第113話 クリスマスイブだけど機織り機
今日のクリスマスイブのパーティは、去年と同じように風花の家で行うことになった。
残念なことに穂乃花さんは不参加だ。まだ大学の勉強をしないといけないらしく、こちらに戻れるのは年末のぎりぎり、大晦日になるらしい。
せっかくのイブなのでそれぞれで過ごしてもよかったんだけど、一人で過ごすのが確定の竹下があまりにもかわいそうなので、みんなでパーティをして励まそうとなったのだ。
……実はこれは建前なんだ。ちょっとした計画があって、今日はいつもと違うメンバーを加えての開催を予定している。
僕と竹下は、海渡たちの家がある商店街の入り口に向かっている。
「あ、いたいた。早かったね。待った?」
「いえ、私たちも今来たところです」
今日のクリスマスパーティーには、この気になる二人の後輩も招待している。
「唯は海渡の家に行ったことはあるんだよね」
「はい、一度お邪魔して、帰りに先輩のお母さんからお惣菜を頂きました」
おお、唯ちゃんのことを海渡のお母さんも気に入っているみたいだ。
「碧は行ったことないの?」
「僕は初めてです。この商店街にもほとんど来たことが無いから、今日を楽しみにしていました」
碧は今年になってようやく出歩けるようになってきたらしいから、あちこちに連れて行ってあげたい。でも、その役は凪に任せようと思っている。というのも、テラではリムンとサーシャの仲がなかなか進まない。お互い意識しているのは分かるんだけど、じれったいというかなんというか進展が無いように思える。
それで、何とかしたいと竹下と話していたんだけど、やはり、凪と碧の距離を縮める必要があるんじゃないかってなっているのだ。
確かに、一度碧とサーシャの繋がりは切れているかもしれないけど、もしかしたらまだ続いていて、その影響がある可能性も否定できない。つまり、今日のパーティで二人の仲をいい感じに持っていくことができないと、リムンとサーシャは結ばれない……かも。
まあ、そこまではないにしろ、せめてお互いを意識させるくらいのところまでは持って行きたいと思っている。
クリスマスの音楽が流れる商店街のアーケードの中は華やかで、碧はいろいろなお店の飾りつけやショーウィンドウを興味深そうに眺めていた。
「先輩! テレビの中だけかと思ったら、本当にあるんですね!」
特に、アーケードの中央に飾ってある大きなモミの木のイルミネーションに、碧は興奮気味だ。
「大きいでしょう。これを目当てに来る人も多いからね」
僕たちはアーケードのさらに奥にある、海渡たちの家へと向かう。
「あ、先輩たちいらっしゃい」
お店の中の一角には風呂敷の包みがたくさん並んでいた。
「これを持って行くの?」
「そうです。皆さん手分けして持ってくださいね」
風呂敷の中身はお重に入った料理だというけど、それにしてもこれは、
「全部料理だよね。すごく多いけど、どうしたの?」
確かに去年より唯と碧が増えているけど、穂乃花さんが減っているから一人分しか増えてないと思う。
「ええ、今年は水樹さんと話し合いましたからね。被らないように調整しました」
なるほど、去年は風花の家でも料理を作っていたから、同じ料理もあったりした。味が違ってそれはそれでよかったんだけどね。
「なるほど、それじゃ行こうか」
6人で手分けして料理を運ぶ。風呂敷には持ちやすいように取っ手が作られている。
「これ、うまく作ったね。持ちやすいよ」
「そうでしょう。風呂敷の結び方はお母さんが町内会で習って来て、教えてくれたんですよ」
これ便利かも……
「樹先輩。風呂敷のこと考えているでしょ」
「よくわかったね。使い道あるかなと思って」
「今すぐには思い浮かびませんけど、あったらなんにでも使えるんじゃないですか」
それもそうか、とりあえず作ってみるかな。
「織り方わかる?」
「これは普段使いのものですからね。素材も綿で大丈夫です。紡いで糸にするときに太めにして、編んでいったら厚手で丈夫にできるんじゃないですか」
「先輩たち編み物とかされるんですか?」
おっと、唯ちゃんに聞かれていた。
「竹下の家って呉服屋さんなんだけど、そこに機織り機があるんだ。それでこの風呂敷が織れないか話していたんだよ」
「何? 機織り機がどうしたの?」
前を歩いていた竹下が話を聞いてあと戻ってきた。
「風呂敷が織れないかと思って」
「樹なら織れるんじゃないの。機織り機使ってくれるのなら、母さん喜ぶから頼むね」
竹下のお店にある機織り機は、誰も使う人がいないから普段は展示しているだけになっている。でも、使ってあげないと動かなくなることがあるから、僕がたまに行って使っているのだ。そして、不具合が出た時はそれを竹下が修理しているので、竹下のお母さんは、僕と竹下がいつの間にこんなに器用になったのか不思議に思っているらしい。
「え、樹先輩。機織り機が使えるんですか? すごい! 私、織るところを見てみたいです」
「僕だけじゃなくて海渡も使えるよ」
「げ!」
海渡、なんてこと言うんだって顔しない! ほら、唯ちゃんキラキラした目で海渡を見つめているよ。いいところ見せてあげなよ。
「じゃあ、今度みんなで竹下のお店にお邪魔しようか。いいよね、竹下」
「歓迎するよ。うちのお客さんも従業員も若い子来たら喜ぶからさ」
年が明けて竹下のお店が忙しくないときに、みんなでお邪魔することになった。
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あとがきです。
「樹です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「クリスマスって音楽聞くだけでワクワクするね」
「それはそう思いますが、樹先輩、第104話のあとがきの時に僕を呼びつけた埋め合わせをすると言ったのは覚えていますか?」
「そ、そんなこと言ったかな……」
「忘れたとは言わせませんよ。樹先輩とここで一緒になるのを楽しみにしていて、今日ようやくですから」
「ちぇ、うやむやにするつもりだったのに……。それで、僕は何をやったらいいの?」
「ふふふ、それでは読者さんお望みの女の子のお風呂回をお願いします!」
「女の子のお風呂はやったよ。覚えてないの?」
「覚えてますけど、あれは妊娠中のパルフィさんの時のことでしょう。あの時の読者さんは、パルフィさんが滑って転ばないかひやひやしながら読んでいたはずですから、思っていた物とは違うと思います」
「確かに、あの時はパルフィを安全にお風呂に入れることだけを考えていたからね」
「でしょう。なので改めて要求します。女の子のお風呂回!」
「わかった。作者の人に伝えておきます。期待はしないでね」
「言質取りましたからね!」
「だから期待しないでって。それでは次回更新のご案内です」
「次回の内容はお風呂回ですか?」
「お風呂回ではありません。クリスマスパーティーの話です。それでは皆さんお楽しみに―」
「それでお風呂回はいつですかー」
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