第108話 収穫祭1

「はーい、料理はここです! おつぎしますのでお皿を持ってならんでくださーい!」


「新しい料理はいかがですかー。体が温まりますよー!」


「ハチミツあるぞ。欲しいものはいないか!」


 料理を食べ始める者、出店でみせの商品を品定めする者、お茶を飲みながら話をする者と、村人は思い思いに収穫祭を楽しんでいるように見える。





「『我こそは!』と思う力自慢の人は集まってください! どなたでも構いませんよー。そして最後に勝ち残った人には景品があります!」


 しばらくすると腕相撲大会の参加者募集の掛け声が聞こえてきた。ユーリルたち工房の仲間が頑張っていたからね、たくさん集まってくれたらいいけど。


「ねえ、ソル。その景品って何をもらえるの?」


 腕相撲大会が行われる広場の中央に向かう人の様子を見ていると、近くにいた村の若い奥様に尋ねられた。


「うーん、これはユーリルたちに任せているから、詳しくはわからないんだけど、たぶん新しい糸車じゃないかな。慌てて作っていたし」


「えっ! それって、足で踏んで回すものだよね」


「うん、そうだと思う」


「大変。旦那に絶対勝つように言わなくちゃ」


 近くにいた何人かの奥様方が、慌てて旦那さんを探しに行ってしまった……どこのお父さんも大変だ。まあ、参加者が増えると盛り上がるからね、みんなには頑張ってもらいたい。





 さてと、あとは……。うわ! あそこが大変そうだ行ってみよう。

 私は人だかりができているルーミンの屋台まで向かった。




「手伝おうか?」


「そ、ソルさんいいところに! 私の代わりに麺をでてください!」


 ルーミンの屋台では、茹でたうどん麵を煮込んだ野菜と一緒に、野菜だしで味付けしたルーミン特製のスープに入れて出していた。銅貨のやり取りやお椀を洗ったりはジャバトがやっていたが、麺を茹でたり、スープをついだりはルーミンが一人でしていたので、うまく回っていないようだ。


 私は鍛冶工房特注の寸胴の前に立ち、作り置きしている麺をどんどん茹でていく。茹で時間は時計がないのでもちろん勘だ!

 でも、私くらい熟練になるとお湯の中の麺の動きだけで状態がわかるので、上げ時を間違えることは当然あり得ない。


「ソルさん! 茹ですぎです!」


 ……ごめんなさい。次はもう少し早めに上げます。




 それにしても、次々に人が来るな。さっきからずっとうどんを茹で続けている。本当にうどんを見ただけで、茹で具合がわかるようになってきてしまったよ。


 そんなに美味しいのかな……。そういや味見してなかった。


「ねえ、ルーミン味見させてもらえる?」


 少しお客さんが切れたタイミングで聞いてみた。


「もちろんいいですよ。でも、地球のうどんに慣れていたら少し物足りないかもですね」


 そう言うとルーミンは、お椀に半分くらいのうどんを注いでくれた。


「思った以上に人が来て少し足りなそうなので、これで辛抱してください」


 確かに作り置きの麺もだいぶん減ってきた。スープももう少しでなくなるのだろう。


「食べていいの?」


「是非、そして感想をください。次にどうしたらいいのか参考にしたいので」


 そう言うことならば、じっくりと味わわないといけないな。

 とはいえ、ただ食べている暇はないので、うどんを茹でながらいただくことにする。


 まずはスープをすする。

 野菜特有の甘い風味が口に中に広がる。でもそれだけではないような……少し香ばしい感じがあるな。


「ねえ、肉と野菜炒めて入れてるの?」


「はい、そうです。さすがソルさん! 野菜の一部は肉と一緒に炒めています」


 なるほど、それで野菜に肉のうまみが移っているんだ。……それだけではないような気がする。他にも何か隠し味があるのかな? こちらには醬油や鰹節なんかが無いから薄味だけどそれを補うほど味に深みがある。はっきり言ってかなり美味しい!


「美味しいよルーミン。すごい!」


 おっと、お客さんも来たし、麺も茹で上がった。仕事に戻らねば。


 でもこれなら並んでまで食べるのも納得だ。みんなも作り方を習いたがるだろう。


「ねえ、ルーミン。これはみんなに教えるの?」


「うーん、これには山で採ったキノコを乾燥させてダシの足しに入れているんですが、よく似た毒キノコがあるんですよね。中途半端に教えると危ない気がして……」


 あー、ルーミンが言っていた秘密兵器の正体はキノコだったのか。ルーミンが時々山に行っていた理由もわかった。でも、それなら難しいな。

 こちらではキノコは毒だから食べたらダメだと教えられている。だから、食べられるか食べられないかの区別が付けられる人はほとんどいないと思う。私は地球のキノコの知識は持っているけど、それがここにあるキノコと一緒かというと自信がない。試そうにも少しの量で致死量になるものもあるから怖くて試したことがないのだ。


 それはルーミンも一緒だと思うけど……


「ルーミンはなんで食べられるキノコがわかったの?」


「あー、ビントにいるときに悪友たちといろいろやっていたので……」


 ルーミンたちは命を懸けて悪さしていたのか、さすがというかなんというか……


 その時広場のまんなかで歓声が沸き上がった。


「あ、そろそろ腕相撲大会が始まるみたいですよ」


 遠目に見てもたくさんの人が集まっているのがわかる。参加者もたくさんいるのだろう。


「組み分けはどうなっているのでしょうか?」


 大会を見ようと広場に人が流れてようやく余裕ができたのか、これまで銅貨のやり取りとお椀洗いでてんてこ舞していたジャバトが聞いてきた。


「一応アラルクとリムンは組を分けたみたいだけど、他の村からの若い子たちも来ているからどうなるかわからないよ」


 それに奥様方からの圧力がきつい旦那さんたちも本気で来るはずだ、どうなるかはわからない。


「ソルさん見に行かれますか? 落ち着いて来たのでいいですよ」


「二人の邪魔じゃなかったら手伝うよ。もう少しで無くなりそうだし」


「ソルさん!」




 うどんの屋台には人が少なくなってきたのを見て、やってくる人たちもいた。結局うどんが無くなるまで暇になることは無かったから、離れなくて正解だった。


「ルーミン、うどんこれで終わり」


「ありがとうございます。スープもいい感じでした。売り切れ御免です!」


 最後のお客さんにうどんを渡し、うどん屋台の営業は終了した。


「忙しかったねー。ところでルーミン、何杯分作っていいたの?」


「だいたい120~130杯の予定でしたけど、何杯だろう」


「123杯でした」


 ジャバトが銅貨を数えて売り上げを報告してくれた。真面目で計算も早いし、ジャバトってなかなか優秀だよね。


「すごいね、村の大人のほとんどが食べてくれたんじゃないの」


 いまカイン村の人口は150人くらいになっている。3年の間にかなり増えた。多くは工房の職人だけど、ベビーラッシュで子供も増えているから、それを考えても村人の多くが食べに来てくれたんだと思う。


「ソルさん、ありがとうございます。助かりました。後片付けは私たち二人でやっておきますので、祭りを見てきてください」


「それじゃ、後はお願いね」


 さっきはああ言ったけど、これ以上は二人の邪魔になるからね。空気を読まないとね。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ねえ、キノコの話ってどんなの?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。あれは私がまだうら若き乙女の頃……」

「ごめん、長くなりそうだね。またの機会にお願い、えっとその代わりに、腕相撲大会の話をしようか。ルーミンは誰が勝つと思う?」

「ちぇ、面白い話なのに……。まあいいでしょう、腕相撲大会はですね、下馬評ではリムンとアラルクさんの一騎打ちみたいになってますが、そうはいかないと思いますよ」

「そうなの」

「私の情報網によると、○○さんが有力ではないかと言われてます」

「え、○○さん? よく聞こえなかったよ?」

「それは次回のお話でご確認ください」

「あ、そうかネタバレになっちゃうんだ」

「ですです。それでは次回も収穫祭が続きます」

「「皆さんお楽しみに―」」

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