第106話 収穫祭の準備と結納

 収穫祭を二日後に控えた夕方、村のみんなで祭りの準備をしているとバズランさんとトールさんに率いられた20名の若者がカインに到着した。バズランさんの言う通り、ビントの子たちも参加することになったようだ。これで、カインから参加する若者を入れて総勢26名。男女比率も半々になったのでお見合いにはちょうどいいだろう。




 そして、バーシからやってきた一人の若者? にカインの者は驚いた。


「なんでコルトがいんのよ?」


 ラーレが言う通り、そこにはもう若者と呼ぶのもはばかられる20才になるコルトがいたのだ。


 コルトはバーシのカスムさんのところで隊商の仕事をしていたはずだ……。あれ、そういえば結婚したという話は聞いてないような。


「まだ、独り身だからに決まっているだろ!」


「それにしてもなんで?」


「これからっていうときにバーシに移り住んで、そしたら仕事が忙しくて相手見つける暇なくて、親父にも忘れ去られていて……」


 うわぁ、コルトのお父さんは放任主義で有名だからな。きっと、バーシ村で自分で見つけるだろうと思って探さなかったんだと思う。でもこれはちゃんと話し合っていないコルトが悪いから仕方がない。


「ちゃんと見つけてないあんたが悪いんじゃない」


 そうそう。


「だからこうやって見つけようとして来ているんだろ。お前たちも協力してくれよ」


「協力してあげたいけど、コルトはカインの出身なんだから、バーシかビントの女の子から見つけないといけないよ。私たちも初めて会う子たちばかりだから期待しないでね」


「あっ……な、なあ、頼むよ。隊商のみんなからもバカにされるし、もう後がないからさ」


 コルトのことは小さいころから知っているし、コルカでは世話になったからなー。しょうがないな、どこまでやれるかわからないけど、できるだけのことはしてあげよう。





 到着したみんなには宿泊先として用意してある場所に案内し、荷解きをしてもらう。その場所として工房の寮の一部を提供した。入れなかった子たちは、コルトを除いて母さんの実家の隊商宿に泊まってもらう予定だ。


「え、俺、実家なの?」


「当たり前でしょ。お母さんに顔見せてあげなよ。そして収穫祭終わるまでバシバシこき使うからしっかり働いてよね」


「働くのは構わないけど、……家に帰るのか。うえー、お袋からなんて言われるだろう」


 そう言ってコルトはしぶしぶ自宅へ荷物を持って行った。


 そのコルトに関しては、事情を聞いたルーミンが『ビントからの女の子に私の愛弟子の子がいましたからね。その子を紹介してあげますよ』と言っていたから何とかなるだろう。

 ただ、そのルーミンの紹介する子って、例の悪友の子とやらかした悪行の数々とは関係ないよね……。まあ、私が気にすることでもないか。



 参加者の子たちには荷物を置いた後、もう一度集まるように話した。夕食までの間、明後日の収穫祭の準備を手伝ってもらいながら、交代でお風呂に入ってもらおうと思っているのだ。


 今日の夕食からこの子たちはともに行動することが多くなるので、少しでもきれいになった方がいいに決まっている。もちろんカインの子たちも夕食には参加させるけど、あの子たちは常日頃からお風呂に入っていて、清潔なはずだ。




 夕食は参加する三つの村の若者全員を寮の食堂に集めた。人数的には満杯だけど、この方がちょうどいいだろう。

 そして席も同じ村の者同士ではなく、違う村同士の男女が隣り合うように配置した。この子たちは結婚相手を探すためにここに来ている。みんな積極的に交流するはずだ。そして、その中で自分にあった人を見つけてくれたらいいと思う。




「ねえ、ソルさん。コルトさんとあの子、なかなかいい雰囲気ですよ」


 コルトは、ルーミンの紹介してくれたビントの女の子の隣に座るように手配した。


「なかなか可愛くて気さくな感じの子じゃない」


 コルトと一緒に食事をしながらにこやかに微笑んでいる。


「ええ、いい感じに猫被ってくれています。ビントでは貰い手がいないはずですから、このままコルトさんに引き取ってもらわないといけませんからね」


 地元では貰い手がいないほどなのか……コルトの場合少しくらいお転婆な方がちょうどいいだろう……たぶん。


 さて、一通りみんなの様子を見てみたが、ルーミンと私で作った料理は好評のようだ。量もたくさん作っているから足りないことは無いと思う。

 そして、男の子が女の子に一生懸命に話しかけていたり、女の子がかいがいしく男の子に料理を取っていたりする様子が見られた。雰囲気もなかなかいい感じだし、この夕食会は成功じゃないだろうか。




「それで、ルーミン。弟君も来ていたでしょ、どんな感じ?」


 ビントから来た男の子の中に、リムンとルーミンの一つ下の弟も一緒に来ていたのだ。ルーミンの実家にお風呂の設置することで仕事の目途が立ったから、お嫁さんを探しに来たということだった。


「あの子って、うちらとその下の弟に挟まれているでしょう。何にでも遠慮しちゃって……。いい子を捕まえてくれるといいんですけどね」


 ルーミンが指し示す先に座っているあどけない感じの男の子は、隣の女の子に声かけようとしているが、なかなかきっかけがつかめないようにも見える。みんな相手の気を引こう一生懸命だ。しっかり自分を主張しないと埋もれてしまうかもしれない。


 でも、あの子に隣に座っているのって……




「ねえ、コルト。あそこにコルトの妹も来ているじゃない。その子の隣にいる男の子ってどう思う」


 隣の子との話もひと段落ついて食事をしているコルトのところまで行き、コルトの妹と並んで座っているルーミンの弟について聞いてみた。


「あの子がどうかしたの?」


「工房のルーミンの弟なんだ。妹ちゃんに興味あるみたいなんだけど、奥手らしくて、うまく話せていないみたい」


 二人の様子を見ていたら、弟君の方はコルトの妹に興味はあるようだけど、うまく話ができない感じだったし、女の子の方は他の男の子から声かけられているのを面倒くさそうに返していたようにも見えた。


「美味しい料理も食べさせてもらっている、そしてルーミンにはいい子を紹介してもらった。その弟君なら間違いないだろう。今日帰ったら聞いてみるよ。俺に任せといて」


 うん、頼む。ルーミンの愛弟子はいい子のはずだ……たぶん。コルト頑張れ!






 その夜、バズランさんは夕方コルカから戻ってきたばかりのリュザールを引き連れ、私の家にやってきた。もちろん、リュザールと私の結納を行うためだ。


「それではタリュフさん。こちらが結納の品でございます。お納めください」


 バズランさんは、リュザールがこの日のために用意していた銅貨や麦、それに織物などを父さんに渡す。


「確かにお受けいたしました」


 簡単だか、これでリュザールとの結納も正式に終わった。後は結婚式を待つばかりになった。



「ふふ、なんか実感わかないね」


「うん、ボクもそう思う」


 結納のあとバズランさんを隊商宿まで見送った後、二人して笑い合った。来春の結婚式まではこれまで通りの生活だからね、実感できないのも仕方がない。

 というわけで、目の前のことからやっていかなくちゃ。まずは収穫祭だ、明後日が本番だから気合入れて頑張るぞ!


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あとがきです。

「竹下です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「ちゃんとやってるじゃん」

「はて? いったい何の話ですか?」

「俺たち偶然お祭りの二日目に行ったんだよね」

「!! テラのお話なのに僕が呼ばれるからおかしいとは思っていたんです。樹先輩に聞いて、つけていたんですね!」

「たまたまね。偶然だって言ったじゃん」

「あんなに人が多いのに偶然会うはずなんてないでしょ!」

「いや、偶然って本当にあるんだね。あの人込みでもすぐわかったよ。いい感じに唯ちゃんエスコートしてたよね」

「あくまでも偶然を装うつもりですね。いいでしょう乗ってあげますよ。女性をエスコートするのは男として当たり前のことですからね。別に他意はありませんよ」

「あんなに人が多いからさ、ずっと手を繋いであげていたりするのはわかるけど、急いでいる人とすれ違う時に抱き寄せてあげるとかなかなかできないよ。紳士だね」

「ぐっ、いいじゃないですかそれくらい。一応付き合っているんだから」

「最後もちゃんと家まで送り届けていたからさ、凪も感心していたよ」

「ね、姉ちゃんまでいたの!」

「もちろん、みんなで最初から見届けていたよ」

「やっぱりつけてたんじゃないですかー!」

「気づかないほど浮かれていたのかな。さて、次回更新のお知らせです」

「ちくしょー! 次回は収穫祭が始まります!」

「次回もよろしくお願いします」

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