもまじめだとは思っていたけど、かなり奥手のようだ。リムンたちのことは来年からゆっくりとって考えていたけど、これは早めに周りが動いてやらないと、いつまでたっても何も変わらないかもしれない。



 あれ、そういえば凪って、僕のことを幼稚園生ですかとか不能だとかいってなかったっけ。


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あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「最後に驚きの事実が判明しました」

「一発で目が覚めたわ」

「ねえ、どうする? あの二人をこのまま見守っていたら、何の進展もなく終わりそうだよ」

「樹と違ってもう少しやれると思っていたんだけど、樹以上だった。誤算だ」

「……。えっと、で、どうしよう」

「樹以上だった。誤算だった!」

「それはいいから、なんか考えてよ!」

「はいはい。このままあいつらに任せてもだめだからからめ手でいくしかない」

「うん、それでどうする?」

「ごにょごにょ……」

「え、そんなのでうまくいくの?」

「これでダメなら、もうお手上げ。他の人を探してーって言って放り投げるしかない」

「うう、二人には幸せになってほしい。さて、次回更新のお知らせです」

「時は少し進んでクリスマスのお話のようです」

「「それでは皆さん次回もお楽しみに―」」

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