第111話 反省会の前に新作の試食会

 収穫祭の翌日、僕たちは反省会を行うために海渡と凪の家へと集まった。


「先輩たち狭いところでごめんなさい」


「凪ちゃんそんなことないよ、気にしないで」


 凪と話している風花の声は少し高めだ。ちょっとリュザールが入ってきているのかな。機嫌を直してくれたのならいいんだけど。さっきまで、収穫祭の出店で商品が売れ残って落ち込んでいたから、慰めるためにデートしていたんだよね。


「ねえ、海渡。言われた通り、お昼は軽めに食べてきたけどどうして?」


 昨日収穫祭が終わった後、ここで反省会をすることが決まった時に海渡がそう言ったのだ。だからお昼も風花と二人、簡単なもので済ませてきた。たぶん何かの新作料理の味見を頼まれると思ったんだけど、何の料理かは教えてもらえなかった。


「ふふー、皆さんちゃんと言いつけを守ってくれたようですね。わかりました。早速用意しましょう」


 そう言って海渡は一階の厨房まで下りて行った。やっぱり料理みたいだけど、なんだろう。海渡の料理は大体美味しいからいいんだけど、たまに前衛的なものもあるからな……




 しばらくして海渡が両手で抱えてきたものは、どこかで見たことがあるお盆というかトロ箱みたいなものだった。よく年末に見かけるような気がするけど、どこだったかな……。そうだ、お餅屋さんだ!

 それならあれはたぶん餅箱だ。つきたてのお餅を入れて形を整えたりするのに使っているのを見たことがある。ということはお餅かな……


「お待たせしました」


 海渡はちゃぶ台の上にそれを置き、上にかけてある大きな白い布を外す。


 そこには、なんとたくさんのおはぎが並んでいた。


「すごい。これ全部海渡が作ったの?」


 たぶん20個くらいあるんじゃないだろうか。それも粒あんにこしあん、そしてきな粉をまぶしたものまであった。


「もちろんですよ。これからユーリルさんが砂糖を普及させるでしょう。その時に美味しいものがないと広まりませんからね。あちらにある食材でインパクトのあるものと言ったらこれが一番でしょう!」


 なるほど、テラで砂糖が普及したときのための練習なんだ。でも、おはぎに使うあんこって……


「ねえ、あんこって小豆あずき使うよね。テラにあったっけ?」


 テラで見かける豆はソラマメとかエンドウ豆くらいで、そのほかは見たことない気がするんだよね。お米も最近になってだから、お赤飯も見た覚えがない。


「あ、それはね樹。今度ボクが仕入れてくるから安心して」


 風花によると、小豆の原種の豆はヒマラヤ地方にあって、そこの近くのケルシーの行商人が存在を知っていたらしい。そこで工房のタオルとの交換を条件に、今度コルカで取引する予定だそうだ。量も集められるだけ集めてくれと頼んでいるから、畑一枚分(約300坪)くらいは集まるんじゃないかと言っていた。

 原種ということなので、味や形はこちらで食べるのと違うかもしれないけど、拘らなければこのままでもいいし、時間をかけて品種改良してもいいと思う。


「ささ、皆さんどうぞ。たくさんあるので遠慮しないでくださいね」


 海渡の作ったこのおはぎ、結構大きめなんだよな。普通の人なら2~3個食べたらもう十分だろう。


「あ、一階にこれがもうひとつありますから、本当に遠慮しないでください。余っても困りますから」


 うは! 餅箱がもう一つあるのか! 合計40個なら一人当たり8個!

 いくら万年腹ペコ高校生でもやりすぎだろう。



 凪ちゃんに追加のお茶を注いでもらい、取り皿とお箸を貰っておはぎを頂く。


 まずは粒あんを……。豆の炊き方もちょうどいい、小豆の皮が口の中に残る感じも悪くない。それに甘すぎないから何個も食べられそう。とはいえ8個はきついけど。


 それよりも気になるのは……


「これって普通のもち米じゃないよね」


 僕の言葉を聞いて、他のみんなも手元のおはぎを見つめている。


「さすが樹先輩、よく気づきましたね。これはインディカ米のもち米で作りました」



 なるほど、もち米もあちらのに合わせてみたんだ。

 テラではプロフの普及に伴ってコメの生産が広がっている。最近ではプロフ以外にもお米を使った料理が増えてきて、中にはもち米のような粘り気の強い米を使ったものもある。

 独自性を出そうと、その粘り気の強いお米を専門に栽培しているところもあるから、調達も容易だ。


「美味しいよ。よくできている」


 でも、この餅箱の中にはあちらで手に入らないものがあるけど、海渡たちは気付いているのかな。


「この中にきな粉があるけど、これはどうするの? 原料の大豆は無いよね?」


 そうそう、小豆だけでなく大豆も見たことが無いんだよな。原産地が近くにあるのかな。アメリカ大陸とかなら難しいんじゃないかな。


「それはね樹。今度タルブクの北に行くでしょう。その時に探そうって思っているんだ」


 これまで一心不乱におはぎを食べていた竹下が話してくれた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「樹です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「おはぎ美味しかったよ」

「そうでしょう。自信作ですからね」

「でも、作りすぎ。いくら甘さ控えめでもあれだけ食べたら病気になりそう」

「大丈夫ですよ。小豆に含まれるポリフェノールには血糖値の上昇を抑える効果があるみたいですよ」

「それ本当?」

「さあ?」

「さあって……」

「食べすぎたと思ったら走ったらいいんですよ。先輩、今から走りましょ!」

「今はダメ、お腹パンパンで走れない」

「仕方がないですね。それなら竹下先輩を誘って……寝てますね」

「ホントだ、本文ではこれから何か話してくれるはずなんだけど大丈夫かな」

「いざとなったら僕がくすぐりの計で起こしてあげますよ」

「海渡の手ってふわふわだから効くんだよなー。さて、次回予告の時間です」

「次回は収穫祭の反省会なんですが、凪姉ちゃんがなんかやらかしてます。姉ちゃんらしいと言えばそうなのですが。僕も呆れちゃいました……」

「「皆さん次回もおたのしみに―」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る