第107話 収穫祭開催
前日までの準備も滞りなく済み、無事晴天で迎えた収穫祭当日。
「いやー、ソルさん。あのお風呂というものは気持ちのいいものですね。これはトールさんが自慢したい気持ちは分かりますよ」
私は朝食の後、家で父さんと一緒にバズランさんとトールさんの挨拶を受けていた。
バズランさんとトールさんには、昨日の午前中に入り方がわからないと思うから、父さんに一緒に入ってもらって三人でお風呂を試してもらっていたのだ。
「そうでしょう、私も初めて入りましたが思った通りだった。春の完成が待ち遠しく感じます」
「トールさんごめんなさい。もっと早くに作れたらいいんですが、鍛冶工房はずっと忙しくて人手が足りないんです」
「わかっておりますとも、職人を私の村から出せたらいいのですが、作らせてもらっている荷馬車が順調で余裕がないのですよ」
「トールさんのところもそうですか、私のところも橋の建設もあるし、今度は水路を作ることになりましたから、余分な人手はありません。申し訳ないです」
バズランさんのところはちょうどいい川が無かったから、お風呂のために上流から水路を作ることにしたそうだ。水の一部は畑にも使うということなので、完成したら畑の面積も増えて、さらに人は足りなくなるだろう。
「いえ、人手が足りないのはどこも一緒ですから気にしないでください。ただ、その分遅れるのは許してくださいね」
二人の村長さんか頷いてくれたので、多少遅れても大丈夫だろう。
「それでソル。お祭りの準備の方はどうだね」
「うん、父さん。今のところ順調。お昼からの収穫祭は予定通り行けそうだよ。私は準備に向かうから、お昼になったら会場まで来てね」
私は家を出て、収穫祭の準備をしている寮の広場まで向かう。
広場では工房や村の人たちの他に、三つの村の若い子たちが協力して収穫祭の準備を行っていた。
中央には腕相撲大会用のテーブルがすでに用意してあって、今は、その周りに観戦と食事ができるように絨毯を敷き詰めている所のようだ。
そしてその周りには、昨日のうちに組み立てていた屋台が並べられており、出店を出す予定の村人たちが準備を行っている。その出店で売られる商品も、ハチミツだけでなく、
村の人たちは糸車や新しい農具のおかげで空いた時間を使って、いろいろな物を作っていたんだと思う。
「ねえ、あの靴なんてもう少し工夫したらかなりいいものができそうなんだけど、どうしたらいいかな?」
並べられている商品を見ながらユーリルに尋ねてみた。
これからの時期、この地方では足元を温かくしないと凍傷になることがある。だから、毛皮を付けるというアイデアは素晴らしいと思うけど、たぶんあのままでは少し使いづらい。
「うーん、無理強いしたくないからそれとなく話してみて、話を聞いてくれそうなら教えてみるよ」
最近では私たちが教えなくても、みんな自分自身で考えて暮らしやすいように工夫してくれるようになった気がする。だから、そんなときは無理矢理私たちが教えるのではなくて、手助けするようにしていったらみんなのやる気も上がるんじゃないかと思う。
開始予定のお昼まではもう少しだ。私も手伝って、最後の追い込みを頑張るぞ!
お昼少し前、村の人たちが続々に集まってきた。
早くも出店の商品を買っている人たちもいるが、多くは、臨時に作った工房の銅貨の交換所に並んでいるようだ。今回のお店は銅貨だけでしか買えないようにしたので、銅貨の持ち合わせがない人は祭りが始まる前に替えようと思っているのだろう。
これで売る人も買う人も、品物によって違っていた交換比率に悩むことも無くなるんじゃないかな。
「リュザール、そろそろ時間だけど準備は大丈夫?」
リュザールは、コルカからカインでは作られていない食器などの雑貨を仕入れてきてくれたので、それを出店で売ることになっている。それだけでなく、売ることに慣れない人たちの屋台を回り、品物の展示方法や値付けなどの手伝いを朝からコルトと一緒にやっているのだ。
「大丈夫だよ。うちのお店は隊商の仲間が手伝ってくれたし、他の出店の人たちの準備も整っているようだよ。それにしてもいろいろなものがあってびっくりした。他の町で売っていい物もありそうだよねコルトさん」
「ホントだよなリュザール。あの靴なんてカスムさんに言ったら間違いなく仕入れるはずだぜ」
そろそろベテランの域になるコルトもそう思うんだ。ユーリルがあの村人にうまく話してくれたら、新しい産業が生まれるかもしれない。
「ソル。そろそろ太陽真上に来るから、料理の確認をお願い」
ラーレに呼ばれ、料理を配る屋台まで向かう。
ほとんどの料理は無料で、食べたいものを屋台まで取りに行く方式にした。地球ではビュッフェに近いかな。これまでの結婚披露宴の時はみんなが座っている絨毯の上に料理を並べていたけど、今回は腕相撲大会やフォークダンス、それに出店まであるからみんなの移動が激しいはずだ。出来るだけ絨毯の上に料理がないほうが衛生的だろう。
そして、そのほかにもルーミンのうどんのように有料の料理も用意している。村人が作った唐揚げなんかの屋台もあるから、何を食べるか考えるだけでも楽しいと思う。
「みんな準備はいい。父さんたちの挨拶が済んだら始まるからお願いね」
料理担当の子たちにお願いして、広場の中心まで向かう。
中心にはちょうど父さんとバズランさん、トールさんがやって来ていて、みんなの注目を集めていた。
「ソル、準備はいいかい」
「うん、大丈夫!」
父さんは大きく息を吸い、集まってきたみんなに向かって話しかける。
「今年はたくさんの実りに恵まれたいい年だった。収穫への感謝と、来年の収穫も実り多きものになることを祈願して、この祭りを開こうと思う。それにバーシとビントからも若い子たちが集まって来てくれた。楽しい祭りにしようじゃないか。さあ、長い話はなしだ、早速楽しんでくだされ!」
初めての収穫祭が始まった。
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あとがきです。
「ソルです」
「リュザールです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「たくさんのお店が出てたね」
「うん、樹から前もって聞いていたけど、思った以上にあってびっくりした」
「私も話でしか聞いてないから、どんなものが出てくるか今までわからなかったんだよね」
「う、なんだかボクのお店の商品が見劣りする気がしてきた……」
「そ、そんなことないよ。食器は必需品だからみんな買うよ」
「あの毛皮の付いた靴やハチミツにみんな並んで、きっとボクのところには閑古鳥が鳴くんだ」
「あ、ハチミツ! そうだリュザール、お店暇ならハチミツ買っといてもらえないかな。私、買いに行く暇がなさそうで」
「ぐっ、ソルまで……」
「あ、ごめん。リュザールのお店もちゃんと宣伝しておくから。でもハチミツは忘れないでね。では、次回予告の時間です」
「なんだかこれまでと扱いが違うような……。次回は収穫祭のお話になります」
「「皆さんお楽しみに―」」
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