第109話 収穫祭2
ルーミンたちのうどんの屋台を後にした私は、中央の腕相撲大会の会場まで足を向けた。
「いくんだよーあんた! 負けんじゃないよ!」
「おっさんなんかにやられんじゃねーぞ!」
会場では予選だと思われる試合が続いているようで、絨毯の端に立ってその様子を遠巻きに眺めているリムンを見つけた。
「ねえ、リムンどうだった? 試合はこれから?」
「あ、ソルさん。すみません、負けちゃいました」
「え! 誰に?」
リムンを負かすような相手はそうそういないはずだけど……
「ラーレさんのお父さんに」
あ、そうかラーレのお父さんがいた。そういやラーレが、うちのお父さん、言うことを聞かない馬は腕力でねじ伏せているから、力は馬並みなんだよねって言っていたな。忘れていた。
「それは残念だったね。ラーレのお父さんなら仕方がないよ。それでアラルクはどうなの?」
「アラルクさんは順調の勝ち進んでいて、次は準決勝ですよ。あ、ほら始まります」
中央のテーブルでは、アラルクとビントから来たと言っていた体の大きな男の子が向かっている。
「どっちが勝つかな」
「あの子も力は強いんですけど、アラルクさんにはかなわないでしょうね」
そっか、リムンはビント出身だからあの子のことも知っているんだ。
「リムンは勝ち残っていたらアラルクに勝てそう?」
「たぶん無理でした。何試合か見ていましたけど、思った以上に強そうです」
対戦する二人はテーブルで向かい合い、礼をする。
「アラルク負けるなー。ルフィナが見ているぞ!」
お、ラーレの声だ。この声援はアラルクにはてきめんだろう。
テーブルの真ん中で手を組み、肘をついて、審判のユーリルの合図で試合開始だ。
「はじめ!」
……勝負は一瞬だった。アラルクが相手の腕を簡単に返してしまった。
「すごい!」
「ね。強いでしょ」
「じゃあさ、アラルクが優勝するかな」
「それがそうとも言えないんですよ。これからのもう一つの準決勝を見ていてください」
次に現れたのはアラルクと違う島の準決勝の対戦者で、一人はこの村の若者、そしてもう一人はそんなに若くはないラーレのお父さんだ。
「お父さん頑張ってー。ルフィナが応援しているよー!」
おー、こっちでもルフィナか。お姫様は大人気だな。
当のルフィナはというと、……隣に寝かされているラザルとラミルの方を見て手を伸ばしているな。お兄ちゃん遊んで―とでも思っているのかな。まあ、腕相撲に興味持つには早すぎるよね。
「ルフィナ! おじいちゃん頑張るからな!」
……そこにいるだけでいいんだろう。
双方への注目が集まる中、準決勝が始まる。
「はじめ!」
……うーん、一見すると二人とも全く動かないように見えるから会場がざわついているけど、若い子がどうしたらラーレのお父さんの腕を動かせるのか、必死になっているのがわかる。
「これはレベルが違うね」
「そうでしょう」
しばらくして、相手に合わせてやるのはもう飽きたのか、ラーレのお父さんが力を入れると簡単に若者の手の甲はテーブルについていた。
「ルフィナ! おじいちゃん勝ったぞー」
なるほど、リムンの言う意味が分かる。村の若い子もここまで勝ち上がってくるくらいだから、それなりに強いはずなんだけどまったく相手になってない。
これはアラルクとの対戦が楽しみだ。
「はい、それでは決勝に進む選手を休ませるために一旦休憩を取ります。決勝戦はしばらくしてから開催します。選手の方はこの近くで休んでいてください!」
私はリムンと別れ、ルフィナをあやしているラーレのところに向かったら、アラルクとラーレのお父さんも来ていた……
「お父さんが残って来るとは思っていませんでした」
「まだ、若いやつには負けんからな。というか全然若いから!」
ラーレのお父さんはまだ30代後半だからね、地球ではまだ若い部類でもいけるかも知れないけど、こちらでは残念ながらそうは見られない。
「あれ、お父さん。自分でさっき、おじいちゃんって言っていませんでした?」
「アラルク、あれはルフィナに対してで、気持ちも体もまだまだ若いから。ねえ、ルフィナちゃん」
「二人ともうるさい! ルフィナが眠そうにしているのだからあっち行って!」
あーあ、二人とも決勝に進むこの大会の主役なのに、出店の方にとぼとぼと歩いて行っちゃったよ。
「ねえラーレ、話を聞いていたけど、私もあっちに行っていた方がいい?」
せっかく近くまで来ていたから、ラーレに追い返されるのを覚悟で聞いてみた。
「あ、ソル、お疲れ様。大丈夫よ。ルフィナはさっき起きたばかりだからまだ眠らないと思うわ」
「あれ、さっき寝そうだって」
「ああ、あれはね、顔を合わせるとどっちがルフィナに好かれているかって、意味のないことで張り合って面倒くさいのよ」
はは、どこかで聞いたことのあるような話だ。
「それにしてもソル。ルーミンの料理、大人気だったみたいね」
「うん、大変だった。無くなるまで休む暇なかったよ。それで、ラーレは食べることはできたの?」
「工房の子が持ってきてくれて、パルフィと一緒に食べることができたわ」
「お、なんだ。ソルじゃねえか。うどんってやつの話か、あれはうまかったな。ラーレと離乳食にもいいんじゃねえかって話していたんだ」
準決勝の審判が終わった後、真っ先にこちらに駆け寄ってきたユーリルに、ラザルとラミルを預けたパルフィも話に参加してきた。
「そうそう、柔らかかったから、この子たちにちょうどいいと思ったんだけど、ソルの意見も聞こうって話していたの」
「最初のうちはお米のおかゆがいいと思うけど、しばらくしたらうどんでもいいよ」
「よかった、野菜もたくさん入っていたから栄養もありそうだし、柔らかく煮たらいいんじゃないかって話していたのよ」
「あ、ルーミンはだしに秘密兵器使っているって言っていたから、同じ味はだせないかも」
キノコ使っているっていうことは言わない方がいいだろう。間違ったものを使って食中毒になったら大変だ。
「そうなんだ、秘密兵器教えてくれるかな」
「ルーミンも教えたくないわけじゃないんだけど、教えられない事情が……ちょっと考えてみる」
ルーミンが使ったキノコも、地球のシイタケみたいに栽培できるものなら安全にできるんじゃないだろうか。
その後も三人で話しこんでいたら、ユーリルがラザルとラミルを預けに来た。
そろそろ決勝戦が始まるみたい。さあ、どっちが勝つのかな。
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あとがきです。
「ソルです」
「パルフィだぜ」
「「いつも見てくれてありがとな」」
「パルフィ、楽しんでる?」
「もちろんだぜ。ラザルとラミルもみんなが構ってくれるから嬉しかったようだぜ。まあ、はしゃぎすぎて寝ちまったけどな」
「腕相撲大会、リムン残念だったね」
「まあ、仕方がねえな。あいつはまだまだこれからだからな。来年は見とけ、これから仕込んでやっからよ。それにしてもラーレの父ちゃん強えな。あの若けえの見せ場なく終わっちまったぜ」
「うん、驚いた。それでね、聞きたかったんだけど、パルフィのお父さんがいたらどうなっていたかな」
「さあな、同じくれえの強さじゃねえか。いや待てよ、ルフィナの声援であの二人は勝ってたからな。こっちはラザルとラミルがいる、二人分だからこっちが勝つかも知れねえな」
「そ、そうだね。よくわからないけど強そうだね」
「よし、こうしちゃいられねえ。ラザルとラミルに『じいじ』って言わせるようにしねえと」
「あ、そこはユーリルのことを呼ばせないとすねちゃうよ……行っちゃった。えっと次回予告のお知らせです。次回で収穫祭のお話は終わります。皆さんお楽しみに―だぜ」
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